開口部にこだわった新築レポート -こだわりの家 東京都 T邸-
窓は、単なる家のパーツではありません。光の取り込み、風の通り道、断熱・防音、眺望、インテリアetc……と、 生活を快適に保つさまざまな役目をあわせもっています。そう、開口部にこだわるということは、生活にこだわるということ。 そんな生活にこだわるご家族のお住まいを拝見しました。
「ホントに、ここが北側?」
ここは東京・中野の閑静な住宅地。築3年のT邸は、1階は親世帯、2階は子世帯の二世帯住宅。北側にある玄関に一歩足を踏み入れるとトップライトからの日差しがまぶしいほど…。つい北側であることを忘れてしまいます。
第一印象はとにかく「明るい!」のひと言。西面と南面がほとんど窓と、単に壁面に占めるガラスの面積が大きいだけでなく、トップライトが随所に配置され、日の光が入り込まないスペースはほとんどありません。そのため、1年中まんべんなく光が注ぎ込みます。とくに太陽の位置の低い冬は、大きな南側の窓からの日差しが北側のキッチンまで届くといいます。
トップライトのある東側の浴室も「いつも明るく気持ちがいいので、休日は冬でもよく朝風呂をしています」とT様。奥様も明るいうちにお子さんと一緒に入浴なさるそうです。
ガラスを多用した家は、明るいのはいいけれど夏は暑く冬は寒いと思われがちです。また、ヒートアイランド現象が騒がれている昨今、都心のお宅はさぞ暑いのではとたずねてみました。すると、「それがそんなに暑くないんですよ」と奥様。
秘訣は北の絶妙な位置に配置したルーパー窓。南から入ってくる風が北側の窓からうまく抜けていき、エアコンが必要になるのは気温30度以上のときだけとか。思いのほか涼しくて、実際この夏は数回しか稼働しなかったそうです。
「夏は風がよく通り自然の涼が得られる、冬は光だけを取り込みつつ暖かい。とにかく健康にもいいし快適ですよ」
T様が家づくりにあたってこだわったのは「明るさ」と「開放感」。それを一気に解決したのが、この「窓の多い家」です。
親世帯の玄関脇にある内開きドアから入って階段を上ると、T様ご夫妻と2歳の息子さんが暮らす空間。入り口の引き戸を開けると広々とした空間がひとめで見渡せます。間取りは、北側の入り口から入ったところに吹き抜けのキッチン。そこからしゃれたテーブルのあるスペースを通り、大きな木の梁をくぐったところが南側のリビング&寝室スペースになります。いわゆる大きなワンフロアで、プライベートスペースのリビング&寝室への境目には引き込み式の引き戸があり、必要に応じて開け閉めしています。リビング&寝室スペースの上はロフト。
この縦に長い間取りは、敷地の形に理由があります。南傾の高台にあり南北に長いため、南側の日当たりは抜群ですが、北側は暗くなりがち。一方東西は隣接して住宅が建っており、朝夕の日の光には限界があります。そこで、高い位置の窓とトップライトを組み合わせて窓を配置したのだそうです。
また、取り入れた光を家中にめぐらせるために、仕切りを極力省きました。それはイコール「開放感」をもたらすもの、つまり一石二鳥だったようです。
ワンルームの北側にあるキッチンスペースは、特注のキッチンセットなど、パンづくり教室を主催する奥様のこだわりが集約されている場所です。
お客様を呼んで教室を開くオフィシャルな空間として活躍できるよう、色使いも白とオレンジ以外は色をもちこまないシンプルで機能的な仕様になっています。もちろん、プライベートとの使い分けも考え、収納もしっかりと計算ずみ。
キッチンの北の窓枠はメタリックでクールな感じ、西側は大きな木枠の窓で温かみをもたせてと、スペースの用途によって色や材質のトーンを少しずつ変えるなどのきめ細かな演出もあります。
さらに、ただ広いだけでなく、空間の意味を考えたレイアウトが、開放的かつ落ち着きのある空間をつくっています。立ち仕事が多く人の出入りもある北のキッチンから南にいくにしたがって、用途としてのプライベート度が上がり、同時に生活空間が立ち位置から徐々に低い場所へと移動していきます。そして、太い木の梁を境に、ご家族のプライベートなスペースに!低い上品なソファとテレビのある空間は、まさにゆったりとして落ち着けるくつろぎの場所です。
ゆったりとした空間から生まれる開放感に一役買っているのは、南側の大きな一枚ガラス。南傾の高台に位置するため、もともと南からの採光は申し分ないのですが、この大きな窓によって一枚絵のような眺望の楽しみも加わりました。
とくに新宿の高層ビルの景色はT様のお気に入り。昼は近代的な都会のビル群、夜はゴージャスな夜景と、毎日毎晩堪能しているそうです。
窓の景色も家の一部。それをまるごと自分のものとして味わえるのは、シンプルな大きな窓ならではです。
大人ふたりのスペースとして始まったT邸ですが、お子さんが誕生しても、とくに仕様を変えることなく過ごしていらっしゃいます。もちろん、ベッドの位置を変えたり、ロフトの階段にネットをはったりしたとのことですが、基本的には最初の大人の家がそのまま子供仕様としても十分対応できたそうです。間仕切りのないゆったりしたバリアフリーの作り、広い収納スペースが幸いし、ゆったりとフレキシブルに住まわれています。
そして現在、家の中全体を遊び場としてのびのび動き回る2歳の息子さん。開放感のある空間はじつにじっくり遊びに集中できる環境です。奥様もお子様の気配を感じながら、家事や自分の時間を過ごしています。「どこにいても家中ひと目で見渡せるし、お互いの気配もわかるので安心感があります」と奥様。
「ワンフロアで緩やかな区切りのある空間は使い勝手がよく、フレキシブルでいいですね」とT様。これからお子さんが就学して個室が必要になったときは、現在フリーな空間として活用しているロフトを子供部屋にすることを検討中。
個室であっても家族の存在感がわかる、そんな子供部屋が理想だそうです。さらに遠い将来、お子さんが巣立ったときは、ご夫妻でロフトや家のなかの仕切りをもう一度考える予定とか。ライフステージにあわせて変化する、まさに家族とともに進化する家です