開口部にこだわった新築レポート -北海道 U邸-
大雪山系の南麓に位置し、日本屈指の大規模農業地域として知られる十勝平野。豊かに広がる畑や牧草地と、その間を縫ってカラマツや白樺の木々が連なるさまは、北海道を代表する風景のひとつでしょう。
「十勝晴れ」の言葉もある全国有数の日照時間や、冬は−13℃前後、夏は30℃超の気温となるダイナミックな内陸性気候が育むこの雄大な景色の中、目の前に牧草地をのぞむロケーションにUさんご夫妻の住まいはあります。
出会った東京から結婚を機に故郷に戻り、酪農・畑作を営む農家の後継者として、新しい暮らしが始まったカップルです。
U邸の前に立つと、2つ並んだ玄関扉が目を引きます。「仕事柄での使いやすさを考えて希望しました。家に汚れを持ち込まないよう、裏玄関を広く取っています」とUさん。
仕事場からの帰宅時はこの裏玄関から家の中に入り、リビングを通らず洗面・浴室に直行します。農業の特性を考慮した仕事動線です。
表玄関のホールを抜けると、迎えてくれたのは広々としたLDK。
「キッチンに立ったときに家全体が見えるように」奥様の思いに応え、ダイニングからリビング、2階に続く階段から玄関まで、1階の空間が無理なく視界に入る配置としました。
そしてもうひとつ、ご夫妻が望みとして挙げたのが「冬場も暖かい家」です。
「北海道の家は暖かい」本州に住む人にとっても、これは半ば常識のはず。しかし何社か見回ったというモデルハウスについて、奥様は「秋口でしたが、暖房機器があちこちに置いてあったんです」と振り返ります。
ストーブや集中暖房を潤沢に使って暖める「従来の北海道の家」とは違うものを、当初からおふたりがイメージしていたことがうかがえる言葉でしょう。
そして「ここの展示だけは暖房機器をほとんど置いていなかった」という工務店・下浦ハウスが、家づくりのパートナーとして選ばれたのです。
「農家としては理想的な広さ(Uさん)」の裏玄関と「親戚15~16人がそろった年越しも、みんなでゆったり過ごせました(奥様)」という、ホームシアターを楽しむにも十分な広さを持つリビング。
さらに事務スペースも含めて6つの部屋とLDK、たくさんの収納を持つ家は一見、若夫婦のふたり住まいには十分すぎるボリュームにも思えます。
しかしこれは、あとから増築して家の外観も暮らし方も変わってしまいたくない、「子どもや荷物が増えても、最初につくったままの姿で過ごせる家がいいと思いました」という住まい手の考えが反映された結果だそう。
家が、家族の歴史を長く刻んでいく存在であることを改めて教えられるようです。
階段ホールを中心に4つの部屋と納戸、本棚コーナー、サニタリーがぐるりと囲む2階の空間も、子どもが数人駆け回ろうが大丈夫! と思わせる広さ。「本棚もトイレも、みんなが使いやすいようにと考えていったらこうなりました」。
家族の未来をきちんとイメージすることで導き出された配置計画と言えるでしょう。
下浦ハウス専務・下浦玲子さんは「お若いけれど華美に流されない、先を見た家づくりをなさっているんですよ」と目を細めます。
設計時の考えを「裏玄関の動線をまず考え、さらに<これからいろいろ積み重ねられていく家>としてリビングや収納スペースについて提案しました。最初はもったいないくらいに見えますが、あとになるほど、よかったと思える空間になるはずです」と話されました。
木目調の素材感を基本に、明度の高いフローリングとダークブラウンの差し色を組み合わせた色彩計画も「居て、落ち着ける空間がいい」という奥様によるものです。
「とてもシンプルで、かつ後のトラブルが起きないことを考えた住宅なんです」下浦さんがにっこりしました。
U邸は、外張断熱した住宅の壁内部に空気を行き来させる空間を設けることで<冬は暖かい空気で室内をくるみ、夏は熱を逃がしながら涼しい空気を取り入れる>という、パッシブなしくみの工法で建てられた「冬暖かく、夏涼しい」住宅です。
通風用の小さなものも含めて、窓は全部で22箇所。すべてに高断熱のエコガラスが採用されています。
「窓はできるだけ大きくするのが希望でした。でも、限界があるんですよね」とUさん。確かにU邸の窓は「大開口」というより、ほとんどが高さを持ったすべり出し窓やFIX窓を数枚組み合わせることで開口面積を確保するスタイルです。
下浦さんいわく「やはり壁面も大事です。追加の補強などがいらないように、強度面も考慮しました」
もちろん、採光や通風に支障はありません。
「朝は早くから室内が明るくなります。一日じゅう日が入って、昼間は全然照明をつけません」と奥様。南側の窓からダイニングを経て4~5mほど奥まっているキッチンにも、時期によっては日が届きます。
さらに、文字通り絵のような風景を取り込むピクチャーウインドーとして、この地ならではの豊かさを提供しているのはいうまでもありません。
壁の中の空気と、高断熱高気密の開口部とで外気から守られたオール電化のU邸、その暖房機器は、真冬でも蓄熱暖房機1台と、上下階合わせて4つのパネルヒーターのみ。床暖房もついていません。
「温度設定は19℃くらい。24時間運転で、設定した温度になると自動的に切れ、冷えてきたらまた動いてくれます」
隣に建つご実家では、従来の北海道仕様の窓にセントラルヒーティング、灯油のストーブを使用しているとのこと。そこで生まれ育ったUさんに違いを尋ねると、間髪を入れず「ぜんっぜん違いますね」と笑いながら答えが返りました。
「あっちの窓は、さわると冷気が中まで入ってくるんじゃないかと思うほど冷たいんです。こっちの窓にはそれがありません。セントラルヒーティングはあっても、ストーブはずっとつけていないと寒いし」
取材時の外気温は-4℃ほど。晴天ながら風が強く、牧草地にはときおり地吹雪が舞う天候でした。そんな中でU邸の室内は設定温度が保たれ、暖房機器は運転を停止していたのです。
家の中は明るく暖かく、そして静か。窓の外に広がる白銀の世界は、その冷たさには思い至らない、一幅の絵画のようでした。
「キッチンから見る風景がすごく好きですね」今まで作らなかった凝った料理を本を見ながら一生懸命作るようになった、と話す奥様の笑顔です。
「景色もそうですが、夫や義父が働いている姿や牛舎の様子も、お昼ご飯の支度をしながら見えるんです。なんだかすごくいいなあって思いながら、キッチンに立っていますね」
窓は内と外を結び、光や風を通すもの。そしてここにはもうひとつ、家族をつなぐという役割がありました。
「この風景は、目だけでなく心にしみてくるものなんです」そんな思いを共有できてうれしい、と下浦さん。
凍える寒さは遮って、美しい景色と温かな心だけを伝える…エコガラス窓の新たな顔に出会った、北の大地の冬の日でした。