事例紹介/リフォーム

ようこそ、我が家へ 〜この土地が、地域がもっと好きになる暮らし〜

開口部にこだわった新築レポート -神奈川県 H邸-

Profile Data
住宅形態 木造地上2階建て
住まい手 夫婦
敷地面積 300.00m2
延床面積 128.03m2


今月の家を手がけた建築家:安田博道(環境デザイン・アトリエ)


取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

70歳からの家づくり

正方形の建物に、大きな正方形の開口部が印象的。開放感を感じるリビングになった決め手は、この方形屋根。

「新しい、家を建てよう」。
ある日、そう言い出した旦那さんの一言に、奥様は最初驚きを隠せなかったそうです。「だって、私たちは70代です。思い切った決断でした」と、当時のことをお話しくださいました。

地区の社会福祉協議会や民生委員など、地域のリーダーとして長年活動されているHさんご夫婦。「3.11など大きな災害を受けて、私たちは災害時、地域の人を助ける役目であることを再認識しました。だから、まず自分の家を安全にすることから」と、耐震工事を申し込まれました。ところが、断られてしまったのです。その理由は、窓が多すぎて構造が弱いからということでした。あたたかな陽だまりの住まいに憧れてしたことが、あだになってしまったようです。

それでもHさんご夫婦はあきらめられず、息子さんの紹介で建築家の安田博道さんに相談することを決意。将来的にはここに住む息子さんご家族の意見も取り入れて、建て替えがはじまりました。


目指したのは、「大きな窓がある平屋造りの家」

寝室の開口部。ここから、H邸の裏庭が見渡せます。「鳥の声で目覚める朝は、とっても気持ちがいいですよ」とHさん。
新築当時のアルバムを手に。「孫たちも喜んで、よく泊まっていきますよ。はしごでのぼるロフトも気に入っています」。

「初めてHさん宅を訪ねた時。とにかく見晴らしがよく、のどかな風景が広がっていて落ち着きました。この土地の魅力を引き出した家づくりをしたいと思いました」と、安田さん。「H邱は丘の中腹に建っていて、西のふもと側には、田園風景が広がり、お天気の良い日は富士山まで見渡せる雄大な眺望です。一方、東の山側には甘夏や梅の木に鶯がやってくる長閑(のどか)な里山風景。この素晴らしい景観を室内でも感じられるよう、ご要望がなくても大きな窓をデザインの中心に考えたでしょう」。

平屋造りとしたのは、「階段が大変で」と、おっしゃる奥様のご意見から。また、デザインのテーマである正方形の建物、そして、遠くからでもすぐにH邸と分かるように、特徴をもった方形屋根と大きな窓が決まりました。開口部の位置については①食卓 ②リビング ③寝室の3か所に。肝心な構造については、構造用合板で、壁から屋根まで一体化して固める方法で作っています。また、大きな開口部となるため強化ガラスの入った複層ガラスを採用、断熱性にも優れています。
「新しい家になってから、一日のうちに四季の移ろいを感じる時間が増えました」。


土地の魅力を引き出した家づくり。ますますこの土地が好きになった!

玄関からリビングへ入るドアも、開口部同様の幅に。「新しい家具の出し入れも、人の出入りもスムーズです」とHさん。
玄関から勝手口まで一直線。風通しはもちろん、より広く感じる演出に。
新築から1年。四季を通して暮らしてみて、不便なことがないか点検に安田さんは定期的にいらっしゃっているのだとか。

「一般的に丘状地形は風の通り道です。実際に裏山の林を抜ける風がすこぶる気持ちよかった。これを利用しない手はないです」と安田さん。通風に関しては、東西と南北のラインがリビングでクロスするようにデザイン。「猛暑の昨夏でも、エアコンはほとんど使わず、自然の風で快適に過ごせました」とHさん。もちろん、冬は大きな窓から差し込む陽のぬくもりに憩えるようです。

Hさん宅の地域では、竹林で筍掘りをできたり、蛍が見られたりと四季を満喫できる自然があります。「こうして1年を通し、外とのつながりを感じられる家だから、よりこの土地に住まうことが楽しくなりました」。また、畑で作った野菜をご近所の方や安田さんへおすそ分けするなど地域での生活を楽しむHさん。数年前から畑に加えて田植えも始められるなど、より活動的になられていました。
「Hさん、今年は新米の季節も楽しみですね!」と安田さん。新築から一年経った今も、交流は続いているようです。


生活シーンにメリハリを添える色彩計画と、偶然の発見が生かされたブルーに染まる天井。

和室の色合いに合わせて選んだ珪藻土の壁は、講習会に参加した息子さんの手によって塗られた自信作。
寝室、バスルームなどの木目の濃い色合いで、夜はしっとり落ち着く空間に。

ブルーシートを取った後に塗装したロフトの床。屋根の開口部の光を反射させ、白い天井がさわやかなブルーに染まる。

「平屋造りは生活のメリハリがつけにくいという難点があります。この点は、室内の配色で克服しようと考えました」と安田さん。キッチンやリビング、和室、玄関など日中を過ごす空間には白や明るい木目を基調に。反対に、寝室やバスルームなど夜間に過ごす空間には茶系を基調とした落ち着いた配色になっています。
息子さんが講習を受けて塗られたという珪藻土の壁も、畳や白い壁になじむ色合いです。

さらに、Hさん宅ではもう一つ、偶然できた色彩計画がありました。
建設中、青いシートをかけていたところ、その色がリビングの天井に反射し、白い壁面に映る淡いブルーがなんとも美しかったので、いっそロフト上を青く塗装することにしました。「Hさんご夫婦と息子さん、皆さんが積極的に家づくりに参加されたことで、こうした発見につながりました」と安田さん。

「今はブルーだけど、そのうちほかの色に塗り替えてもいいなと、そう考えるのも今後の楽しみの一つですよ」とHさんご夫婦。お孫さんたちも、はしごをのぼるロフトがお気に入り。「いつか、ピンクに塗りたいな!」と、この家を楽しまれている様子。

みんなで作る家は、季節で風景が変わり、色が変わり、過ごし方が変わる。そんな、生活の彩りがあふれる家でした。


取材日:2012年3月3日
取材・文:佐久間 恵里
撮影:前嶋 正

今月の家を手がけた建築家:安田博道(環境デザイン・アトリエ) 取材企画協力:OZONE家づくりサポート <建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>

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