窓から快適、リフォームレポート -大規模リノベーションのエコリフォーム 静岡県 K邸-
立地 | 静岡県静岡市 |
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住宅形態 | 木造2階建2×4(1988年竣工) |
住まい手 | 夫婦+子ども1人 |
間取り | 2LDK+和室 |
リノベーション工期 | 2010年2月~6月 |
窓リフォームに使用したガラス | LowーE複層ガラス/遮熱LowーE複層ガラス |
エコポイント発行 | 30万ポイント(窓/壁・天井・屋根・基礎断熱) |
静かな住宅街のつきあたりに、白壁と急勾配の屋根の家が見えてきました。Kさんご一家の新しい住まいは、既存建物を大規模に改修したリノベーション住宅です。
JRと静岡鉄道、2本の鉄道駅が利用できる立地が魅力だったというKさんご夫妻。既存住宅が建ち上がっている土地を購入した当初の思いを、奥様は「古いのを買ってしばらく住み、子育てが一段落して私が働き出したら、全部つぶして新しく家づくりをしようと考えていました」と話します。
大規模改修は「一切考えていなかった(Kさん)」というご夫妻の気持ちを動かしたのは、この土地と建物のもとの所有者で2×4住宅づくりの専門家である静岡三基(株)の伊豆川さんでした。
「建物は1981年の新耐震基準制定後のもので躯体に問題がなく、もったいないという気持ちがすごくありました。以前のお住まい手から買い取った後、なんとかリノベーションしたいと思い続けていて」。壁の量や位置も、部屋を細かく区切らない現代的なプランニングへの変更が可能な状態でした。
そこで伊豆川さんは3つの提案を試みます。水まわりのみのミニマムなリフォーム、間取りを変えずに内窓設置などを行う内装リフォーム、そして建物の躯体のみを残し、間取りを含めて全体を新築同様にする完全なリノベーション。3つ目の案は高額ですが、それでも新築と比較すれば少なからずローコストな計画です。
ご夫妻と伊豆川さんは毎週のようにミーティングを重ね、最大の不安材料だった耐震性を始め、空間性と間取り変更の実際・採光と風通し・断熱など、改修した場合に考えられるあらゆる疑問や不明な点を解決していきました。
半年後、ご夫妻は3つ目の提案である大規模リノベーションを選択。築22年の2×4住宅は、現代のエコ住宅へと見事な変貌を遂げたのです。
「圧迫感のない広さがあり、明るくて風通しの良い家」という住まい手の基本的な希望に沿いながら、四季を通じた温湿度などの室内環境や省エネ効率を含む作り手のアイディアも盛り込まれて、出来上がったのは中央に吹抜けを持つオープンプランの家でした。
1階は窓の少ない北側にユーティリティスペースを集中。南側は中央の構造壁を残しつつ間仕切り壁は取り払ってLDKを配置しました。リビングの外側にはウッドデッキをつけ、吹抜けとともに縦横両方向の開放感を生み出しています。
地元のバスケットボールクラブの選手として週末ごとに試合に出る、というスポーツマンのKさんは「毎日家でストレッチをするんで、広い場所が欲しかったんです。畳コーナーもある大きいリビングはありがたいですね」。上背もあり「吹抜けがあると圧迫感が少ないです」とニコニコ顔です。
リビングがいちばん好きとおっしゃる奥様も「家族や友達みんなでいられていいですね。吹抜けの高い窓から光もこぼれてきて明るいし」と、ワンルームへの間取り変更に満足げ。寝室と子ども部屋を2階にし、さらに小屋裏を物置きとして活用することで、家具も少なく広々とした空間となりました。
躯体全体のバランスを取り直し、壁の内側からも耐震補強を施して成功した、一般的に2×4住宅では難しいとされる間取り変更とオープンプランニング。しかしリノベーションはこれだけに終わりません。
快適な室内環境をつくるため、窓をはじめ徹底した高気密・高断熱化が図られたのです。
夏暑くて冬寒い・冷暖房した部屋だけが快適・立ち上がると頭は熱いのに座っていると寒い…日本の多くの住宅では、こんな状況が少なくないのではないでしょうか。
温暖な土地といわれながら、実は静岡の家は冬寒いのが定説、と伊豆川さん。「基本的に"我慢する生活"ということですが、オープンプランニングの家でこれをやると致命的になっちゃいます」と話します。
小さい部屋がないため家全体で室温調整を考えなければなりませんが、単純な冷暖房では光熱費が大変な額になるのは明らか。そこでは高い断熱・気密性能が求められるのです。
計画当時を振り返り「窓がいちばん大事、窓を換えないとリフォームにならない!(笑)って、最初に教わりました」と、奥様。
改修では、熱の出入りがもっとも激しい開口部をすべてLowーEガラスと樹脂サッシで固めました。とくに南と西に開いた窓には遮熱型のLow-Eガラスを採用し、静岡の暑い夏や西日にも配慮しています。
基礎・壁・天井・小屋裏と、建物の外皮にはすべて高性能の断熱材が厚く入れられました。さらに高気密化に合わせ、室温は変えずに空気を清浄に保つ24時間換気システムも取り入れています。
冷房について、Kさんは「前の住まいよりずっと広いのに、すぐ効く気がしますね」。
取材当日、35㎡ほどもある1階LDKでは、以前の住まいから持ってきた12畳用のエアコンと扇風機が1台ずつ動いていましたが、8月半ばの猛暑にもかかわらず温湿度計の値は28度と55%。第2子の出産を控えた奥様の体にもやさしい快適さが保たれていました。
電気料金も、終日冷房していた7月で約7000円。省エネ性も実証済みといえそうです。
K邸リノベーションでは、質の良い既存住宅の躯体を最大限に生かしながら、中身は新築同様、現代の生活スタイルに合致する快適な住空間がつくられました。
さらにその環境性能にいたっては新しい技術や素材が随所に利用され、エコ住宅の先端をいくレベルともいえるでしょう。
申請した住宅エコポイントは、窓で15万ポイント、断熱で同じく15万ポイントと満額が発行され、商品券に交換しました。
静岡県内のご家庭にエコリフォームを推進する目的で設立された静岡県エコリフォーム推進協議会の事務局を担当している静岡県地球温暖化防止活動推進センターの萩原健太郎さんによれば「リフォームにより、新築と同等の快適さを得られるまさに教科書のような事例ですね」とのこと。
現在、日本全国の空き家は760万戸以上にのぼるといわれています。
その中に含まれたまだ十分に住める家が、簡単に取り壊されず、改修によって現代的な暮らし方に合う空間や性能、快適さを備えた「新しい住まい」として再生し、地球環境の保護にも役立つとしたら…それは理想的なエコ住宅のひとつの姿ではないでしょうか。
「安易に壊さないということが選択できてよかったと思いますし、それを広く伝えることができればもっといいなと思います」
理解してくれたKさんに本当に感謝している、と語る伊豆川さんの言葉に、新たに広がっていくエコリフォームの地平線、可能性を思いました。