窓から快適、リフォームレポート -四半世紀ごしのエコリフォーム 神奈川県 荒井邸 戸建て-
立地 | 神奈川県横浜市 |
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住宅形態 | RC4階建店舗付住宅(1984年竣工) |
住まい手 | 夫婦+子ども2人 |
間取り | 洋室3・和室2・リビング・DK・ミニキッチン・サンルーム |
リフォーム工期 | 2009年11月(2日間) |
工事費用 | 断熱改修255万円 |
窓リフォームに使用したガラス | エコガラス(アルゴンガス入り) |
利用した補助金等 | 省エネリフォーム減税(固定資産税の減額) |
商店街の一角に、ベージュの外壁にたくさんの窓を施した建物が1軒。今回のエコリフォームの舞台となった住宅は、周囲と比べてもかなり個性的なたたずまいでした。
住まい手の荒井務さんはこの町で生まれ育ち、現在は鍼灸院を開業しています。
「25年前、自分たち4人家族で暮らしていた家に母とその姉を加えた6人で住むことになって」それまで住んでいた木造2階建の家を、二世帯で使えるようにと現在のRC4階建に建替えました。今はご夫婦と2人のお子さんの4人暮らしです。
1階は鍼灸院のほかに貸店舗と倉庫が入り、2階から上が居住スペースになっています。
新築時、荒井さんは両脇の建物と壁を接する状況を考え、真南にあたる建物正面の角に窓をつけるよう注文しました。その意図を汲んだ設計者は、より多くの採光をとるために建物をずらし雁行させることを提案。コーナー部分はガラスを直接つき合わせ、東南方面からの光をまんべんなく室内に取り込めるようにしました。
コンクリートの壁の内側には断熱材を入れ、床暖房も完備して、明るく暖かい家をめざしたのです。
しかし実際に住み始めてみると、さまざまな不具合が表れてきます。中でも問題だったのは激しい結露でした。「ガラスやサッシについた水滴が流れ落ちて、床までびしょびしょ。テープを貼っても雑巾を置いても間に合わないんです」
壁の断熱材や床暖房で暖まりやすい室内の空気と、外の寒さに直接冷やされる単板ガラスの窓との大きな温度差が、その原因でした。
同じ理由で起こるコールドドラフトも大きな悩みに。窓際から床に流れる冷気はとくに就寝時の体にこたえ、苦肉の策で「窓の下半分を段ボールで覆っていました」。
実は新築当初から、荒井さんは複層ガラスの窓を入れたいと考えていたといいます。「木造の家のときから結露のことは気づいていたので、建替えるとき『二重ガラスにできないか』と建築やさんに相談したんです」。
しかし、当時の日本で複層ガラスの窓が一般的に使われていたのは北海道だけ。値段も高価で「関東でそんなムダなことやる人いないよって言われちゃって(笑)」泣く泣く諦めた経緯があったのです。
それまでエコガラスのことや、アタッチメントを使ってガラスだけを交換する窓リフォームがあることを知らなかったという荒井さん。
「窓枠を全部取り替えなきゃいけないんだと思っていました。内窓は考えていなかったし。加藤さんに会って、既存の枠を生かしてインナーだけ取り替える方法があるのを初めて知ったんですよ。これならやれる、とピンときました」
さっそく家じゅうの窓をエコガラスに換えようと決心しました。
とにかく一度家を見に来てほしい。荒井さんに依頼され足を運んだ加藤さんは、その独特な外観を目の当たりにして「正面からトップライトまで含めて、思った以上に窓が多い」と感じたと言います。
エコリフォームはそれから数ヶ月後の11月。個性的な建物にふさわしく、その工事もまた通常なかなか見られないやり方でした。
最大の特徴は高所作業車が使われたことでしょう。建物正面の雁行する窓のガラスが外側からサッシにはめこまれていたため、室内側からの交換ができなかったのがその理由。加藤さんもめったに採用しない方法であるのに加えて、建物のすぐ近くまで電線が伸びており、気を遣う工事となりました。 「1枚だけのガラス交換だったら梯子を使うところですが、全部で16枚もありましたから」費用と作業効率のバランスを考えて作業車使用に踏み切りました、と加藤さん。
室内側でガラスを支えて位置を調整しつつ、外の作業車から窓枠にはめこんでいく工事は8人がかりだったとのこと。「無茶な姿勢でやってました」と加藤さんは笑います。
さらに、最上階に2 枚並んだトップライト部分は高所作業車も使えず、足がかりのほとんどない場所で命綱をつけてのガラス交換となりました。「あれは大変だった」と荒井さんが振り返れば、加藤さんも「こわかったですねえ(笑)」。
決して簡単ではなかった工事は、それでもたった2日間で見事に終了。
その後迎えた冬は、あれだけ悩まされた結露もなく、コールドドラフト対策だった段ボールは外され、石油ストーブの灯油消費量も減ったといいます。
エコガラスの効果を強く感じたのはどこ? の問いに「リビングや寝室の暖房効率が上がったのはもちろんだけど、そのほかに鍼灸院の方の保温効果が高くなりました」と荒井さん。
仕事場である1階の診療室では、流しのある北側の窓をエコガラスに交換。工事後は、一年中途絶えることがなかった結露とそれに起因するカビが消えたのはもちろん、朝、居住スペースから降りてくると「ゆうべ暖房を消し忘れたかな?」と思うほどに室内は暖かさが保たれているそうです。
ガラス交換に合わせて診療室の扉を断熱ドアに換えたことも、保温に一役買っていますよ、と加藤さんが付け足しました。
こうして、25年前は「高嶺の花」だった複層ガラスの窓は、エコガラスへとその姿を発展させて荒井邸にやってきました。
長年の思いを実現させたのが、快適な住環境につながる技術や素材に注意を払い続け、よい施工者と巡り会った契機を逃さずにリフォームを決断した荒井さんの姿勢であることは、いうまでもありません。
リフォーム時を思い出しながら談笑する荒井さんと加藤さんの間には、終始気の置けない信頼感が感じられます。
新築時には独学で間取りを学び、趣味は日曜大工と、設備やものづくりに関心の深い荒井さんと、それぞれの建物の状況や施主の意向をふまえて素材や施工方法を検討し、窓やドアのプロとして常に最良の解を導き出そうとする加藤さん、互いに相通じるものがあるのでしょうか。
高い建物、室外からの施工、コストと時間。決してやさしくはない状況下での工事を、住まい手と施工者それぞれの高い意識が成功に導いた…荒井邸の窓リフォームは、そんな貴重な例のひとつでしょう。
楽しげに続く荒井さんと加藤さんの会話を聞きながら、エコリフォームの新たな可能性にまたひとつ、出会った気がしました。