開口部にこだわった新築レポート -千葉県 W邸-
「土地を探していたとき隣の敷地にある、松の木が気に入って…」
という住まい手のWさん。確かに、古い松の木が多い静かな住宅地のなかでも、高さ20メートルもありそうなどっしりとした立ち姿はとても印象的。
建築家の麻生さんも一目でこの松が気に入ったそうです。趣のあるこの風景を堪能できるようにと、暮らしの視界にいかに取り入れられるか工夫しました。
まず、「松の立ち姿を見るには、2階のこの場所のこの角度!」と、リビングを2階に配置し、より美しく見えるような角度を計算して、斜めに大きな窓を設けました。さらに松の姿全体が見えるように、上部にはFIX窓を加え、大きな視界を確保。
そして、ガラスは外側の遮熱を重視したタイプのエコガラス。
「これだけ大きな開口部になるとガラスの性能はとくに重要ですから」と麻生さん。
その効果のほどをWさんに尋ねると「他の家とは経験上比べることはできないのですが、冬の昼間は暖房いらず、夏も涼しく過ごせています。」と、エコガラスの効果をしっかりと実感されているご様子でした。
さらにこだわったのは窓枠。木の建具をご希望だったWさんたちは、アルミではなく無垢材のサッシを探されたそうです。
「コスト面でちょっと悩みましたが、リビング周りは大事にしたいと木製サッシにしました」とWさん。
このチョイスは大成功。まさに額縁のなかの1枚の絵のように、窓を通して松の姿を臨むことができます。床はウォールナット、梁は米松と、随所に木の風合いを活かすつくりのなかに、更に木製サッシをもってくることで、より一体感がでるだけでなく、松を臨む窓がより際立っています。
お住まいになって1年半、感想を聞くと
「住んでみてわかったことは、とにかく暮らしやすい家だということです」と奥様。
四季折々で、便利なことや快適さを体験していると言います。
まず収納。
ご夫婦ともに平日お仕事で忙しいW家ではすぐ片付けられることが大事。
一見それほど収納が随所にあるようには見えないのですが、目立たないだけで、実は暮らす上で必要な箇所には必ず収納スペースが設けられています。しかもそれぞれがたっぷりとした容積をもっているのに驚かされます。ゆったりとした奥行きこそ物が置けるコツなのです。
「収納のゆとりは生活のゆとりです。そういう意味ではこの家はストレス知らず」と奥様。
W邸は、2階はリビングと書斎とロフト、1階は寝室と客室というシンプルな構成。そして、動線もきちんと考えられているのも特徴。出入り口が2カ所あり回遊できるキッチンや、寝室近くに納戸と洗面所があるなど、限られたスペースを有効に動けるように配慮されているので、暮らしがすべてリズミカルで楽だといいます。
また、「1階なので寒かったり、暗かったり、逆に通りに面してうるさいのも困るなと思っていた」という寝室は、「そんな心配は無用で、むしろ落ち着いていて快適」と奥様。
1階の日当たりのいい場所、しかも奥まったところに配置したため、日当りと静かさは両立しているうえに、蓄熱暖房を採用しているので、冬は柔らかな暖かさがいつもただよっているそうです。
暮らすほどに、随所にある設計や施工での気配りが伝わっているようです。
Wさんたちが家を作るにあたってこだわったのは、「地元の人に作ってもらう」こと。地域に根ざした人とのおつきあいを大事に、そして後々のことまでも考えた上でのことです。
まず、近くに事務所を構える麻生さんに設計を依頼し、工務店も麻生さんの紹介で近隣の会社に決めました。もちろん麻生さんと話してこの方におまかせしたい!と直感したことや、工務店がこれまでに造った建物を見て、上質な仕上がりが気に入ったというのはいうまでもありません。
そして、麻生さんにはじめて会ってから5か月後、地鎮祭が行われました。
その月はご夫妻の結婚式もありました。
ご夫妻の新生活は、ちょうど空いていたという工務店のアパートでスタート。
もちろんそこは現場近く。ご夫妻は毎週のように通ったそうです。
「家を作っている間、本当に楽しかったんですよ」と奥様。打ち合わせや検討内容がなくてもほとんど毎週末顔を出し、できていく家の形をみながら棟梁や麻生さんたちと会話を交わすひとときが毎週待ちどおしかったそうです。
このフェイストゥフェイスの関係は「楽しさ」だけでなく別なメリットももたらしました。住まい手の姿が見えることで、あえて言葉にしていなかったようなし好やライフスタイルを、いつの間にか掴み取ってカタチにすることができたのです。
たとえば、食事を大事にするお二人だと感じ取った麻生さん、大きめの木のオリジナルテーブルをデザインし、ぜひ食卓から広がる景色を見てほしいと近所の屋根ではなく空がたくさん見える位置に窓を配置したり、お気に入りの絵があることがわかるとその絵のためにあえて白壁をつくるなど、Wさんご夫妻仕様になるよう工夫を重ねていくことができました。見えない無意識のニーズをつかみ取って形にすることこそ、建築家と工務店で家をつくる醍醐味です。
また、「壁の角が汚れたり、ぶつけたりしそうだ」と奥様が話したところ、そこに木のプロテクターをおさめてくれたりというような、現場での何気ない会話から生まれた工夫もありました。
ほかにも作り手と住まい手の顔が見えるからこそできることが随所に見られます。
満足のいく住まいをつくるには、家づくりのプロセスのなかで、いかに楽しむか、いかに作り手とコミュニケーションするかが大事だといわれます。コミュニケーションのしかた、ニーズの汲み取りかたは、十人十色ですが、Wさんたちはまさに、ご自身にあった方法にめぐりあったといえます。