窓から快適、リフォームレポート -広島県 H邸-
立地 | 広島県大竹市 |
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住宅形態 | 木造2階建 |
住まい手 | 母+息子夫婦+子ども1人 |
間取り | 5LDK(子世帯) |
リフォーム工期 | 2010年9~10月 |
窓リフォームに使用したガラス | 複層ガラス |
工事費用 | 約440万円(うち窓リフォーム約15万円) |
利用した補助金等 | 住宅版エコポイント |
日本三景・厳島神社を擁する安芸の宮島と、瀬戸内の海を隔てて指呼の間にある広島県大竹市。この地で長く材木を商ってきたH家のダイニングキッチンが、今回のエコリフォームの舞台です。
「この家は義母が嫁いできた約50年前に建替えたそうです。商売自体はその前からずっと」出迎えてくれたHさん(妻)が話すお住まいは、黒瓦の屋根と立派な破風をいただく玄関を持ち、堂々とした風格をたたえています。
30年前に一度改修された台所は、しかし家具も食器も50年前の状態が維持されてきました。
多くの人が出入りする家は食事の振る舞いも多く「たくさんの器や鍋釜、包丁もお玉も20本ずつくらい(Hさん)」と、今は使われないもので台所はあふれていたのです。
収納スペースは満杯で「毎日使うものは外に出しておくしかなかった」とHさん。義母の思い出がつまった道具を大切にしなければと思う一方で、日常の不便や背負った歴史の重さ、自身の家事スタイルと合わない部分が大きな悩みとなっていきました。
さらに、踏み台がないと手が届かない開けたてしづらい出窓や、角にデッドスペースができるL字型配置、床下が大きな物置きスペースになっていて断熱材もなく寒さがきびしいといった、全体的なプランや建物の構造にまで及ぶ問題もあり「それぞれはちょっとしたことでも、毎日続くとストレスになりますよね」。
旧い家を支えてきた存在感ある台所のエコリフォーム計画は、じっくりと時間をかけて進められ、2010年10月に完了しました。
「好きではなかったところを全部、理想どおりの形に変えていただきました」
Hさんが笑顔で語るリフォームは、古い道具類の廃棄からシステムキッチンの配置変え・天井高や開口部の変更・窓リフォーム・断熱工事・収納家具の入れ替えと、従来の姿を一変させる本格的な改修となりました。
時間の経過で全体が黒ずんだ台所を「白く明るいスペースにしたい」との希望どおり、収納戸棚やキッチン、壁、天井は白で統一され、ブロンズ系だった窓サッシの色もシルバーに変更。床とダイニングテーブルの木目が映える空間に。
モノの多さによる雑駁感は大きな収納で一掃。「中が見えると雑然とするので」ガラス戸のないものを選びました。
北向きだったシステムキッチンを東に配置変えすることで全体の雰囲気を一新し、吊り戸棚やシンクの高さもHさんの体格に合わせています。
単板ガラスだった窓は複層ガラスに交換し、床も天井も新たに断熱材を入れて寒さ対策を施しました。
「冬の寒さの質が変わりました。朝5時半に起きるのですが、以前のような"骨を切られるような寒さ"(笑)ではなくなったんです。工事後初めてのこの夏も、クーラーの効きがとてもよいですね。外の雑音も聞こえづらく、室内からの音漏れも気にしなくてすみます」
工事を担当したのは、新築・増改築の設計施工・リフォームも得意とするリファインおおたけの小城清二郎さん。
内装関連全般のほか、天井高を下げて断熱材を入れ、リビングとの境にある壁の一部を抜いて風通しを良くしました。勝手口を出る際に頭をぶつけやすかった東側の出窓を普通の窓にし、室内のドアの位置も少し変えるなど、家の構造レベルにまで踏み込んだリフォームを提案・施工しています。
「もとの建具とのバランスと、高すぎて部屋を狭く見せていた天井をどの程度低くするかに、主に力を入れました」と振り返りました。
エコポイントももちろん申請し、商品券に引き換えたそうです。
明るさと、一目ですべて見渡せることが何より気に入っています、とHさんが語るリフォームは、いくつもの変化をH邸に運んできました。
ひとつは、"ダイニングキッチンという場の持つ性格"の変化です。以前は調理と食事という必要最低限のことだけして「あとはそそくさと離れていく」ところでした。
リフォーム後、Hさんは今まで作ろうと思わなかった時間のかかる手の込んだ料理に挑戦するようになったとのこと。一方、夫は食事が終わってもダイニングテーブルでずっと漬物をつまんでいたり、一度部屋に戻った息子さんがまたやってくる…そんな場になったのです。
「やっぱり、居心地がいいんでしょうね」
以前は居間でしていた書きものや、友達を招いてのおしゃべりもすべてダイニングキッチンになりました、というHさんは、家族の変化の理由をそう分析します。「夫も息子も喜んでいます、ここにきて食事するのが楽しいみたい。もちろん私も」
変化はそれにとどまりません。
今まで家事を一切しなかった夫が戸棚から食器の出し入れをし、コーヒーやお茶を入れ、ときにはお米まで研いでくれるようになったというのです。
息子さんも、以前は食べっぱなしだった食器を洗いボウルに入れて席を立つようになりました。
この劇的な変わりようを小城さんいわく「僕も自宅を改修したときに思ったんですが、行きやすくなるんですね、変なバリアがなくなって。この状態を維持したいな、という気持ちも出てくるし」。
快適になったダイニングキッチンが、家族にとっての食事や炊事を今までとはずいぶん違ったものにしたのでは? そんな気がしてきます。
「食器も新しくなり、友達も呼べるようになって大正解です。リフォームに携わってくださったすべての方に心から感謝しています。大事にきれいに使わなければと、シンクやカランを磨く手にも自然と力が入るんですよ」
楽しげに話し続けるHさんの声を聞きながら、ふと「リフォームで一番変わったのは、Hさんの気持ちとそれを感じ取ったご家族かもしれない」と思いました。
家の歴史と自分たちの暮らしとのはざまで、そのギャップを象徴する台所に立ち続けてきたHさん。長く抑えてきた思いにこたえた明るいスペースは、大きな喜びをHさんに贈りました。夫として息子としてこの笑顔を守りたい…そんな思いが生まれるのもまた、ごく自然ではないでしょうか。
旧き家に舞い降りた白いダイニングキッチン。そこには新しい家族の絆が、明るくあたたかく、灯っていました。