開口部にこだわった新築レポート -東京都 A邸-
朝日を受けて佇むかわいらしい白い家。Aさんの新しい住まいは、娘さんご夫婦の家と玄関を共有する二世帯住宅です。
かつて建っていた古い家は、東日本大震災で瓦が飛ぶなどダメージを受けました。
「耐震診断して、次に大きな地震が来たらもたないと言われたんです」と話してくれたのは、義理の息子として共に暮らす松本隆三郎さん。この家の設計者です。
延床面積43m2のコンパクトな住まいは、ワンルームのスタイルでつくられました。
「ひとりで住むのでお金はかけず、楽に動けるようにと希望しました。年をとると、だんだん狭い所とかに行けなくなるのよ(笑)」と、家のあるじは屈託がありません。
3LDKの2階建から平屋の一室空間へ…大きな変化に思えますが、耐震面での安心や階段の上り下りを考えると「平屋にこしたことはないです、条件さえ合えば」と松本さん。Aさんも「10坪くらいだけど天井が高いから広く見える。狭く感じることはほとんどないです」
あらわしにした小屋組は高いところで4メートルほど。四角い平面の北側に水まわりを集め、南にはリビングダイニングと寝室が並びます。 室内の建具は玄関に続く扉と洗面スペースの引戸だけ。全体を広く見通すことができるとともに「開けたり閉めたりがないの」とAさんが言うとおり、動きやすさが感じられました。
内壁はシナ合板と塗装。床は「一番安いもの(松本さん)」と言いながらも無垢フローリングが選ばれました。ぜんそく気味のAさんのためにクロスは使わない仕上げ。ローコストでありながらも木を多用した落ち着いた空間です。
もうひとつの特徴は、この家が<長期優良住宅>であることでしょう。
以前の住まいは「どこもかしこも、ものすごく寒かったの。ガラスには隙間テープを貼っていてね」とAさんが振り返る、昔ながらのシングルガラス窓で壁も床も断熱材なし。冬は寒く夏は暑い環境でした。築40年を超える家では珍しいことではありません。
新しい家は耐震性とともに、体にこたえる寒さや暑さからの解放も考えて設計されました。
しっかりした構造や耐震性、維持管理のしやすさ、バリアフリーなどのほか、省エネルギー性も求められる長期優良住宅の基準をクリアしているA邸は、日本の建物の温熱環境面で今のところ最高とされる<等級4>の性能を持っています。
暖冷房機器をあまり使わずに冬暖かく夏涼しく過ごせる家なのです。
エコガラスはこの家を支える縁の下の力持ち。リビングダイニングの掃き出し窓から洗面の小さな窓まで、ほぼすべての窓で採用され、重要な役割を果たしています。
A邸の省エネ性能は、まず昨夏の冷房費に表れました。「電気料金が前と比べて半分以下になりました」
以前は風の流れを感じるほど強めにエアコンをつけていたAさんが、新しい家では「真夏でもエアコンはお昼くらいから。朝は窓を全部開け放して、掃除などしています」
家事を片づけてからスイッチを入れるエアコンは、設定温度27~28℃で弱モード。就寝前には消し「窓は閉め切ったまま、扇風機をちょっとかければ寝られます」一度冷やされた室内の空気が朝まで保たれているのでしょう。
空気が外に逃げるとき、最大の抜け道となるのが窓です。断熱力に優れたエコガラスがここで力を発揮します。
窓から射し込む太陽光も部屋の暑さに影響しますが、エコガラスはこの強い日射熱をある程度遮断する力も備えています。
A邸には東と南に大きな窓があり、施主いわく「夏は朝4時半頃から、東は日差しがガンガンきます。でも窓にブラインドとレースの日よけをかければ大丈夫」
そして昼、南に回る太陽は、今度は軒によって完全に遮られます。
「実質1200mmくらいは出ていますね」と松本さんが語る軒は斜材で支えられ「夏は暑いから庇を深くしてほしい」という当初からの施主の希望をかなえつつ、A邸のデザイン的な特徴にもなりました。
心配な西日も、隣でつながる松本さん世帯の家に遮られて入りません。採光用につけられた天窓からの日射も、ブラインドを使うことで光だけが落ち、熱はとくに感じないとのこと。
A邸は夏の暑さの元凶・日射熱がほぼシャットアウトされた家なのです。
反対に冬は朝8時頃に東側から日が射し始め、11時には透明な掃き出し窓を通してリビングダイニングの床いっぱいがひだまりになります。
暖房は朝1~2時間ほどエアコンをつけるものの「日が照ってくると、もういらなくなるの。9時までつけていることはまずないですね」
太陽が西に回って陰ればホットカーペットの出番、厳寒時には少しだけガスストーブで補うといいます。就寝時はすべてスイッチオフ。
さらに、天井近くまでのぼった暖かい空気をダクトを通して床下に送る空気循環システムもあり、床暖房のないA邸の足元の暖かさをサポートしています。
夏とは対照的に日差しの恵みを十二分に受け取り、エコガラスの窓がぬくもりを逃がさずキープする。A邸の冬は日射取得と断熱の2本立てで、一日中快適な暖かさを保っていました。
それに、と思い出したようにAさんが言います。「今の窓は前の家と違ってさわっても冷たくないし、結露もできないのよ。これはありがたい、すごいですねこの窓は」
共有する玄関は窓に囲まれ明るい。扉を開けた正面の窓からまず自慢の庭を望み、親世帯と子世帯とに左右で分かれる。右手奥の開け放たれた扉からAさん宅のリビングが見える
リビングダイニングの窓辺は、Aさんお気に入りの場所です。
「自分で世話した庭が見えるから。庭仕事ばっかりやっているの」植木屋さんみたいにね、と笑うAさんの視線の先には、取材に訪れた12月でも色とりどりの花々が咲く自慢の庭がありました。
二世帯住宅ながら東西にはっきり分かれるA邸と松本邸をつないでいるのは玄関スペース。たくさんの窓に囲まれ、当初は「雨の日は物干しに使おう」と話していたという、サンルームのように明るい空間です。
日中は双方の家の扉を開け放って、互いの気配を感じられるようにしています。
それでいて、互いの行き来は実は庭を通じての方が多いとのこと。
「庭仕事の音も聞こえるし、隣に行くときも庭から声をかけてね。ある程度見えて、ある程度は見えない、そんな感じです」
松本さんも庭好きとあって「この庭はふたりでやってるのよ、一生懸命」とAさんはにっこり。シャベル片手に会話しながら作業に精を出すおふたりの姿が見えるようでした。
この家のいいところは? の問いに「生活するのが楽。楽に動けるっていうのが一番うれしいわ」と答えてくれたAさん。
小さくシンプルなワンルーム空間、階段の上り下りがない平屋、寒さ暑さのストレスがないこと…建物の持ついくつもの要素と性能が<楽な動き>をサポートしています。
その根底を支えるのは、住まい手の暮らし方や感じ方、身体状況までを、コストを含めて考え抜いた設計であることは間違いないでしょう。
加えて二世帯の真ん中にある庭は、共通の趣味のスペースとして<互いの動き>が日常的に交差する空間。自然で対等な関わりを生む場もまた、楽に動く=気遣いすぎない二世帯での暮らし、を支えているのではないでしょうか。
「シジュウカラが来たわ、よく来るの」エコガラス越しの庭の木立に目をやり、<楽の家>の住人が微笑みました。