事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜中庭を向く大窓が明るさと非日常をつくる〜

開口部にこだわった新築レポート -福井県 I邸-

Profile Data
住宅形態 木造地上2階建
住まい手 夫婦+子どもひとり
建築面積 114.23m2
延床面積 179.72m2(含駐車場2台分)



今月の家を手がけた建築家:丸山晴之(丸山晴之建築事務所)


閉じた外観から一転、開放的な中庭型の家

南向き角地に建つI邸は、2面を接する道路からの視線を考え、外壁を巡らせたスタイル。三角に抉られた部分には浄化槽のマンホールが並ぶ。「メンテナンスも考えて中庭には入れず外に出しました」と、設計を担当した丸山さん
黒いタイルの床に白いテーブルや流し台を配置したダイニングキッチンは、東向きの壁ほぼ全面を覆う窓で中庭と向かい合う。玄関扉の手前から延びる廊下沿いには和室と水まわりを配置
脱衣室や浴室も掃き出し窓付きで明るい。中庭向きで周囲からの視線もなく安心。「洗濯物は一年を通じてここに干します。窓を開ければ風がよく通ります」と奥様
南向きの大開口を持つリビング。片流れの天井の勾配が中庭を囲む外壁に連続し、正面の切り欠きを形成して眺望を確保している。現在は工事中の視線の先は、ゆくゆくは公園となる

2014年に日本総合研究所が発表した『全47都道府県幸福度ランキング2014年度版』で堂々の1位に輝いた福井県。手すき和紙や眼鏡、漆器などのものづくり、永平寺や東尋坊といった景勝地、若狭湾の豊かな海の幸など多くの宝物をもつ土地です。

Iさんご一家の住まいは、福井市内でも新興住宅地として人口が増え続けているエリアに立地しています。ガルバリウム鋼板の外壁で囲われ、切り下げられた角部から2階の窓がちらりと見えるその外観は、周囲の視線からプライバシーが守られていることを感じさせました。

「2面に道路が走り、1階レベルが周囲に開きにくい敷地です。眺望は2階で確保しようと考えました」と話すのは、設計を担当した丸山晴之さん。中庭に向かって建物が開くL字型プランとし、大きめのリビングとダイニングを中心とした家づくりとなりました。

玄関扉を開けるとすぐ、中庭に面した大きな窓と、タイル張りのダイニングスペースが広がります。小さなお子さんがいる家とは思えない整然としたモノトーンの空間は<生活感をあまり出さず、シンプルな中に緊張感とある種のラグジュアリー感を持つ>という住まい手の住宅観が体現されています。

ダイニングから延びるアカシア材フローリングの廊下沿いには障子とガラスの欄間のある和室があり、その先に脱衣室、浴室と水まわりが続きます。どれも窓越しに中庭をのぞんで明るく、閉じた印象の外観から一転して開放的な雰囲気です。

玄関脇の階段を上った2階には主寝室と子ども室、そしてメイン空間であるリビングが配置されました。
約20m2のリビングは、家族がもっとも長い時間を過ごす場所です。中庭を向く南側ほぼ全面を窓とし、豊かな外光と、逆三角形に切り下げられた外壁越しの眺望とを獲得。日が落ちて灯りがつけば外部からも住まい手の気配が感じられるこの窓は、I邸の表情を伝える隠れたファサードといえるかもしれません。

また、L字型平面の中央部にあたる吹抜けで1階ダイニングとつながっており「子どもの遊んでいる様子や声が、下にいてもよく聞こえますね」と奥様。姿が見えなくても安心していられます、とにっこりしました。

「私たちの心の中だけにあったイメージに丸山さんが形を与えてくれた。まさにそんな家なんですよ」Iさんの言葉です。


ガラス・設計・断熱材。絶妙なバランスが快適さを生む

ダイニングとリビングをつなぐ吹抜けは、もっとも高い部分で6mを超えるが、住まい手に寒さの感覚はない。夏場は上部のシーリングファンを強めに回して、2階に熱気がたまらないように家中の空気をかきまわす
FIXと引き違いを組み合わせ、中央部分のサッシ枠を柱で隠したリビングの窓は高さ2m幅5mの大開口。中庭側に延びるデッキは、1階水まわりの屋根部分にあたり「夏は花火がよく見えます」遠くに見える建物は九頭竜川のほとりに立つ配水塔。夜間はライトアップされ、楽しい眺めとなる
縁側にも見立てられる廊下をはさんで中庭と向かい合う、ガラスの欄間付きの和室。畳の足触りは子どもの裸足にもやさしい。壁はI邸のテーマカラーのひとつである紫を基調に、和の色味で仕上げた
リビングより下階を見下ろす。ダイニングの上部は子ども室で、現在はIさんが仕事スペースとして使用。入口部分がキャンチレバーで吹抜けに突き出し、軽い浮遊感覚がある
ダイニングの窓は朝日を真正面から受ける東向き。採光は申し分ないが、食事時などまぶしさを強く感じる際にはカーテンを引くことも

I邸の窓はすべてLow-Eガラス(エコガラス)が採用され、位置によって断熱型と遮熱型が使い分けられています。ほかにも壁の断熱材は調湿性能にすぐれるセルロースファイバーを使い、屋根も二重構造にするなど、室内の温度や湿度面にきちんと目配りした住宅なのです。
これらは「寒い家、結露のある家にはしたくない」という、設計当初からの施主の強い思いで実現しました。

冬の室内環境を尋ねると「ここに住んでから、よその家に行きたくなくなりました。寒いから(笑)」とIさん。この家で過ごす家族の快適さが伝わってくる言葉です。

中央に吹抜けもあるI邸は1、2階に床暖房と5台のエアコンを備えますが、実際に使っているのは真冬もほぼ床暖房のみ。一番低い温度設定で24時間稼働させています。
「これで十分。床暖房のない寝室や書斎にも暖気は流れてきます。朝も普通に起きられるし、お風呂上がりも寒さを感じることはありません。熱が逃げないからだと思いますね」

居室は2面採光が基本で、さらにリビングやダイニングなどのメインスペースでは、FIX窓と引き違い窓を組み合わせて大開口をつくっています。
大きな窓は採光や開放感の演出に効果的ですが、その一方で冬の冷たい空気や真夏の熱など外気の影響が真っ先に室内に入り込む箇所でもあります。
しかしIさんいわく「大きなガラスで寒くなるのでは、というのは杞憂でした。ほんとにひんやりしないんです」奥様も「雪が降ると、すごいねえって子どもが窓にぺったり手をついて中庭を見ています。ガラスが冷たくないんでしょうね」

取材に訪れた日の福井市の気温は3℃ほどでしたが、室内を表面温度計で測ると窓面は18〜20℃、壁面は22℃。周囲の表面温度が15℃を切ると人間は寒さを感じやすくなるという指摘もありますが、走り回って遊ぶお子さんは裸足でした。

結露も、入居以来一度も見ていないといいます。
晴天が少なく、終日湿った雪やあられ、みぞれなどが降りやすい福井の冬は、除湿器を使うのが定番です。しかし取材当日のI邸の室内湿度は40%に届かないほどで「肌がパサパサ。もう少し湿っていてもいいですね」とIさんは苦笑い。室内干しの洗濯物もよく乾くとのことでした。

Low-Eガラス窓の気密性に加え「壁の断熱材に使ったセルロースファイバーが調湿してくれています。クロスも透湿性能があるものにしました」とは、設計者の丸山さんの言葉です。
でも、とIさんが続けました。「ガラスや断熱材だけでなく、設計を含めてすべてのバランスが取れた上で力が発揮されているのでは。何かひとつ道具を使うだけでは、温湿度の問題は解決しないと思うんですよね」

それでは、夏はどうでしょうか。
福井は最高気温が35℃を記録する日もあり、湿度も高めの暑い夏が通常です。そんな季節も「エアコンはダイニングとリビングだけを弱運転。吹抜け上部のファンが全部回してくれます。北からの風があるときは涼しいので、窓を開けちゃってエアコンを止めるときもありますよ」
断熱力の高い住まいは、冬場同様に少ないエネルギ−で冷やされた室内の空気が外に逃げずに循環するため涼しく、暑い外気も入り込みにくいことがうかがえます。

ただし、窓から射し込む日差しはやはり強烈。東向きの窓があるダイニングでは、朝食時にはまぶしさを遮るカーテンが活躍します。また2階リビングで、もっとも暑くなる日中は深い紫色のカーテンを引き「映画館みたいになるので、そこでテレビを観ています」とのこと。

I邸の窓は、北向き以外はすべて遮熱型Low-Eガラスが使われていますが、日の光が直接ガラスに当たる時間帯には、緑のカーテンやブラインド、カーテンなど日射そのものを遮る<助っ人>を活用することが、より快適な室内環境づくりに効果的といえそうです。


いつものダイニングがホテルのバーになる夜

あえて植栽を入れず無機的な空間に仕上げた中庭。外壁内側はざらつきのあるオフホワイトのガルバリウムで「太陽光の反射が柔らかくなります(丸山さん)」1階部分に庇をもうけないことですっきりした視界となった。雨や雪が室内に降り込むこともないという
深い紫色のペンダントライトの灯りと繊細なオーガンジーカーテンで、ダイニングが華やかに変貌する。窓の外に雪が降りしきる夜をイメージしてほしい。そこに生まれるのは非日常の空間
遊び着のまま、リビングのソファですやすや。この家の暖かさと心地よさをなによりも雄弁に物語る

50m2ほどもある中庭は、リビングやダイニングと並ぶI邸のもうひとつの顔でしょう。
廊下に並行するデッキのほか、中央部にも舞台のようにデッキがつくられ、間を白い玉砂利が埋めています。
外に閉じた家で内側から外光と開放感を確保する、という役割は十分果たしているものの、植栽もなく、ある種<無機質>ともいえるしつらい。ここには、住まい手の明確な意図がありました。

「福井はもともと緑が多くて周りは山ばかり。そんな中で育つと、人工的なものに対する憧れが強くなります。たとえば東京に住んでいた頃に見ていたビルの夜景やイルミネーションのような、そういうものを身近におきたいという感じ」

この庭の魅力は冬の夜、ダイニングの窓を通して見る際にもっともよく発揮されるといいます。
「ペンダントライトだけをつけた薄暗い室内から、雪がしんしんと降る庭をカーテンを少し引き開けて見る。すごくきれいですよ、幻想的で。外が寒くてこちら側が暖かいのも気分がいい。温泉と一緒で(笑)このギャップが良いんです」

Iさんの言葉に、柔らかな灯りに照らされた物語の1ページのような情景が目の前に浮かびました。
凍るような夜気の中に降りしきる雪を、心地よく暖かな部屋で思う存分眺める…高い断熱力を備えた窓ならではの楽しみではないでしょうか。

光を取り込み、眺望を与え、辛い寒さや暑さはシャットアウトして住まい手の快適な暮らしを守る窓。しかしI邸ではそれだけにとどまらず<日常を超えた魅力ある風景をつくりだす>存在だったのです。
住まい手のイメージにこたえ、住空間を華麗に変身させてしまう。秘められた窓の力にまたひとつ出合いました。



取材日:2015年1月11日
取材・文:二階 幸恵
撮影:中谷 正人

今月の家を手がけた建築家:丸山晴之(丸山晴之建築事務所)

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