開口部にこだわった新築レポート -ゆるやかにつながる中庭のある家 神奈川県 S邸-
窓は、単なる家のパーツではありません。光の取り込み、風の通り道、断熱・防音、眺望、インテリアetc……と、 生活を快適に保つさまざまな役目をあわせもっています。そう、開口部にこだわるということは、生活にこだわるということ。 そんな生活にこだわるご家族のお住まいを拝見しました。
今月の家を手がけた建築家:大川 直治
取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>
海から遠くなく、山の気配も感じられる町の一角に建つS邸。
アウトドアが趣味で、ご家族でキャンプをするのが楽しみというS様ご夫妻と、小学生と中学生の3人のお嬢様が暮らす家です。
シンボルツリーのヒメシャラのある中庭を望む「コ」の字型で、東西の住棟を北側の通路(および水回り)棟がつないでいます。
東側の住棟は、1階がガレージ、2階がLDK、西側は1階がご夫妻の寝室、ピアノなど楽器を演奏する音楽室、2階が子ども部屋となっています。
「この辺りは東西の風が強く吹くと聞いて、東西の開口部を大きくしました」と建築家の大川氏。
おかげで、「この家は風通りも日当たりもちょうどよく、本当に快適」とS様。
なかでも2階の東側のLDKは広いだけでなく、家族が気持ちよく過ごせるみんなのお気に入り。天井付近に設けた窓からは太陽の光が降り注ぎます。
西側の住棟を望む窓からは、中庭ごしに子ども部屋が見えます。LDKに向かって机を並べて配置していた時は、ご夫妻はリビングから子どもたちの勉強している姿を窓越しに眺めることができたとか。お子さんも集中できるし、親御さんも何となく安心、なんともほのぼのとした仕掛けです。
夏は海からの涼しい自然の風を感じて、冬はおひさまと床暖房で思い思いにくつろいでいるS様ご一家。広々とした開放感と居心地のよさから、家族が自然とLDKに集まってきます。
「前の家では家族で出かけることが多かったのですが、家で過ごす時間も増えました」とご夫妻。
もちろんゆとりの大収納と家事動線のよさが、より心地よさをアップさせていることはいうまでもありません。
東側と西側の住棟をつなぐ通路棟も、S邸の心地よさにはなくてはならないスペースです。
1階の通路棟には、作り付け本棚が。ご家族のお気に入りの本が並び、来る人を迎えてくれる、まさにS邸の顔となっています。
2階、子ども部屋とリビングをつなぐ部分には、洗面所と浴室が設けられています。この廊下部分には、中庭に面して天井までの大きな窓があります。滑り出し窓になっていて、通風を確保できるため、水回りにありがちな湿気もなく快適。この窓からの風は、東西の居住棟に流れるため、夏も冷房いらずとのことです。
S邸における通路棟は、空気や光、そして家族をもつなぐハブのような役割を果たしています。どこにいても家族の気配を感じたい、つながっていたい、そんな子育て世代の願いがこの廊下によって実現しているといえます。しかも、緩やかなつながりなので、時としてひとりになりたいこともある子どものニーズにも対応している点がすごいところです。
窓を多用しているS邸のすべての窓はペアガラス、とくにこの廊下部分を始めとする中庭を囲むエリアと南面はエコガラスを使用しています。
「明るく開放的な家で快適に暮らすために、ガラスはとても重要です」と大川氏。
これだけ大きな窓を随所に用いているのに、「『夏暑い』『冬寒い』ということはありません」とS様ご夫妻。もちろん結露もありません。
とかく、窓は光と風を取り込むと同時に冬の寒気や夏の熱も取り込んでしまうといわれがちですが、長所をそのままに弱点をカバーするのもガラスの力。ガラスは、生活を快適にするための黒子なのかもしれません。
設計プランは、メニューがあるわけではなく、施主様との話し合いの中でできあがっていきます。どのような家が欲しいのかという具体的な要望はもちろんですが、どのように暮らしたいのかを、本音で聞くことが大事です。まだ形になっていない施主様の要望をいかに設計に生かせるかが、建築家としての腕の見せどころでもあり、建築家と家をつくる醍醐味だと思います。