開口部にこだわった新築レポート -埼玉県 S邸-
住宅形態 | 木造地上2階建 |
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住まい手 | 夫婦+子ども2人+猫1匹 |
敷地面積 | 70.17m2 |
延床面積 | 100.6m2 |
大きな窓に映る青い空を、雲がゆったりと流れていきます。シンプルな白い箱形のS邸は、ひろびろとした調整池のほとりに広がる新しい街に、さわやかに建っていました。
共働きのSさんご夫妻が、それまで住んでいた上尾市からこの地を住まいに選んだ理由は、ひとつは通勤の利便性、もうひとつが景観だったといいます。
「目の前に何もないのがいい、と思って決めたんです。土地を購入した時はまだ池が工事中だったので、セントラルパーク並みの公園ができるんじゃないか(笑)と期待していたんですが。今は、これはこれでいいかなあと」とはSさんの奥様。
水と緑の新しい故郷で家族4人と愛猫1匹の暮らしが始まったのは、この春のことです。
土地探しから竣工まで足掛け3年。その間、一度は某大手ハウスメーカーとの家づくりを考えました。しかし、担当者の言葉と実際にできることとの落差や、対応の悪さに計画の中止を決断、新たに設計者を探すことに。さらに2人目のお子さんが生まれたり、また埼玉県の住宅助成事業に申請したりと、大忙しの毎日でした。
そんな中、Sさんご夫妻はアトリエ創創のホームページにいきあたります。
清水禎・尚子夫妻が共同で設計する住宅のテイストを「すごく生活観があるのに素敵で。しかも禎さんが設計して尚子さんが細かい部分に目を配る、女性目線がちゃんと入っているスタイルも気に入ったんです」。
清水さんも「お互いの年齢が近いと、やっぱりすんなり話が進むところはありますね」。
他と比較してもドンピシャな感じ、と笑うSさんの言葉に象徴される、施主と設計者の幸福な出会いと良好なコミュニケーションは、約3ヶ月のスピード設計を実現させました。竣工後の今は家族ぐるみのお付き合いにまで発展しています。
S邸のメイン空間は、2階リビングを中心とするスキップフロアで構成されています。
「仕切らずに開放感がありながらも空間はちゃんと区切られ、それぞれの場所で家族の気配が感じられる家にしたい」ご夫妻の思いを受けて、アトリエ創創が導き出した解でした。
3段重ねのフロアの一番下は、無垢のパイン材を張ったリビング。東の大窓と南の掃き出し窓からの光がたっぷり射し込み、開放感あふれる空間です。
かわいらしい階段をトントンと上がれば、2段目はダイニングキッチンのエリア。モノクロームのシステムキッチンとグレーの床材が、白壁と木を基調とする空間全体を引き締めています。
そして一番高い3段目には「ライブラリ」と名付けられた、本とパソコンのフロアが設置されました。
ここは「本屋になりたいと何度思ったか」というほど本が大好きな奥様が、大人用も含めて多くの本を常に2人のお嬢さんのそばにおきたい、と希望した空間です。つくりつけの本棚とパソコンデスクのあるスペースには、書斎のような雰囲気も。
どのフロアからも、調整池に向かって開かれた大開口からの眺めが一望できます。道路の向こう側はすぐに公園が始まるため、この見晴らしは今後も失われる心配はありません。
リビングとダイニングの段差には、ちょっとした仕掛けがありました。引き戸を開けた先が、そのまま1階子ども部屋のロフトになっているのです。
「子どもたちが大きくなったとき、帰宅して親の顔も見ずに自分の部屋に出入りしないよう、あえて完全に閉鎖できないようにつくっています」と奥様。
1階に置かれることの多い子ども部屋や寝室にもなにげなく目を届かせ、互いの気配がわかるように…。生活の中心が2階になる家に暮らす際の、ひとつのヒントになる工夫といえそうです。
仕切りのない空間には、東側の壁いっぱいに広がるフィックス窓+南側の掃き出し窓から自然光が射し込み、部屋全体に明るく拡散しています。
「曇りの日でも、夜まであかりは何もつけない。それで全然問題ないですね。スポット照明もあるので、必要な時はそれを使えばいいし」とSさん。
先ほどの引き戸を開ければ1階にも光が落ち、安全を考えて高窓になっている子ども部屋にも光のおすそわけが届きます。
さらに階段の踊り場やキッチンの奥、ライブラリの本棚下など暗くなりがちな部分にはさりげなく小ぶりの窓が切られ、明るさが確保されていました。
大きな開口部+目の前は遮るもののない水辺という立地。S邸の景観の良さは自明でしょう。
「朝は、のぼってくる朝日が窓の真ん中に見えますよ。以前住んでいたマンションの窓は、景観がよくない上に外からの視線も気になりました。今はこれだけの眺めがあるし、窓を開ければまるで外にいるような感じになるので、開け閉めはよくするようになりましたね」
リビングの掃き出し窓を開け放てば、室内の床とテラスの段差がほとんどないひとつの大空間が現れます。約15㎡の広いテラスもS邸こだわりの大事なスペース。
「いろんな人を呼んで、ここで緑を見ながら食事をしたりお酒を飲んだりしたいと思っています」と奥様はにっこりしました。
反面、魅力的なロケーションはきびしい住環境の原因ともなり得ます。 土地の気候の特徴を、Sさんは「水の近くだからかもしれませんが、とても冷たくて強い風が吹くんです。テラスにものを置いても飛ばされてしまうくらい」と話します。 その一方で夏場には、強い日射をまともに受ける大きな窓から入り込む熱が心配です。
予想される寒さと暑さへの懸念を、S邸は「高気密・高断熱」と「エコガラスの窓」で解決しました。
S邸の施工では、断熱材入りパネルを壁に使ったり、床下や基礎部分にまで断熱施工し、窓やドアなど開口部のすき間は樹脂素材等を使って熱の移動を遮断しています。夏は熱く、冬は冷たい外気の影響を受けにくくなり、室内の温度はいつも一定に保たれるしくみです。 快適さだけでなく冷暖房器具の使用が抑えられるので、CO2排出量を削減するいわゆる「エコ住宅」ともなっているのです。
設計はこの「高気密・高断熱」の工法を前提に進められましたが、清水さんいわく「いくつかのピッチが決まっていただけで、設計の自由度は予想以上でした。省エネ基準も、とくに力を入れて計算しなくてもクリアできた感じです」。
室内環境を保つもう一方のカナメが、エコガラスの窓です。 S邸のデザインの重要なポイントである東側の大きな窓は一辺が約3m。右上の一部分以外はフィックスとなっています。南のテラス側には高さ約2.4mの掃き出し窓と、その上部にやはりフィックスの高窓があり、リビングスペースの壁2面は7割近くの面積が窓と言える状態です。
光と景観を取り入れるガラス窓は、同時に室内外の熱の出入りがもっとも激しいため、部屋の快適さに深くかかわってきます。S邸では、断熱に加えて夏場の熱気の遮断性能も備えたエコガラスをリビングの窓に採用しました。
その効果を、Sさんは「1階と2階の温度差がすごく大きい」と表現します。
1階の窓は東側の主寝室以外はペアガラスがはめられていますが「ここが少し肌寒いときでも上はいつも暖かくて、日差しが強い時は暑いくらい」。
春先の引っ越し以来、6m近い吹抜けのリビングで使った暖房器具はエアコン2台と子ども用のホットカーペットだけといいます。新築時に「一戸建でもマンション並みに冬暖かく夏涼しい家にしたい」と断熱重視の工法と窓を選んだご夫妻の思いにこたえる住まいとなりました。
そしてこれから迎える夏は、エコガラスの遮熱性能が楽しみです。
家の中でお好きな場所は? の問いに、パソコン関連の仕事をしているSさんは「私はライブラリですね。仕事を持ち帰ってずっとここでやってたりもします」。一方「ダイニングスペースです。子どもたちがリビングで遊んでいるのをちょうどよく見下ろせるし、キッチンも広くなったので料理もがんばりたいですね」と奥様。
打てば響くように明るく返ってきた答えに、大空間の中でお気に入りの場所を見つけ、使いこなしている様子が伝わってきました。
夫はライブラリ、妻はDK、子どもたちはリビングと、それぞれが好きなスペースに身を置きつつ、ひとつの場をともに過ごしている…スキップするS邸の空間は、そんなゆるやかであたたかい家族のつながりが自然に醸成されていく風景を想像させます。
大きな窓から射し込む豊かな自然光は、積み重ねられていく家族の時間をいつまでも柔らかく、照らし続けていくのでしょう。