窓から快適、リフォームレポート -
ポジティブ・エコリフォーム 快適さアップ、冷暖房費は月々5000円ダウン 群馬県 Y邸 戸建て-
立地 | 群馬県高崎市 |
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住宅形態 | 木造一戸建(1987年竣工/2002年一部改修) |
住まい手 | 夫婦 |
間取り | 5LDK+和室 |
リフォーム工期 | 2007年6月~7月 |
工事費用 | 断熱改修255万円 |
窓リフォームに使用したガラス | ペアガラス |
利用した補助金等 | 2007年度NEDO断熱リフォーム補助金制度/補助金額85万円 |
高崎駅ほど近くの赤い屋根の瀟酒な家。江戸時代から先祖が住んできた土地に、Yさんご夫妻が23年前に建てた住まいが今回の主役です。
「きっかけはガス給湯機の故障と水まわりの老朽化です。改修するなら冬暖かく夏涼しい快適な家にと思って」...と、ごくオーソドックスないきさつで始まったY邸のエコリフォーム。その過程はポジティブで個性的なものでした。
工事依頼先候補の3社に対してご夫妻が示したのは、コピー用紙数枚の『自宅リフォーム見積り依頼書』。しかしその中身は、全体の概要からすべての改修箇所、設置機器の具体的な仕様、コンセントの位置にいたるまで、施主としての意図や希望が詳細に書かれた、本格的な『リフォーム原案書』だったのです。
受け取った工務店が「こんなの初めて見ました」と目を白黒させたというこの原案書は「各社に同じ条件を示さなければ見積りの出しようがないだろう」というご夫妻の考えが形になったものでした。リフォームを決めたのち、おふたりはそろって本を読みあさり、群馬県内の主だった住宅展示場をくまなく回り、メーカーのカタログを取り寄せては「猛勉強しました(Yさん)」。家づくりのプロに対し住まい手が投げかけた「意志表明」ともいえる原案書は、こうしてできあがったのです。
とはいえ、毎日眉間にしわを寄せていたわけでは決してありませんでした。
それどころか「家のことを考えると楽しいですよ。お金の制約はあるけど、その中で自分たちの基本線、こんな家にしたいというコンセプトを出して、それに沿っていろいろと考え、実際に見て歩いたんです」という奥様のことばからは、原案書づくりが「楽しみながら主体的に自分の家をつくっていく」充実した時間だったことがうかがえます。
そんなおふたりに、プロとしての知識や技術でこたえたのが、健康住宅や断熱改修に取り組む(株)アライでした。
「高気密高断熱化で冬暖かく夏涼しい家」は、計画当初からのY邸エコリフォームのメインテーマでした。
というのも、23年前の新築時に、Y邸では浅間おろしが吹きつける土地の寒さを見越して全館ガス冷暖房を採用。しかし効果はあまり上がらず、結局は部屋ごとに石油ストーブを置いていたのです。それでも朝方の寝室の室温は3°Cまで下がり「寒くてもうたまらない」毎日だったそう。
リフォームについて研究する中で、開口部を通じた熱の出入りが室内環境に大きく影響すると知ったご夫妻は、既存の窓を生かしつつローコストで確実な効果が期待できるとして「内窓の設置」を決定。原案書に「浴室とキッチンを除く全19箇所の窓に複層ガラスの内窓をつける」と明記します。
さらに、広々として気持ちがいい反面冷えやすいエントランス空間は、玄関まわりを扉から両袖のガラスまでそっくり高断熱仕様のものに入れ換えて、断熱性を高めることにしました。
これで断熱は大丈夫。あとは暖房機器を電気蓄熱暖房機に変更、IHクッキングヒーターを設置してオール電化、水まわりはシステムキッチンとユニットバスを新品交換すればリフォームはほぼ完了!
これが当初のご夫妻の心づもりだったそうです。
しかし、ここで施工者から「高断熱高気密には、内窓だけでは足りません」というの一言が発せられます。在来工法の木造住宅では当たり前とされてきた壁内の空気の流れが、実は屋根裏や床下の冷たい空気が室内に入りこむ道筋になっており、これを遮る「気流止め」を家の継ぎ目に入れることが必要、とのアドバイスでした。
この説明を聞き納得したご夫妻は、内窓のほかに要所要所の気流止めと天井裏の断熱工事、さらに気密性の高まった室内の空気を清浄に保つ通風装置の設置に同意します。
プロの提案はこれだけにとどまりません。
今回のエコリフォームにあたり、ご夫妻は県や市による補助金の利用を考えていました。しかし施工者のアライからは、工事内容と連動していてより有利なNEDOの補助金を申し込んでみては、との情報がもたらされたのです。
申請は無事通り、断熱工事にかかった費用の3分の1を補助金として受け取ることができました。
エコリフォーム後のY邸をひとめぐりすると、リビングをはじめとする全居室から廊下までペアガラス+木目調サッシの内窓が設置されているのがわかります。浴室・洗面・キッチンは白いサッシのペアガラス窓に交換しました。
1階のダイニングキッチンには、夜間電力を利用する電気式蓄熱暖房機が鎮座しています。リビングに補助的なエアコンがあるものの、ふだんの暖房は家じゅうでほぼこれだけ。各部屋の扉を少し開けておけば、暖められた空気がDKから流れて届き、内窓の断熱効果で室内の熱が保たれるしくみです。
取材時は曇った真冬日でしたが、北側の洗面やトイレも含めて家の中で寒さを感じる部分はありません。広いエントランスも、玄関まわりをペアガラスで固めたことで断熱性能が高まり、ヒンヤリ感もなく快適。蓄熱暖房機1台でここまでできるのかと、正直驚きました。
具体的な省エネ数値を聞くと「改修前の冷暖房費は、灯油・ガス・電気で年間の月平均1万7700円。改修後は電気だけになって、月1万2500円。約29%削減で、前より暖かいんだからねえ」とYさん。ひと月の出費が5000円以上抑えられたことになります。
さらに奥様が「灯油を入れる手間やガス栓の閉め忘れ、空気の汚れとかいろんな心配がなくなって、安心安全なんですよ」と言い添えました。定年後の暮らしの重要項目のひとつとして、さまざまな不安の解消をも考える、これはよい例ともいえそうですね。
もうひとつ、Y邸で目につくのが温度計です。
「置いてみてください、とアライさんに言われてね。測った温度をパソコンで表にしてくれたりして、私たちも意識するようになりました。家じゅうあちこちに温度計を置いて、温度や湿度をいつも気にかけて暮らしています。外気をうまく取り入れる窓の開け閉めの仕方も教えていただきました」
朝起きたら一番に温度と湿度を確かめる。室温に合わせてこまめに窓を開けたてする...エコリフォームを機に施工者の提案がもたらした新しい習慣も、快適さの維持に大きな役割を果たしているようです。
メインの温度計がかかり、ご夫妻が「リビングキッチン」と呼ぶダイニングは、大きなテーブルでくつろぎながら新聞やテレビを楽しみ、親しい友人を迎え、お勝手にもすぐ立てるという、Y邸の中心スペース。
足元に置かれた蓄熱暖房機の放つおだやかな暖かさが「こたつを使わない生活をしようと思って」と話すおふたりの、身軽なライフスタイルを支えています。
さらに隣室に続くガラス戸を引けば、リビングの大きな掃き出し窓を通してここからも庭の緑が眺められるのです。
「居ながらにして外が見えるっていうのは気持ちがいいよね」Yさんのことばを待つまでもなく、一日の多くをここで過ごすのも当然とうなずける、居心地の良い場所になっています。
住まい手が自ら学び、主体的につくりあげた「自分たちの新たな家」のコンセプト。その意志を受けとめ、足りない部分を補いながらプロの仕事を行った施工者。
双方のエネルギーと信頼関係が融合し結晶化したY邸のエコリフォームは、もともとの建物のつくりの良さも手伝って「あと50年は持つ」できばえとなっています。
すべての基礎となった原案書を手に「自分の家のことだから、楽しくできました」と語るおふたりの笑顔に、快適な住まいのつくり手が本当は誰なのかを、教えられた気がしました。