開口部にこだわった新築レポート -東京都 I邸-
住宅形態 | 木造2階建 |
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住まい手 | 夫婦+子ども2人 |
敷地面積 | 48.488m2 |
延床面積 | 95.84m2 |
床から天井まで、そのほとんどが大きな窓。 階段を上って招き入れられたリビングは、おだやかな光で満たされた明るい空間でした。
精密部品の工場を営むIさんご夫妻が仕事場までの通勤を考え、住まいにと選んだ土地は、低層の一戸建が集まる静かな住宅地の一角。設計を依頼した並木秀浩さんからは、周辺に高い建物がない敷地を見るなり「リビングを2階に広く取って、窓から光をたくさん入れましょう」との提案を受けたそうです。
明るいリビングは大歓迎、でも「夏は暑くていられないのでは、と最初は心配でした」と、お話を聞かせてくださった奥様は話します。それでも「大丈夫。夏は涼しく冬暖かい家にします」という並木さんを信じ、まかせた家は、言葉に違わぬ「冷暖房のほとんどいらない住宅」となりました。
I邸の平面はほぼ正方形。1階はIさんとふたりのお子さんの個室にあてられ、2階は東側にIさんのご主人の部屋がある以外は全スペースがリビングダイニングになっています。リビングの南側は、床から3.5mの天井までほぼフルハイトとなったペアガラス窓の大開口。たっぷりと入る外光で日中は照明いらずです。
南面に大きな窓を切ると、明るい反面夏の暑さが心配ですが「真夏は太陽が屋根の上を通り、窓からは直接日光が入ってきません」とIさん。張り出した庇が直射日光を防ぎ、真夏の南中時の日差しがくるのはバルコニーと室内を隔てる敷居あたりまでとのこと。
I邸のファサードとなっている接道側からの西日も、屋根まで届く幅2mの袖壁を作ることでバルコニー側への射し込みを防いでいます。じかに日射を受けるキッチンの窓にはエコガラスを使いました。四季を通じて柔らかい光が入り、カウンターに並んだ鉢植えの緑の伸び具合も上々です。
さらに、I邸のほぼ中央に位置する階段の真上には天窓が切られ、自然光が階下まで落ちるようになっています。これもエコガラス。
最初は室内灯でいいと思っていたというIさんですが「最近わかったんですよ。年に2度、春分の日と秋分の日に家の真上に月が来て、この窓からまっすぐに月光が入るって。ああ、そうだったのかと。偶然の産物かもしれないけど、カッコいいんです」。
ご主人もお子さんも出はらった夜にたまたまおひとりで見ていたそうで、ラッキーでしょ、といたずらっぽく微笑みました。
太陽と月、それぞれの光を窓が上手に招き入れている…そんな想像がふくらむ家です。
I邸の2階は、南の大窓のほかに西側キッチンコーナーに突き出しとはめ殺しとを組み合わせた窓、北面には縦長のジャロジー窓。さらに東側のご主人の部屋にも窓がありと、四面すべてに開口部が設けられています。
「四方から本当によく風が通るんです。日差しが強い1時2時くらいをのぞけば、真夏でも冷房はいりません。風があれば、とにかく大丈夫」
ロールカーテンを効果的に使い、ときどき熱い風が吹き抜けることはあっても、夏場はすべての窓を常に全開。2階のほか、1階の各扉もすべて開けることで家じゅうまんべんなく風が通るそうです。
冬は冬で、大きな窓から入る日射で室内が暖まり「床暖房以外は何も使っていません」とIさん。1年のほとんどを冷暖房なしで快適に居られるリビングなのです。
もちろん省エネについても当初から考えていたそうで
「電気もガスもやっぱりリビングに集中するから、手をかけなきゃと思っていました。よかったです」。
窓のほかにI邸のリビングを特徴づけるのが、木をはじめとする自然素材の多さでしょう。
天井の真ん中を東西に走る梁には太い米松の丸太を使い、その存在感は圧倒的。片流れの屋根に沿って並ぶ垂木とともに、空間デザインの核となっています。明るい色調の床は足に心地よい無垢材のフローリングです。
加えて「普通のクロス仕上げと比べてかなり高かったけれど、これだけは夫が譲りませんでした」とIさんが振り返る壁は、珪藻土で塗り上げられています。
ご一家はIさんと娘さんが花粉症、息子さんもアレルギー性鼻炎があるそうで、家づくりにあたって家族の健康を一番に考えたご主人の思いが白壁ににじんでいるよう。
自ら呼吸し調湿作用もある木と土の建材に囲まれ、エアコンを使わずに自然の風と光を取り入れる部屋の空気を、Iさんは「透明感がある」と表現します。
「外の空気とは匂いが違うんです。植物に囲まれているような、クリアな匂いになっていますね」
取材に訪れたのは花粉症のIさんにとって窓を開けることができないつらい時期でしたが、クリアな空気の室内で体調の悪化もないと語る笑顔に、この住まいの「健康さ」が透けて見えるようでした。
共働きのご夫妻に大学生のお子さんふたりの家族。住まいは「大人4人が共同生活している状態」とIさんは笑います。言い換えれば、それぞれが自分の時間・自分の使い方でこの家を住みこなしているということでしょう。
昼間のリビングは主にお子さんが食事をしたり友達を呼んだりしてのびのび過ごし、それと入れ替わるように夜間と週末はご夫妻がテレビやオーディオ、昼寝などを楽しみながらゆったりとくつろぎます。
天井まで届く窓からは、青い空を流れる雲や新築時に植えられた椎の木が風に揺れる姿が、部屋のどこでも目に入ります。
「すごく気分が良くて、休みの日は一日中ボーッと空を見ています」とIさん。大開口にもかかわらず外からの視線はほとんど遮られているため、いつでも気兼ねなくごろんと横になれるのはご主人のお気に入り。置き畳をした自室からも空と緑が存分に眺められます。
竣工と同時にそろえた深い色合いの木製ダイニングセット周辺は、床より椅子が好きというIさんのスペースです。テーブルも椅子も「小さな子どもがいないから選べた(Iさん)」シャープなフォルム。精密加工部品のプロであるご主人が自らつくったバルコニーの手すりも、幼児が転落したりする心配がないことでできる洗練されたデザインです。
さらに、収納家具を造り付けにしてモノを置かないライフスタイルが、高い天井と相まってシンプルで広々とした空間へとつながり「大人のリビング」にふさわしいスペースになりました。
自然豊かな南の島で育ったというIさんは「これからはバルコニーにもっと植物を増やしていきたいですね」。さわやかな緑を加えてますます心地よくなっていくだろう、光と風と大人の居場所です。