開口部にこだわった新築レポート -光と空気を家族と共有できる家 埼玉県 A邸-
窓は、単なる家のパーツではありません。光の取り込み、風の通り道、断熱・防音、眺望、インテリアetc……と、 生活を快適に保つさまざまな役目をあわせもっています。そう、開口部にこだわるということは、生活にこだわるということ。 そんな生活にこだわるご家族のお住まいを拝見しました。
今月の家を手がけた建築家:細谷 功
取材企画協力:OZONE家づくりサポート
<建築家選びから住宅の完成までをコーディネートする機関です>
玄関を入ると上から降り注ぐ光にびっくり。屋上まで通じた階段上部にはガラスボックスのペントハウスが設けられており、そこから入ってきた明かりが1階の玄関ホールまで届くのです。
A邸の間取りは、1階が寝室と予備室、2階がLDKとお風呂、そしてその先はゆったりとした屋上になっています。それぞれを縦に結ぶ階段はまさに家の背骨のよう。階段は、光が抜けるように軽やかな鉄骨階段です。
1階は階段を囲むように、2階は階段を挟んで、平面上にそれぞれのスペースが配置されています。それも、階段によって区切られているのではなく、階段があることで平面がつながっている感じです。トップライトは家中に光をもたらし、各フロアに広がっています。
リビングとダイニングキッチンが階段によって振り分けられている2階は、階段を中心にぐるりとまわれる設計。しかも壁ではなく、天井まである大きな窓ガラスで仕切ってあるので、キッチンカウンターからリビング全体が見渡せるなど、一体感のある空間です。
ご家族はA様ご夫妻と3歳と2歳の男の子の4人。二人のお子さんが、まだまだ手のかかるお年頃ということもあって、ひとめで居住スペースを見渡せることはご夫妻にとってとても重要なポイントです。
「お互いに同じ空間にいるという安心感があり、キッチンからリビングで遊ぶ子どもたちがすぐみえるので気軽に台所に立てます」と奥様。A様も、「仕事が終わって帰ってきて遅い食事をしながら、ガラス越しのリビングで子どもたちが遊んでいる姿を見るのがとても楽しいです。夜、ガラスに映りこむダウンライトの光もきれいで好きですね」とおっしゃいます。
2005年、A様は転勤を機に、ご実家で所有していたこの土地に家を建てることにしました。ここは駅から3分ほどという便利な立地ですが、東側は開いているものの、南北は敷地いっぱいまで隣の家があるという条件がありました。
A様は、南に窓が作れないし作っても光が入らないという条件のなかで、明るく、開放感のある家にしたいと思ったそうです。
まずハウスメーカーさんに相談しましたが、納得できる間取りの提案がなかったとのことで、2006年7月、オゾンの家作りサポートに申し込みました。
結婚した当初より家を作りたいという気持ちを持っていたご夫妻、近所を散歩しては「こんな家がいいね」と二人で話していたとか。もともと雑誌で家を見たり、建築関連のことに興味があったというA様。奥様もデザインや内装にこだわりがあり、すでに「こういう感じ!」というイメージがあったといいます。
そのなかで二人がとくに気に入っていた家を設計した建築家細谷さんがオゾンに登録していることがわかり、縁を感じたそうです。コンペを経て、やはり細谷さんがいいということになりました。
「明るさと開放感という観点で、階段とその天井にガラスを置くということはほかの人にはない設計でした。他にもごてごてした装飾はいらなくて、シンプルなデザインがいいとか、センスの面で細谷さんとは好みが一致しましたね」
2007年7月に地鎮祭を行い、年末に完成しました。
「始めは少しぐらい住みにくくてもスタイリッシュに暮らしたいという思いが強かった。そのためだったら多少不便でもいいという感じだったんですよ」と奥様。それが「子どもを授かってからは、そんな不便さを子どもに強いるのはどうかなあと思うようになったんです」。さらに、子育て中ということもあり、ある程度効率よく暮らすことも考えるようになったとか。
ということで、明るさ、開放感、シンプルさ、収納以外については、完璧は望まないという程度に割り切って臨んだというA様。
その結果、リクエストしたのは次のような点でした。「少々夏暑くても冬寒くてもいい」「機密性は結露が出ない程度にあればいい」「窓を閉めたら電車の音は聞こえない程度に」、でも「かっこ良く!」。
もともとセンスのあう建築家さんにお願いしたため、細かい仕様のなかで建築家が出した選択肢はどれをとっても納得できるデザインだったそうです。
「仕様についてはあれこれ考えたけれど、結局あるべきところに必要なものが残ったという感じ。どれもしっくりきていますよ」。
その結果、特に「明るさ優先」で選択したトップライトは、予想外に「冬は暖かく、夏も涼しく」させる機能をもっていて、ご本人たちもびっくりだとか。「夏はトップライトによしずを渡して直射だけ抑えれば、西からいい風が流れて気持ちがいいですよ。冬は逆にトップライトから暖かい光を受けて家中が温室のような感じ」。光熱費もそれほどではないといいます。もちろん結露もほとんどないとか。また、ペアガラスのおかげで電車の音も気になりません。
「なにはともあれ、明るさと開放感の引き換えにあきらめていた要素も満たされ満足です。細谷さんは初めから大丈夫と言ってくれていたのですけど、私たちは信じていませんでしたね(笑)」
「子育て時代まっただなかのA様ご一家。ここは家族と家が一体化した、アットホームで、安全かつ効率的な空間です。家が生活の場であり、安全な遊び場であり、すべての機能を備えています。
近い将来、現在の1階の北側フリースペースはお子さんの部屋になるとか。それまでは広々とした空間はゆったりとした遊び場として利用するとのこと。また、奥様はエステという特技をお持ちです。それを生かして奥様が起業なさることを念頭において寝室の東側にスペースを設けてあります。駅前というロケーション、入りやすい家のつくりなど、家庭的なサロンがオープンするのもそれほど遠くないかもしれません。
シンプルだからこそ、飽きも来ないし、時間がたつにつれて柔軟に使い方を変えることもできます。
家族の数だけ大事なものが違います。こだわるところにこだわったメリハリのある家作りのA邸は、時間を経るとさらに家族とともに進化していくのでしょう。