開口部にこだわった新築レポート -遊び心が見え隠れする家 東京都 M邸-
窓は、単なる家のパーツではありません。光の取り込み、風の通り道、断熱・防音、眺望、インテリアetc……と、 生活を快適に保つさまざまな役目をあわせもっています。そう、開口部にこだわるということは、生活にこだわるということ。 そんな生活にこだわるご家族のお住まいを拝見しました。
今月の家を手がけた建築家:今野 政彦
取材企画協力:OZONE家づくりサポート
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繁華街から徒歩圏の閑静な住宅地にあるM邸。ちょっと入り組んだ場所にあるいわゆる旗竿といわれる形の敷地に建つ、隠れ家のようなたたずまいの家です。景観を大事にする区域でもあり、建築条件が厳しいのですが、それだけに高い建物も少なく、住環境は最高です。
この土地になんとか明るい家を建てたいと、建築家の今野先生に設計を依頼したM様ご夫妻。当初は1階に寝室などのプライベートスペース、2階にリビングという間取りを思い浮かべていたといいます。ところが今野氏はこの場所を見て「南北は隣の家が迫っているため、大きな開口を設けることはできない。一方、西面には隣地のゆたかな緑があり、広さからいって将来宅地として売りに出される可能性は少ない」ことから、この緑をうまく借景として取り入れた1階リビングの、現在の間取りを提案したそうです。
思いきり西側に開いた家にするために、西側に大きな窓をすえました。光は西の窓の他、高い位置や階段回りの縦長の窓などで充分な採光がとれると判断したそうです。
近隣に光を遮るようなビルもないこともあり、明るい光が入り込み、日中に照明が必要なのは悪天候の日くらいだとか。まさに、ご夫妻が最初に土地を見たときの心配がうそのような明るい家です。
しかも、奥まった場所で、通りからはほとんど家の中は見えず、プライバシーもしっかり守れます。しかも、要所に窓があり、高い位置の窓は電動で開閉するので、夏は風も十分通ります。
もちろん、窓はエコガラス。夏の西日を防ぎ、冬の冷気を防ぐには、ガラスが大事というのは今野氏とMご夫妻の共通の考えだったそうです。
「多分普通のガラスだったら夏は暑くてたまらなかったかも?」と奥様。
M邸は、玄関を入ると北側にリビング、少し段差をあがって南面にダイニング、その東側にキッチン、そしてリビングの奥の東面に沿って階段があります。2階は、バスルーム、一段上がったところにフリースペースとご夫妻の寝室という間取りです。
六歳の息子さんと3人で暮らすなかで、それほど多くの部屋を望まなかったものの、それぞれのスペースをゆったり居心地よくしたかったというM様。
M邸では、フラットにして大空間を作るのではなく、それぞれの空間ごとに壁の色や床材などを変えてメリハリをつける方法をとりました。そのために一役買っているのが段差。メリハリがつくだけでなく、リビングの床を少し低い位置にしたことで3メートル以上もの高い天井が実現しました。
インテリアなどに造詣が深いM様ご夫妻。拝見すれば拝見するほど、ご夫妻のこだわりが見えてきます。
まず、ダイニングの白い壁と床の空間からつづく1階のトイレの壁。なんともいえないくらいかわいいピンク色!1階のトイレはピンク色がいいなと思った奥様、どうしても気に入った色が見つからず、ペンキを各方面でさがし、結局海外の色見本帳をもとに調合してもらったとか。
エコガラスもメーカーごとに色合いが微妙に異なるので、見比べて好みのメーカーにしたそうです。また、階段のラワン材の踏板はM様が探し出してきたお気に入り。
さらに玄関を入ったところにある間仕切り兼収納の家具は、今野氏がデザインして内部をM様ご夫妻がペンキで色分けして仕上げたとか。
このようにM様ご夫妻は既製のものでどうしてもしっくりこない部分は、じっくりと好きなものをさがしたり、作ったりなさっています。素敵なのはそのプロセスをとても楽しまれていること。そういう細部へのこだわりにも対応できるのが注文建築のいいところです。
「Mさんご夫妻は色々勉強して話をもってきてくれるので、ぼくも勉強になって楽しかったですよ」と今野氏。家を建てることになってから、文字通り今野氏とMご夫妻が二人三脚で2年ほどかけて竣工したM邸。
一昨年の秋の終わりに引っ越してから、好きなものを厳選のうえ買い足したり、ファブリックを活用したりと、住まいづくりを楽しんでいるご様子です。
「引き渡したときは、家はまさに素の状態。今ではすっかりMさんの色に染まってきていますよね」と今野氏。
暮しを楽しむ気持ちがたっぷりあるご夫妻のこと、これからこのシンプルでゆったりした家を、さらに"M家仕様の我が家"にカスタマイズさせ進化させていくことでしょう。
希望を伝えるにあたって、細かな仕様をリストアップするのも大事ですが、最もつかみ取りたいのは、施主様がどんなライフスタイルなのか、どんな住まい方がしたいのかということです。希望の仕様を積み上げるだけならだれでもできますが、ぼくは、その人の生活や生き方によりあった住まいを作りたいと思っていますので、雑談のような会話も大事にします。どんなことでも躊躇せずに話をしてほしいですね。