開口部にこだわった新築レポート -こだわりの家 東京都 O邸-
窓は、単なる家のパーツではありません。光の取り込み、風の通り道、断熱・防音、眺望、インテリアetc……と、 生活を快適に保つさまざまな役目をあわせもっています。そう、開口部にこだわるということは、生活にこだわるということ。 そんな生活にこだわるご家族のお住まいを拝見しました。
今回は、「ようこそ、我が家へ」初の建築家のご家族が登場します!
O邸の外観は、すっきりとした直線的なコンクリートの壁。地上3階、地下1階で、最上階の上部は北面以外ほとんどガラスが占める個性的なお宅です。
最上階にあるのは、普段の生活の場であるLDK。足を踏み入れると、まばゆいくらいの日の光に驚かされます。それもそのはず、東西南の 3方からダイレクトに日が入り込んでくるのです。しかも、高い位置に大きいガラスを多用しているので、すみずみまで光を取り込みます。光は、シンプルな白 い壁にとけ込むように柔らかい空気を醸し出し、北側のコンクリートの壁もあたたかな雰囲気です。
設計をした田邊先生によると、「高い位置の窓はもっぱら採光を意識したもの。このあたりは遮るものがないので、低い位置の窓でもよかったのですが、 今後高い建物が建たないとは限りません。そこまで見越して、高い位置の窓にこだわりました。もちろん冬場の日の光の角度も計算していますよ」。さらに、外 からの視線を気にしなくて済むようにという配慮で、南面は通風用の窓以外は高窓中心です。
また、道路に面している東面は、それほど視線を気にする必要がないので、低い位置にも大きな窓ガラスがはめ込まれ、全面ガラスです。
一方、西面の高窓越しに見える「空の部屋」(眺望自慢の屋上スペース)。背景の空が、部屋からつながった空間のようで、空も部屋のパーツに思えるほど奥行きを感じさせます。
採光だけではなくプライバシーも考え、さらに東西に長いLDKならではの特性を生かし東西に視界を開き開放感を出すという、まさに一石三鳥の工夫です。
これだけ窓が多いと心配なのは、冬のしんしんとくる寒さと、夏の太陽熱。O邸ではその対策として、3階部分のガラスはすべてエコガラスにしました。その結果、「同じような条件の家に住んでいないので正確な比較はできませんが、不満はほとんどありません」とO様ご夫妻。
冬は、太陽のおかげで3階全体が日だまりとなって寒さ知らず。夏は、風の通り道に配置された窓のおかげで、エアコンをつけなくて済む日もあるそうです。もちろん「空の部屋」への入り口をあけて、階段方向から入る風も一役買っています。
これにはエコガラスをすすめた田邊先生も「最上階の居室にこれだけガラスを使うことは、普通なら暑すぎてまずNGなのですが、エコガラスだからエアコンをつければ大丈夫と考え踏み切りました」。要はエアコンをつけるのが前提だったのです。「でも、最初の夏にうかがったとき、O様はエアコンをつけずにいたんですよ…」と驚いたそうで、「予想以上の効果」と言います。
一方、O様はさらりと「エアコンはあまり好きじゃないし、これくらいならなんとかなるものですよ」。
結婚を機に家を持つことを考えたご夫妻。
マンションではなく、一戸建てにしたのはガレージが欲しかったからというO様。土地探しを始めると同時に、車庫のある家を特集した住宅雑 誌にのっていた田邊先生に設計をお願いしました。そして、建てたい家のイメージと必要な大きさなどを伝え、そこから二人三脚で家づくりをすすめてきました。
O様同様、車好きの田邊先生、「この家の主役はガレージ」と言うだけあって、単なる車庫としてではなく、車も家族の一員として収まる場としてのガレージができあがりました。清潔で使いやすい空間でゆっくり車にふれあうひとときは、休日のO様のとっておきの時間です。また、1階から地下へ続く階段の踊り場はO様の書斎を兼ねているスペースなのですが、そこからガレージの車庫がガラス越しに眺められるようになっています。「ふっと横を見ると、いつでも車が見えるのはとてもいいですね」とO様。車好きの気持ちを熟知した、気の利いた仕掛けは、当初予想していなかったサプライズだったようです。
ガレージ以外の仕様は、奥様の希望を最優先で決めたというO邸。
たとえば、コンクリートの打ちっぱなしに住んでみたい、という希望。斜線規制のためにどうしても斜めにならざるを得ない3階の北面の内装をコンクリートにすることでしっかり生かされています。さらに、たっぷり奥行きのある収納スペースとして大活躍。「生活空間としては使えなくても収納にだったら問題ないですから。大助かりですよ」と奥様。
また、洗濯機をキッチンの横に持ってきたり、調理台の高さをご夫婦に合うものにしたりと共働きならではの工夫も随所にみられます。いちばんの仕掛けは3階のコンクリート部分に打ち込まれたアンカーボルト。用途は洗濯物干しのためのフック。「とにかく日当たりがいいのでよく乾きますよ」と奥様。
そのほか、地下は収納、1階はガレージと駐車場、2階は寝室やバス・トイレなどのプライベートゾーンというようにフロアごとにコンセプトをしっかり分けたO邸。「ひとつの空間で、一連の生活ができるようになっているので、メリハリがありますね」。
竣工して約2年、お子様も生まれ、O邸もにぎやかになりました。家族が増えても、バリアフリーで、シンプルなつくりの家は掃除がしやすく、子どもの空間もフレキシブルにつくれるので、いろんな意味で正解だったようです。
「似たような敷地で同じくらいの大きさの建売住宅をみたことがあるんですが、収納もなく、動線もめちゃくちゃ。そこでは生活できないと思いました。やはり注文建築っていいなあと思いましたね」と奥様。家にあわせて暮らすのではなく、暮らす人にあわせた家のよさは、住むほどにじわじわとわかってくるもののようです。