事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜開けずにさわやか! 大窓と木の住空間〜

開口部にこだわった新築レポート -神奈川県 Y邸-

Profile Data
住宅形態 木造地上2階建
住まい手 夫婦+子どもふたり+愛猫
建築面積 67.82m2
延床面積 112.05m2



今月の家を手がけた建築家:小島建一(想設計工房)


住まいの中心は踊り場のある吹抜け階段

パッシブソーラーシステムを採用し、太陽熱の効率的な収集を考えた屋根が特徴的なY邸。ふたつ並んだ2階の窓には、西日や周囲の視線をやわらかくカットする額縁がつけられている
階段・踊り場と一体化したリビング。6寸(約18センチ)角の柱は国産杉材、壁には呼吸する天然素材の漆喰を使い、床は柿渋入り塗料を塗った無垢材フローリング。住まい手こだわりの木製サッシはベイマツ材を植物由来の塗料で保護したものだ。樹脂やビニールなど人工的な素材をできるだけ使わないことで、経年変化がそのまま魅力となる空間
踊り場の大窓はサッシを使わず、大工さんがつくった木枠に直接エコガラスをはめこんだ。「なるべくすっきり見えるように図面を描き、現場で綿密に打合せました。FIX窓ならこのやり方でも大丈夫」と小島さん。窓際のベンチは掘りごたつ風に下部を掘り下げ、テーブルとしても使える。「自分の部屋よりもこのへんでよく遊んでいますね」お母さんに聞くまでもなく、長女Kちゃんにとって大切なスペースだ
対面キッチンの前面につけた木製壁は高さ1300mm。リビングからは目隠しとなり、料理をする側からはリビングや階段まで目が届く
ふたつ並んだ子ども室には可動式家具が置かれ、持ち主の成長に合わせていずれ仕切る予定。机の正面にある西側の複層ガラス窓は意図的に高さをおさえ、西日を入りにくくしている。「これ以上太陽高度が下がれば、あとは向かい側の建物が日射を遮ってくれます」
山側に開いた主寝室とバルコニー。「物干し場は意外に難しくて、リビングに開けた大きい窓いっぱいに洗濯物が、ということにもなりがち。よかったなあと思います」と小島さん

逗子海岸やマリーナを擁し、湘南エリアの玄関口として<首都圏の保養地>のイメージを持つ逗子市は、東南部と北部にはなだらかな丘陵地も広がる自然豊かなまちです。

東京出身のYさんご夫妻は、ご主人の勤務地として長く住んだ山口県から、ふたりの娘さんとともに関東に戻り、この地に居を定めました。「駅前の一等地に魚屋さんがあって、みんながビーチサンダルで歩いている。ここに住みたいと思いました」

家づくりのパートナーを務めたのは、奥様のご実家の設計も手がけたという小島建一さんです。
自然素材によって美しく年を経る家、そして<窓には木製サッシを使いたい>という住まい手の希望を受けるほか「敷地東側の山の緑を生かす設計をしたいと思いました」と振り返ります。

できあがったのは、階段と踊り場がリビングと一体化し、それを囲む窓から風景が楽しめる、木と白壁の空間でした。

Y邸の象徴的なスペースである吹抜けの踊り場は「子どもたちのたまり場と山の景色を結びつけました」という小島さんの言葉どおり、緑を背景に娘さんが本を読み、おもちゃを広げる居場所になっています。

階段とその周囲は<2階に行くだけではもったいない、途中の空間を使うことで階段が生きるのでは>という設計者の思いを映した気持ちのいい場となりました。

3段のステップを上がった踊り場の高さは80センチほどで、キッチンからもよく見えます。
対面型のキッチンはシンクの前に木製壁を立ち上げ、1階全体を見渡せる位置ながらすっきりした外観。左手に独立したダイニング、右手に引戸で通じる玄関が配置され、正面のリビングを経て回遊できる動線は「動線について意識したことがないくらい快適ですね」

ゆるやかな勾配の階段を上がれば、扉のないオープンな子ども部屋と主寝室です。
東側の主寝室には朝日がたっぷり射し込み「冬は山肌に赤い野生の椿が咲いて、とてもいい眺めですよ」

テラス窓とつながるバルコニーはY邸内の死角にあたり、室内からもご近所からも布団や洗濯物が目に入りません。「ママ友にも、あのベランダはいい! って評判なんです」奥様がいたずらっぽく笑いました。


スクリーンを下げない窓

左手が東、正面が南方向。夏の南中時、窓からの日射は壁から約80センチ程度、冬は足元にスピーカーを載せた柱の先まで入る。ロールスクリーンが下げられるのは一年を通じて夜間だけ
ピアノを保護するため、唯一昼間もスクリーンが下げられる窓は、上部はFIX、下部は突き出し窓になっている。窓外には早春に紅色の花をつけるオカメザクラ。ハクモクレン、アオダモ、クスノキなど、Y邸の大窓はひとつに1本ずつシンボルツリーが植えられている
リビングから雁行させることで南向きの開口を得たダイニングスペース。掃き出し窓はテラスデッキにつながり、バーベキューにも便利だ
1階西向きの洗面は高い位置につけた複層ガラスの窓で採光し明るい。800mmの出がある庇と隣家の建物が西日を遮る

ピアノ脇はW(幅)1600mm×H(高さ)2000mm。
踊り場は2枚合わせてW1200mm×H3010mm。
ダイニングの掃き出しはW2500mm×H2500mm…
Y邸のメインスペースを囲む木製サッシの窓はどれも大きく、ゆったりとした奥行きが印象的。リビングも階段スペースもダイニングも、終日照明いらずの明るさと開放感に満ちています。

その一方で、東と南を向いた開口からは夏の熱い日射が室内に入り込みやすい側面も。その心配に備えて小島さんが採用したのが<遮熱エコガラス>でした。

踊り場の大窓は東向き。景色の取り込みを重視して庇の出は浅めにし「すごく明るい光が午前中から入ってきます」と奥様。南側は1階に50センチほどの庇、2階は屋根の軒が1.1メートル張り出しています。
陽当たりは申し分ありません。その一方で、真夏の暑さが厳しい面もあるのではないでしょうか?

ところが、ロールスクリーンは四季を通じてY邸ではほとんど使わないというのです。「昼間はいつも開けっ放しです。夏は暑いかなと思いましたが、そうでもないんですよね」
ピアノに直射日光が当たらないようにその部分だけ半分ほど下ろし、ほかに何も不快なことはなかった、と、笑顔でこの夏を振り返るご夫妻です。

せっかく大きな窓をつけたのに、熱や周辺の視線を遮るために終日カーテンを引き、眺めが楽しめない…よく聞く悩みは、Y邸には当てはまらないようです。

では冬場は? の問いに「日差しがよく入って暖かいですよ。南の窓は猫がいつもいます」とYさん。
窓辺から2メートルほどの位置に立つ柱を示して「この柱より奥まで射し込んできたんじゃないかな」

夏の日射熱を強力に遮る分、冬のぽかぽかした感じは少ないともいわれる遮熱エコガラスですが、「ひだまり感? ありますよ絶妙に」とご夫妻は口をそろえます。
小島さんも「冬でも直射日光はかなり暑いんですよね。僕は遮熱でもいいんじゃないかと思っています」とうなずきました。

暑さを招く熱気はしっかり防ぎ、寒い時期には暖かなサンルームをつくる、スクリーンを下げない窓。エコガラスは大活躍のようです。


窓を開けずに心地よくさわやかに暮らす

2階から吹抜けの階段スペースを見下ろす。エアコンの位置はちょうど反対側になるが、ソーラーシステムによる空気の循環も手伝い、真冬でも吹抜け特有の寒さを感じることはないという
エアコンはダイニングに設置。家の最も隅にあるこの1台とソーラーシステムとで延床面積34坪の2階建てを暖め、冷やす。掃き出し窓の足元には、循環する空気の吹き出し口が見える
ダイニング東側の木製サッシ窓は奥行きが105mmあり、室内側に回転する網戸がつけられている
厚い断熱材を内包する外壁には、化学薬品を使わずに耐久加工を施したフィンランド産のエコ木材を採用。寸法安定性がよいため後からの反りが少なく、耐久性も高い、と小島さん
明るくさわやか、そして静謐な室内空間を自然体で住みこなすYさんご一家。ひざの上には家族のアイドル・愛猫サバオ(ロシアンブルー19歳)の姿も

たくさんの窓と高さ5メートルの吹抜けを持ちながら、冬は暖かく、夏は涼しい暮らしを保つY邸。 その室内環境を調整するのはエコガラス・複層ガラスの窓のほか、厚さ100mmの断熱材、屋根裏から床下まで家じゅうで温風や涼風を循環するソーラーシステム、そしてただ1台のエアコンです。床暖房はありません。

冬、ダイニングに設置されたエアコンの設定温度は20℃。「基本的につけっぱなしですが、真冬でもサーモスタットが働いて止まっていることもあります。日が落ちても寒くならず、室温はほぼ一定です」

ソーラーシステムの床下吹き出し口から流れる暖かい空気で、室内は「なんとなくあったかい。スリッパは履かないし、子どもは年中裸足です。以前の家のように、エアコンをガンガンかけても足は寒くて顔だけもわーっと熱い…というのはまったくないですね。私は四枚履きの冷えとり靴下がいらなくなりましたし」と奥様は笑って話します。

太陽熱とエアコン1台だけでこの状態を保つには、部屋の暖かさを外に逃がさない=断熱・気密性能の高さが重要です。断熱材のほか、壁以上に熱の出入りが激しい窓まわりを固めるエコガラスの力も当然役立っているといえるでしょう。

夏は同様の環境でエアコンの設定を28℃にし、室内は快適に保たれます。こうなると気になるのは暖冷房費。 「前の家と比較しましたよ。7割くらいに減ったかな」とYさん。続いて奥様が「以前はエアコンの他にオイルヒーターをつけっぱなしにしていたので大変でした。冬場はひと月2万6千円くらい? 今は1万円いかないですね」

さらに興味深かったのが、気候がよくエアコンのいらない春や秋の暮らし方です。たくさんの窓を気持ちよく開けて過ごしているだろうと思いきや「あまり開けないですね」と意外な一言が。

「ソーラーシステムで循環しているせいか、空気が淀んでいる感じがなくて、開ける必要がない気がするんです。前の家では開けまくっていたんですが。不思議ですね」

休日、家族がそろっていて、晴れていて…そんな<雰囲気のいい日>には開けてみようかな、そんな感じです。楽しげな奥様の言葉に、窓や壁に守られ閉めきられた中に新鮮な空気が流れ、静かな心地よさに満ちた室内の様子が目に浮かびます。

窓を開けないさわやかな暮らし。想像したことのなかった住まい方に出会う取材となりました。

「いつの季節も快適で、外まで視線が通ってどこからでも広く見えるところ」とYさん。「階段から降りてくる時の大きな窓の風景。幸せな気分になります」こちらは奥様。そして長女・Kちゃんの「踊り場と、ピアノの脇の窓から見える桜の木」。
この家の特徴と思う部分と好きな場所、風景はどこですか、との問いに対する答えには、奇しくもそれぞれ<窓>が入っています。

その向こうにある緑を背景にした家族の笑顔に「10年20年後、この家がどうなるのかが楽しみです」と微笑んだ小島さんの言葉が重なりました。



取材日:2013年11月4日
取材・文:二階 幸恵
撮影:渡辺 洋司(わたなべスタジオ)

今月の家を手がけた建築家:小島建一(想設計工房)

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