開口部にこだわった新築レポート -埼玉県 K邸-
住宅形態 | 木造地上1階建て |
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住まい手 | 夫婦+奥様のお母様 |
敷地面積 | 496m2 |
延床面積 | 102.86m2 |
この土地のあるがままの自然を生かしたい————。
そんな住まい手の思いをかたちにした「終の棲家」。緑ゆたかな高台に建つK邸は、ゆるやかな勾配の切り妻屋根から飛び出した背の高い五角すいの屋根、漆喰壁と杉板の下見張りの外壁が印象的なお住まいです。
「土いじりができる庭がほしい」「ゆったりとした平屋を建てたい」「景色のいい高台に住みたい」という条件の土地探しのなかで、この地にめぐりあったのが5年前。当時ここは、うっそうとした山林でした。
Kさんは元々おつきあいのあった建築家の保科さんに、まず「敷地の特徴を極力生かしたい」と注文しました。
大きな木はなるべく切らない、整地も必要最低限にと検討した結果、建物は背の低い樹木があったエリアに。家の形状はそのエリアにそったものになりました。
「全部更地にして、好きな植物を計画的に植えたり、条件や制限に縛られずに建物をつくるほうが簡単で安あがりかもしれません。でも、まずはあるものを尊重したい、自然のそのままの状態を大事にしたいという思いがありました。」
さらに、やむを得ず切った木も、花壇の柵や外構に使ったり薪にしたり。とことん自然を尊重するそんな姿勢からもKさんの家への思いが見えてきます。
「平屋でコンパクト、かつ伸びやかな住まいに」というKさんの希望に対して保科さんが提案したのが、背の高い五角形の屋根「Pentagonal Roof」をもつリビングでした。
「まず、リビングは眺めのいい"この場所"に決めました。当初は、ぐるりと見渡せるように、正方形を45度ふった形のリビングにしようとしたのですが…」と保科さん。
しかし、それでは柱が正面にきてしまい窓からの景色が途切れてしまいます。試行錯誤の末、「六角形を半分に割った形」と「正方形を二等分してできた
直角二等辺三角形」を合わせた形のリビングに。庭に面して飛び出したリビング部分は「六角形を半分に割った」部分にあたります。その3面はガラス張りでサッシも極力景色を遮らないよう配慮して配置。おかげでパノラマ写真のような背景が一望できるリビングになりました。
屋根は、リビングに合わせた変形五角すい。
空間の広がりを感じられるよう6メートル弱という屋根の高さを活用しました。平天井にせずに、屋根の傾斜をいかしてはり、壁・天井は同じ珪藻土仕上げに。伸びやかでありながら人を包み込むようなスペースになっています。
「めざしたのは"明るい洞窟"」と保科さん。
Kさんも「そういえば、夜、ブラインドをさげてくつろいでいると、ゆったりとした洞窟でまどろんでいる感じがします」。
施工にあたった工務店の青木さんもリビングのプランに驚いたひとり。「こんな形の部屋は初めて。柱をまず作業所で組んでみて、うまく継ぎ目がはまるのを確認してから解体し、現地にもってきました。それでもドキドキしましたね」。リビングだけで実質一か月はかかったそうです。
K邸の間取りは、リビング&キッチン、寝室とバス、トイレ、納戸と、極めてシンプル。
なかでもKさんが気に入っているのは奥庭に面したお風呂。
一歩足を踏み入れるとヒバの壁と天井がいい香りです。大きな窓を通して、湯船から景色が楽しめるのもこたえられないとか。庭面は傾斜していて対面する住宅地が遠くはなれているため、ひと目もさほど気になりません。
「毎日露天風呂気分で窓を開けて楽しんでいます」とKさん。大きな窓から直接ウッドデッキに出られるのもいいそうです。
四季折々の風情を楽しむしかけが随所に見られるK邸ですが、少ないエネルギーで体に負担をかけるような暑さ寒さを防ぐためのこだわりもあります。
たとえば、「西側の窓には注意しました」と保科さんがいうように、西側の窓は明かり取りの役割をもたせずに風通しだけに特化しました。おかげで西日が射し込まないため、暑かった今年の夏もエアコンを使った日は数えるほどだったといいます。
複層ガラスと断熱材のおかげで、昨年の冬は床暖房だけですごせたそうです。それもフル稼働することはほとんどありませんでした。
「とくにリビングは窓から入り込む太陽の熱で温室のようなあたたかさでした」とKさん。
遠くない将来の来たるべき老後を見据えたバリアフリー、オール引き戸、目に優しいLEDの間接照明の多用など、将来を見据えた工夫が、いまの生活をより快適にさせているようです。
竣工から1年たった現在、リビングやバスルームに面した奥庭は「まだ工事が進行中」です。
じつは外構はほとんどKさんの手づくりによるもの。この1年、Kさんは仕事の合間に、レンガを敷き詰めたり、かまどや階段づくりという作業をコツコツ続けてきました。
手づくりにこだわるのは予算の関係からではありません。
「メンテナンスフリーの家なんてつまらない。とにかく自分で手をかけたい。効率よく簡単にコンクリートで固めてしまわないで、少しでもいいものはないかと知恵を絞るんです」といいます。
たとえば漆喰塗りと木の外壁。
「木の部分は張るのも大変ですし、数年ごとに防腐剤などの塗り直しなどのケアが必要ですが、そこがいいんです。サイディングボードにすれば手をかけなくてすむけど、それでは味気ない。自分でできるうちは手をかけてやりたいですね」
欧米などでよく見かける、住み手がメンテナンスしていくような家との付き合いに惹かれていたというKさん、「家につきあいながら、いっしょに生活するのがいいんです。年を経れば私たちの生活も少しずつ変わっていく。それにあわせて家も変化するっていいじゃないですか」。
だからこそ、すべてができあがった「完成品としての家」ではなく、少しずつ手を入れ心をかけるような「現在進行形の家」にしたかったのだそうです。
必要な機能を厳選して確保したうえで、住まい手が主体的にかかわり続ける家、まさに自然の中でゆったりと暮らすおとなの住まいです。