事例紹介/リフォーム ビル

「ノーリスク・ハイリターン」
小さなお店のエコリフォーム

-岐阜県 旬菜料理 心屋郡八-

Profile Data
立地 岐阜県郡上市
建物形態 木造平屋建(古民家改修)
利用形態 飲食店
リフォーム工期 2017年12月(1日間)
窓リフォームに使用したガラス 真空ガラス

庭が見えない、衣服が濡れる… 客席窓の結露に悩む

環境省選定日本名水百選の第1号に選ばれた湧水『宗祇水』を擁し、至るところで清流の流れを目にする郡上市八幡町。心屋郡八はまちを東西に流れる吉田川の北側にあり、通りからは郡上八幡城の天守も眺められるロケーション

店内は3分の2を客席、残りを厨房として入口から奥まで縦に割ったレイアウト。12坪という狭小の床面積に「設計は5回し直しました(笑)」という労作だ。3連の大きな窓は客席唯一の開口部でもある。坪庭は「店が少し狭くなっても、どうしてもつくりたかった」吉田さんこだわりのランドスケープ

岐阜県関市出身ながらこのまちを愛し、長く暮らしてきた吉田收成さんは、料理の一切を手がけるオーナーシェフだ。店名の『心屋郡八(こころやぐんぱち』は人名をイメージするとともに「郡上八幡の心やぞ、という思いを込めました」

長良川の大支流・吉田川をはじめ、幾本もの清流に抱かれる水の里・郡上市八幡町に、窓のエコリフォームに成功した日本料理店を訪ねました。

2016年夏にオープンした12坪の小さなお店『旬菜料理 心屋郡八』は、古い民家を改修して利用しています。店主の吉田收成さんが1年かけて探した建物を、知人の設計士とともにリノベーションしました。

いわゆる"鰻の寝床"タイプの店内は手前にテーブル席、奥に坪庭を眺める3枚の窓がある座敷席があります。オープン時にはシングルガラスが入っていたこの窓が、エコリフォームの対象です。

郡上市は四方を山に囲まれた内陸性気候のまちですが、日が落ちればしのぎやすくなる夏よりも冬場がいっそう厳しい土地柄。
吉田さんの一番の悩みも、寒さで発生する窓の結露でした。

「毎朝8時半頃から仕込みを始めますが、窓は結露で真っ白。庭も見えません。何よりも、窓際に座ったお客さまがちょっとよりかかった拍子に服を濡らしてしまうことが問題でした」

薄いシングルガラスの窓からは、冷たい外気も容赦なく入ります。
「席に着いたお客さまが上着を羽織りだしたり『膝掛けありませんか?』ときかれるのが辛かった」と吉田さん。確かに、寒いと直接言われる以上に気になりそうなお客さまの反応です。
リノベーション時、壁には新しい断熱材を入れましたが、窓まわりはコスト面がネックになり、最終的にシングルガラス採用になったとのこと。

オープンして半年後、この結露と冷えの問題が目の前にはっきり現れたとき、リノベ工事でガラスを担当した八幡ガラスの小酒井善久さんに吉田さんは声をかけました。

「今は無理だけど、来年はガラスをどうにかしたいんです」
開店1年目の経営状況を考えた堅実な相談を、小酒井さんは一も二もなく引き受けました。互いによく顔を知り、地域に密着して仕事をする者同士ならではの"呼吸"が感じられるようです。


営業時間の合間をぬい、たった1時間で真空ガラスに交換

つくりつけの窓枠に直接はめ込む形態のため、リフォームではサッシもグレージングチャンネルもない"素"の真空ガラスが持ち込まれ、施工された

外側から木枠で真空ガラスを押さえている。打ち回したビスは目立たないよう小さなものが使われ、八幡ガラスの気配りがうかがえる

入口から入ると左手に厨房、右手にテーブル席があり、中央の通路が奥の座敷へと続く。施工時は座敷の手前、座敷、そして坪庭にひとりずつスタッフを配置してガラスの受け渡しを行い、狭い店内での安全を図りながら素早い作業を行った

翌2017年、次の冬を前にエコリフォーム計画は動きだしました。

小酒井さんが提案したのは2種類のガラス。コストを抑えた複層ガラスと、性能を重視した真空ガラス(エコガラスの一種)です。
吉田さんは迷わず真空ガラスを選びました。コストを重視したせいで期待した断熱性能が出ず再工事になる不安より「最初から万全にしようと思いました」

小酒井さんも「郡上八幡の環境なら、やはりエコガラス」さらに存在感のある木製窓枠のデザインをそのまま生かすには「真空ガラスと思っていました」とうなずきます。

満を持しての工事は「忘年会シーズンに間に合わせたい」という店主の希望を受け、12月中旬に決定。
"お店の営業に支障があってはならない"と、小酒井さんはランチ営業終了時から夜の営業が始まるまでのほんの数時間を狙って、施工に臨みました。

店舗設計時からこだわった木の窓枠は、建物の躯体に固定されています。そこに直接ガラスを入れて庭側から別の木枠で押さえている、サッシを使っていない窓なのです。
この木枠を外して既存のガラスを取り出し、真空ガラスへと交換しました。

用意されたのは80cm×1.3mほどの真空ガラス3枚。八幡ガラスの3人のスタッフの手が、お店の入口からテーブル席の通路を経て、小上がりになっている座敷、さらに奥の坪庭まで、大きなガラスを手際よく受け渡します。
坪庭のある外側まで持ち出してから、元のガラスを抜き出した窓枠の溝に入れ、木枠で再度上から押さえました。あとは小さなビスを注意深く四方に打ち回し、作業は完了。

厨房で仕込みをしながら工事を見守っていた吉田さんが、シングルガラスの取り外しから真空ガラスへの入替完了まで「1時間もかかりませんでしたよ」と振り返る早業でした。


結露と寒さが消え、電気代が2割減に

奥の席と窓がきわめて近い座敷では、坪庭をつくるか客席を広く取るかでギリギリの選択をした店主の思いをかいま見るようだ。結露すれば衣服が濡れる状況がよくわかる。今はその心配もなくなった

坪庭から座敷を見る。土壁に腰板を張った落ち着いた和の空間に、市内在住の60~80代リピーター客が多いこともうなずける。建具の向こうがテーブル席で、脇に厨房スペースが延びる

入口に近いテーブル席は明るくモダンな雰囲気だ。天井埋込のエアコンがあるが、風除室のない入口引戸の出入りがあるたび外気が流れ込むため「今後は費用対効果を考えながら、断熱リフォームを考えたい」と吉田さん。なにげなく置かれた箸置きは、実は八幡ガラスの手になるもの

工事当日の夜から変わったはずのお店内部の環境は、実際のところどうだったのでしょうか。

「お客さまは意外と気づかないんですよ(笑)」と吉田さん。続けて「そのかわり、膝掛けある? ときかれなくなり、上着を羽織る人もいなくなりました」
誰も何も言わず、自然に席についていられるようになった…店内環境としては申し分ないといえるのではないでしょうか。

暖房は、テーブル席のある入口側の天井に埋め込まれたエアコン1台で客席から厨房まで店内全体をまかなっています。エアコンは座敷にもありますが、こちらはほとんど使っていないとのこと。
暖房機器から遠くて大きな窓がある、本来冷えやすい座敷側の空間が暖かく保たれるようになりました。吉田さんいわく「今はテーブル席の方が寒いくらいです」
お客さまの服を濡らしていた結露も解消され、坪庭も楽々と眺められます。

しかし、吉田さんがもっとも驚いたのは電気代でした。
「前の年より1万円近く、劇的に下がったのです」

エアコン機器は既存のまま。加えて倉庫にしている2階に新しいワインセラーや冷凍ストッカーを導入したため「以前より電化製品は増えているんです」
ともにお店を守る奥様と理由を考えても「やっぱりガラスしかないね、と。本当にびっくりしました。すごいですよね」

ちなみにエアコンは朝の仕込み時から営業終了まで、午前8時半~深夜1時までつけっぱなしで、この使い方も変わっていないとのこと。
それで電気料金2割減とは、確かに"劇的"な省エネ効果といえそうです。


コスト・店内環境・デザインまで 店舗経営に一役買うエコガラス

昨今の八幡町では、若い世代が古い民家を改修して飲食店を開くなど新たなまちづくりの動きが続いているといい「もとからついている木の窓枠をそのまま生かす工事も多いですね」と小酒井さん

午後6時の時点で気温が零下を下回ったこの日、窓際の席で晩餐を楽しむ家族連れの背後を守る真空ガラスに結露は見られなかった

"八幡の心"を映す柔らかな灯火が、真冬の夜をやさしく照らす

「絶対エコガラスに変えた方がいいですよ。なぜって? "ノーリスク・ハイリターン"だからです」
店舗や事務所の窓リフォームを検討する人に向けての、吉田さんのアドバイスです。

結露が解消されたのはもちろん『あのお店は寒い』といった評判が立つ心配もなくなり、工事費も少し長い目で見れば電気代が下がった分ですぐペイできる。「デメリットがまったくありませんよね」とにっこりしました。

心屋郡八は小さなお店。今回のエコリフォームも、決して大げさな改修ではありません。

しかし、結露・寒さの問題が消え、自慢の坪庭の存在が回復し、電気料金が2割下がった…この結果を思うとき、規模の大小に関わらず"快適な店内環境の構築"や"店舗デザイン=個性の表出"さらに"事業経費の削減"まで、さまざまな側面から店舗経営を静かに支えているエコガラスの姿が見えてはこないでしょうか。

取材に訪れた日、郡上八幡の最低気温はマイナス8℃を記録しました。けれど日が落ちて再度訪ねると、フレンチとイタリアンの色を加えた目にも美しい創作和懐石を楽しむ人々で店内は満席。橙色の灯りが窓からこぼれる小さなお店は、凍るような星空の下に浮かぶ、温かなかがり火のようでした。


取材協力 小酒井商事 八幡ガラス
URL http://gujo-hachiman.madoshop.jp/shop/index/
取材日 2018年2月8日
取材・文 二階幸恵
撮影 中谷正人

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