事例紹介/リフォーム

鎧を脱ぎ、人生を蓄える。家(うち)は快適でなければね

窓から快適、リフォームレポート -シンプルモダンなエコリフォーム 東京都 崔 洋一邸-

Profile Data
立地 東京都世田谷区
住宅形態 鉄筋コンクリート造3階建コーポラティブハウス(2003年竣工)
住まい手 夫婦
リフォーム工期 2010年9月/同12月
窓リフォームに使用したガラス エコガラス(アタッチメント使用)
利用した補助金等 住宅版エコポイント

鎧を脱ぎ、人生を蓄える。家(うち)は快適でなければね



大開口と天窓で採光は満点。でも「冬寒く夏暑い」コンクリートの家

『月はどっちに出ている』『クイール』『カムイ外伝』などの作品で知られる映画監督・崔 洋一さんのお住まいは長屋型式のコーポラティブハウスです。2010年の夏と冬の2回に分けて、窓のエコリフォームを行いました。


メゾネットタイプ3階建の中心に位置するリビングは、南全面が開口部。さらに全階を貫く階段室は最上部の天窓から光が落ちるライトコートになっています。
両脇を隣家に挟まれているにもかかわらず「ロールカーテンで少し遮るくらいでちょうどいい」ほど採光に恵まれた空間は、間仕切壁がなく風通しも良好です。


「ということは、冬は寒い以外の何ものでもなくてね(笑)」と崔さん。
2003年の住まい始め以来、大開口からの冷気を我慢しつつ、もっとも寒い時期はエアコン・床暖房・こたつをフル回転していたとのこと。
同じく全面開口の寝室では、窓辺に観葉植物を屏風のように並べて「断熱」したそうです。


夏は夏で、南の窓からの直射日光+天窓から入る日射熱が室温を上げ、就寝時を含めて終日クーラーをかける日が続きました。


そして8年目の初夏、板ガラスフォーラムでの講演をきっかけにエコガラスによる窓リフォームの実際を知って、崔さんのエコリフォームが始まったのです。


我慢のいらない快適さと空間デザインの魅力を両立

リビング南側全面の窓リフォームは数時間で完了。
既存のサッシと合わせ、シルバーのアタッチメント付エコガラスを装着。
大開口とともに採光を担う階段室。1階玄関から3階寝室まで連なる階段にFRPのグレーチングを使い、最上部の天窓と高窓から射し込む光が遮られずに落ちてくる。

2度の工事は、夏の終わりに3階寝室の窓、初冬にリビングの開口部で行われました。どちらも既存サッシを生かしてガラスのみをエコガラスに交換する窓リフォームです。

その後に迎えた冬、寝室では観葉植物の屏風が姿を消し、オイルヒーターの設定温度は下げられました。
寒さを感じず、しかし暖かすぎることもない今の寝室を、崔さんは「僕にとって本当に快適ですね。東京育ちなので、北海道のように部屋が暖かすぎるのはダメなんですよ」

大開口からの冷気をシャットアウトしたリビングでは、床暖房+うっすらとエアコンを回すだけで暖かさが保てるようになりました。
こたつを置いていた頃は「一杯飲んでご飯食べて寝ちゃうこともありましたが、それはほとんどなくなりました」とのこと。

一方、まだリフォームしていない階段室の天窓からは今でも冷気が降りてきます。
リビングとの間に仕切壁を設ければ快適さは増しますが「開放的な設計を生かしたい」との思いでそのままに。空間の魅力も保たれたリビングです。
ちなみに天窓脇の高窓は、次の夏が来る前のガラス交換を検討中。

他の住戸にある天井付けのサーキュレーターも、特徴的なライトとの相性を考えて設置していません。「このライトは正解だと思っています。」
快適さが常にすべてに勝るとは限らない。デザインもまた住空間の大きな要素であることを、改めて思い起こさせてくれる崔さんの言葉でした。


シンプルモダンな暮らしにフィットするエコガラス

さい・よういち●1949年生まれ。映画監督。83年「十階のモスキート」でデビュー、その後「月はどっちに出ている(93年)」「血と骨(04年)」等で毎日映画コンクール、キネマ旬報賞、ブルーリボン賞など多数の映画賞を受賞。現代日本を代表する映画監督の1人である。

エコリフォーム後、暖房費は前年同月より2万円安くなりました。エコポイントも申請し、商品券に交換する予定とのこと。
しかし崔さんは「エコとは、コストパフォーマンスがすべてではありません」と言います。

「快適な暮らしは大事で、そのためには費用がかかるんです。やっぱり、ある程度人間の知恵と力とお金をかけないと自然は守れない。
今回のリフォームも経費を取り戻すには時間が要りますが、そういう問題ではないことに気づかされました。
誰もが良い環境で暮らせることが、実は全体の省エネにもつながると思いますね」

RC打ち放し・箱形の家を選んだ崔さんの、住まいに対する思いは「とにかくシンプルでいたい」。
「単純な美しさと暮らしの上での合理性を持つ、それが「シンプルモダンな家」だと思うんです。そんな家をつくっていく上で、エコガラスは強烈な武器になる。基本さえしっかりしておけば、余分なものを足さずにすみますから」。
エコガラスの窓で快適さを確保すれば余計な暖冷房器具はいらない、お気に入りのカーテン1枚あればいい…わかりやすい言葉に、思わずうなずきました。

家に帰ることは自分にとって非常に大切、とも。
「僕の場合、仕事つまりパブリックとプライベートを切り分ける、切り替えるために場所を変わる。仕事は家には持ち込みません」
家にパソコンはあっても、考えるのもシナリオ書きもすべて仕事場で行うといいます。

「素に戻れる場が、人には必要だと思うんです。仕事だけでなく自分の根本、人生全体の蓄えを置いておく場が。僕にとってはそれが家(うち)ですね。
帰ってきてグダグダして好きな本を読み、音楽を聴いて、そしてまた出発する。そこはやっぱり快適でないとね。家は、鎧を脱ぐ場所なんです」

映画製作の戦場から帰り、武具を解いた心と体をゆだねる大きな窓とコンクリートの空間。それはシンプルで暖かくそしてかけがえのない「崔さんのうち」でした。


AGC 硝子建材(株)

取材・文:二階幸恵
撮影:渡辺洋司(わたなべスタジオ)
エコリフォーム成功のポイント
  • 重要度の高い部分から段階的に工事を実施
  • 空間デザインを犠牲にしない視点を保つ
  • 快適な環境に必要な「費用」の認識

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