窓から快適、リフォームレポート -神奈川県 Y邸-
立地 | 神奈川県秦野市 |
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住宅形態 | 木造一戸建 (1990年竣工) |
住まい手 | 夫婦+娘+孫1人 |
間取り | 3LDK |
リフォーム工期 | 2011年12月(1日間) |
窓リフォームに使用したガラス | エコガラス |
工事費用 | 約41万円 |
利用した補助金等 | 住宅エコポイント |
首都圏近郊にありながら、標高1673mの蛭ケ岳を始め1500m級の峰が連なる丹沢山地。Yさんご夫妻と娘さん親子、三世代4人のご一家が住む秦野市は、山々の緑と豊かに流れ出す幾本もの河川に抱かれるまちです。
結婚を機に小田原からこの地に移り「十数年住んだ建売を取り壊して、22年前にこの家を建てました」と奥様。ご家族の希望を出し合ってご親戚が設計したお住まいは、大きな出窓とたくさんの開口部、あちこちにゆとりをもたせた空間に加えて高い気密性をも備えています。
最大の悩みは結露でした。Yさんいわく「寒さは暖房機器でカバーできるけど、結露はそれができないんだよね。とくに雨戸のない出窓はすごいんですよ。毎朝必ず拭かなきゃならない」
サッシのレールに水がひたひたとたまるような状態で「カーテンの下もいつもびしょびしょ。サッシまわりの木枠が腐って建物が傷むんじゃないか、と心配でした」
窓をどうにかしなければ。頭の片隅でいつも気にしていたYさんご夫妻は、ある日キッチンリフォームのために訪れたショールームで、展示されていた内窓を発見します。しかしその印象は「えっ、こんなに出っ張るの?これはうちではできないな…」約7cmあったという張り出しが発生する二重の窓は、おふたりの選択肢にはなかったのです。
「ここで一度はあきらめました」と振り返るYさんがふと目にしたのが、地域情報紙に掲載された諸星硝子店の広告でした。秦野を本拠とする諸星硝子はY邸新築時の窓のほか、あとで増築したテラスの工事なども手がけた、Yさんにとって「前からよく知っている」ガラス店です。
「ちょっとだけ話を聞いてみようと」かけた電話に応えてやってきた諸星孝さんはご夫妻の意向を汲み、内窓をつけずにガラスだけを交換する窓リフォームを提案します。
2010年の暮れ、廊下やトイレも含め2階部分のすべての窓がエコガラスに入れ換えられました。
工事後の結露はどうなったでしょう。既存サッシを残した今回のリフォームでは「下の窓枠から20cmくらいの部分に少しだけ出ますが、ひと拭きふた拭きすれば大丈夫。前はガラス一面を流れてたまっていたから、これくらいは全然気になりません」。
結露自体に気づかない日も多くなったといいます。「毎日はやっぱりストレスだったよね。一度目についたらやっぱり全部拭かなきゃならないし」自分で根本的には解決できないことへのイライラがなくなりました、と、長年の結露拭き役・Yさんの笑顔です。
そして寒さは。娘さん親子が寝起きする部屋は西に大きな出窓があり、冷たい北西の風をまともに受ける部屋でした。工事後は「しん、とするような寒さがなくなったと言っていますね。私たちが寝室にしている東側の和室との温度差がなくなってきた気がします」とYさん。西日の熱も工事前とはまったく違い、感じなくなったそうです。
奥様は「暖房の効いた1階リビングから2階に上がっても寒さを感じなくなりました。寝る時はふとんをたくさんかけなくていいし、夜中にトイレに行くときも、何もはおらなくて大丈夫なんです」
ヒートショックの心配もなく、寒い時期でもちぢこまらずに、家のどこでものびのび動き回っている家族の様子が目に浮かびました。
予想外の効果もあります。2011年夏の電気料金が「領収証に打ち出された昨年同時期との比較で、8月で15%、9月で13%」下がりました。
15%という高い数値に思わず節電策を問うと「窓を換えただけで、あとはとくに何もしていないんですよ。照明器具もLEDにしてないし」とYさん。生活パターンはまったく変えていない、猛暑の時期には去年以上にエアコンをつけた気もする、とも。
意識的に暮らしを変えていないにもかかわらず、はっきり目に見える形で現れた省エネ効果。その理由はやはり、唯一変化があった「窓」と考えざるをえないでしょう。
防音効果も、窓リフォームのもうひとつのおまけです。
Y邸のすぐ北側には小田急線の線路が走っています。日中の列車走行音のほか、大きな問題は真夜中の保線作業。ふた月に1、2度はあると聞けば、かなりの頻度に思えます。
「最終電車の後に来るんです、1時半から4時頃までかな。結構すごい音でよく起こされましたが、今はそれがない。これは究極に違う気がします」
Y邸エコリフォームは、実はまだ道半ば。将来的には1階も…Yさんの目は未来に向かっています。
リビングの主役ともいえる大きな出窓は、網入りガラスかつコーナー部分のガラス同士が直接つきあわされているため、現時点ではシンプルなガラス交換が難しい状態。でも今後技術が進めば「いつか手だてができるはず(Yさん)」。奥様も「みんなが集まる場所だから、ここをやればまたずいぶん違うと思います」
内窓設置ならば、工事は今すぐでも可能なのです。けれど、お気に入りの出窓はやっぱり二重にしたくない、それならば気長にやろう…ここに住まい手の意思があります。
ご夫妻の住まいに対する愛情と冷静な考えは、ほかにも多くの場面で感じられました。
たとえば結露は拭き取りが大変なだけでなく、家の躯体や外壁の傷みの原因になることを認識した上で解決策へと向かいました。その一方で出窓を中心にデザインされた1階リビングでは、断熱効果はあっても空間的魅力に影響するかもしれない内窓設置をきっぱり見送っています。設備・構造・意匠それぞれへの目配りがしのばれる姿勢ではないでしょうか。
さらに思いは次の世代へ。
「自分たちだけで終わるなら何もしないけれど、次の代のためにやっとかなくちゃならないかな(奥様)」「木造住宅としての寿命はもちろんあるけど、途中で朽ちるよりはなるべくもたせられたらいいよね(Yさん)」
口々に語るおふたりの目は、リビングに飾られた来年1年生になるお孫さんの写真へと優しく注がれています。
住み継がれる家を守り、受け渡すために。そんなエコリフォームもある。日々の暮らしの心地よさをつくるとともに、またひとつ、エコガラスができることを教えられた気がしました。