開口部にこだわった新築レポート -千葉県 Y邸-
秋空の青さが映えるゆったりとしたニュータウンの一角に、太陽光発電とソーラーシステム、エコガラスの窓を備えた一軒の創エネルギー住宅を訪ねました。
大きな屋根の下、デッキテラスとたくさんの窓が太陽に向かって広がります。「庭とつながったリビングを」の希望を胸に、都心のマンションからやってきたYさんご一家のお住まいです。
竣工は2013年1月。設計を引き受けた飯沼竹一さんは「南側に大きなスペースと遊歩道のある敷地の特徴を生かそうと考えました」と振り返ります。
建物をできるかぎり北に寄せ、広くとられた庭と室内とを、間にテラスをはさんでつなげる計画を提案。和室からリビング、ダイニングまでが一直線に並び、南側にテラスと大きな掃き出し窓が連なるおおらかな家ができあがりました。
「このテラスが好き。暇があれば出ています」とYさん。「最近よくやっているのは、夕食後に息子とふたりで緑茶の湯のみを持ち、テラスに座って飲む、というのですね」楽しげなその笑顔に、家の中の暮らしが自然に外へとにじみ出ていく様子が目に浮かびました。
テラス上に豪快にかかり、日本の伝統的な民家をほうふつとさせる軒は、壁芯から2400mmほども出ています。雨が降っても濡れる心配はなく、物干しも安心。
さらに雨樋をつけないことで、軒を伝う水滴を庭先に敷かれた砂利に直接落とし、美しい水と音の風景を生み出しました。「雨の日も楽しめる家に」という奥様の願いに和の感性で応えた、設計者の計らいです。
室内と室外とが一体化した<現代の縁側>を持つ開放的な1階空間は、庭の風景も含めてY邸のメインスペースといえるでしょう。
夏涼しく冬暖かい。風通しがよくて明るい。心地よい住まいのためのこんな要素を、Y邸はさまざまな手法で実現しています。
建物の南面は1、2階ともずらりと窓が並んでいます。中央に吹抜け、両脇に主寝室・子ども室がある2階は、冬はさんさんと日が入りサンルームのような空間に。「長袖ひとつで過ごせますね。太陽の力を感じます」
深い軒が張り出す1階も、太陽高度が低くなる冬にはテラス沿いの掃き出し窓から光が入り、室内には日だまりがつくられます。ソーラーシステムによる補助暖房の効果も重なって「暖房をつけるのは朝方少しだけ。日中はまったくつけないし、夜も暖かさが残っています」
吹抜け部分にたった1台設置されたエアコンも、あまり出番はないようです。
一方、夏は軒が大活躍する季節。1階はもちろん、逆勾配になっている2階の軒も太陽高度がきちんと考慮され、真夏の直射日光をシャットアウトして室内への熱の侵入を防いでいます。
もっとも、夏は「基本的には窓を開けています。風がよく流れるので、雨の日などジメジメしている時以外はエアコンよりもいいですね」とYさん。
風は2階の窓から中央の吹抜けを降り、テラスの窓やダイニングの西側窓、キッチンの勝手口扉へと通り抜けていきます。吹抜け上部で回るシーリングファンも予想以上の効果があったそう。
さらに水廻りが集中する建物北側につけられたたくさんの小窓も「基本的に開けっ放し」の状態で通風を担っています。
こうして全方向からの風の流れが確保され、暑かった今年の夏も室温調整は窓開け中心となりました。
開口の充実は明るさにもつながります。
Y邸では昼間はまったく照明をつけません。側面に窓を持たないリビングの中央部分も、吹抜けから落ちてくる光によって十分な明るさが確保されました。階段脇の白壁からの反射も明るさアップに一役買っているようです。
当初、北側に配置される予定だった階段と吹抜けは、住まい手の希望により検討が繰り返されて現在の位置に落ち着き、テラスとともにY邸の顔となりました。心配していた寒さもとくに感じることはなく、それ以上に「上の窓からくる太陽のエネルギーと光の存在が強いですね」
飯沼さんも「何回も繰り返してスケッチしていくとプランはどんどん豊かになります。今回の家づくりでは、本当にいいディスカッションができ、Y さんと一緒に満足のいくプランニングができました」
住まい手と設計者が一緒につくりあげた吹抜け階段は、強い思い入れとともに確かな機能を果たす魅力的な装置となっています。
もうひとつ、Y邸の快適さをそっと支えているのがエコガラスの窓でしょう。
建物を構成する要素の中で、窓は壁や床と比べても熱の出入りが激しい部位です。日差しでぽかぽかと暖かい部屋が日没と同時に急に冷えるのは、室内のぬくもりが窓を通って外に流れ出てしまうから。
それを逃がさず保つ力が、エコガラスが誇る<断熱性能>というわけです。
Y邸では2階南側の窓だけが遮熱エコガラスで、他はすべて断熱のエコガラスを採用。
南面ほとんどが窓になっているリビングやダイニングで、家族が寝静まってからも暖かさを保てるのはエコガラスならではでしょう。
一方2階では、暑さは残りながら太陽高度は下がっていく8月9月の時期に、窓に向かって直射日光が当たります。「この日射と西日とを考えて、2階南側のみ遮熱エコガラスを使いました(飯沼さん)」
冬は内の暖かさを逃がさず夏は外の熱気を遮る、いわゆる<高気密高断熱の家>に、太陽光発電とソーラーシステムを加えたY邸。その光熱費はどうなっているのでしょう。
飯沼さんは「年間トータルすると、電気代はかかっていないんです」とにっこり。「日中は太陽光発電でまかない、夜は買うことになりますが、昼に使い切れない分を売電するので、実質はプラスですね」とYさんもうなずきました。
自分にとって必要なエネルギーを自給自足する<創エネルギー>。省エネよりも新しいこの考え方は、住宅こそがその先鞭をつけていくべきものなのかもしれません。
住まい手が自ら設計・植栽を手がける庭では、まだ若いキンモクセイやナナカマド、今年のお役目を果たした緑のカーテンが風に揺れています。
「周囲からの目隠しに新しい木を入れようかな、とかいろいろ考えています。理想は全部開けっ放しで生活することですね」
門のビスひとつ錆びても気になって取り替えたり、家をよく見るようになりました、とYさん。
すごくおぼえている景色があります、と奥様が話してくれたのは「冬、雪が降った時に窓のブラインドを全開にしたんです。目線の奥の空き地まで真っ白になって、すごくよかった」
もっとよくしたいという思いの下、日々見わたすさまざまなディテール。暖かなリビングで眺めた窓の外いっぱいの雪景色。その豊かな時間を思うとき、住まいとは暮らしの器にとどまらない、その内にある者が外に向かって限りなくイメージや行動を広げていく<熱源>ともなり得るのだ…そう教えられた気がしました。