-岡山県 津山市総合福祉会館-
立地 | 岡山県津山市 |
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建物形態 | RC造地上4階地下階建 |
利用形態 | 事務所・集会所・貸しスペース等 |
リフォーム工期 | 2016年10月~11月 |
窓リフォームに使用したガラス | アタッチメント付エコガラス・真空ガラス |
利用した補助金等 | 経済産業省 平成28年度ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB) 実証事業 |
2016年度工事費用(屋根・空調・照明等含む) | 約5200万円 |
見事な石垣で知られる津山城址を擁するまち・津山は、岡山県下第3の都市にして美作エリアの中心を担う存在です。
中心部に建つ津山市総合福祉会館が今回のエコ改修の主役。2016年からZEB*1化改修に取り組み、BELS*2五つ星を獲得しました。
さまざまな社会福祉団体の事務所・拠点スペースや福祉関連相談室のほか、自由な市民活動に向け開放された大小の会議室群も入っている4階建です。
改修のきっかけは「築30年を超え、空調の水漏れも始まって、設備の更新を迫られたことですね」
事業主体である社会福祉法人・津山市社会福祉協議会(以下津山社協)で総務課長を務める坂手宏次さんは話します。
潤沢な予算もなく、当初はエアコンの交換と屋根防水、はがれた外壁タイルの補修程度…と考えていたとのこと。
しかし、隣接する津山市役所の環境福祉部低炭素都市推進室から、ある提案がありました。
「ZEB化改修事業と位置づけて経産省の補助金を受けてみてはどうか」というのです。
この建物は津山社協の所有物ですが、敷地は市有地を借り、運営予算には津山市の補助や業務委託収入も入っています。
なによりも地域福祉は社会性の高い業務の代表格。その担い手として「社会的責任を考えることは確かに重要だと思いました(坂手さん)」
提案を受けて、シンプルな設備更新・補修から一転、高度な省エネルギーと環境保全を前提とするエコ改修事業がめざされることになりました。
北の中国山地と南の吉備高原にはさまれた津山盆地は、夏暑くて冬寒い内陸性気候です。とくに冬場は北寄りの季節風が吹き、一日の最低気温が氷点下3~5℃まで下がるのも普通という土地柄。
この地で年間7~8万人が利用する建物を、暖かくて快適な省エネビルへと"変身"させる試みが始まったのです。
改修にあたり、3つの組織による協働体制がつくられました。
事業主体である津山社協、全体計画・監理を担当する津山市環境福祉部低炭素都市推進室、さらに具体的な調査・分析・設計管理・コンサルティングを行う環境エネルギー事業会社『備前グリーンエネルギー(以下備前GE)』。
この三者が週に一度のペースで集まり、改修計画を煮つめていきました。
計画の大前提は、ZEB化事業向け補助金の交付対象になり得る高い省エネ性能の実現です。
その基礎となる一次エネルギー消費量などの計算・分析を担当した備前GE業務部長の山口卓勇さんは「貸し館業の面もあり、一般的な事務所建築と比べて読みづらい部分も多くありました」
始業から終業までルーティンに稼働し、利用する人数や用途もほぼ変化がないオフィスビルなどと違い、総合福祉会館は市民ホール的な用途で断続的に使われる大会議室や、利用頻度にばらつきのある研修室や小中会議室といった"貸しスペース"が大きな面積を占めます。当然、曜日や季節による変動もあります。
そんな状況下で検討されたZEB化計画は
①BEMS*3導入
②窓ガラスや屋根など建物外皮の断熱性能向上
③新しい空調設備導入
④LED照明への交換
の4つを主な手法として、練り上げられました。
いまや非住宅建物エコ改修工事のスタンダードとなった①では、 室別や用途別のエネルギー使用量を個別に把握して分析し、省エネ運用につなげるシステムを構築。
③では、ダクト方式だった空調をマルチエアコンへと大幅に変更し、さらに全熱交換器と連動させ、省エネ効果の向上とCO2濃度制御の実現をめざしました。ナイトパージも取り入れています。
④はもはや説明不要? 現代エコ改修のほとんどで採用される要素です。
そして②では、防水処理も兼ねた屋根の断熱工事のほか、ほぼすべての窓がエコガラスに交換されました。
工事方法は今あるサッシをそのまま残し、ガラスだけをエコガラスに換えるやり方です。建物の東西面にある回転窓には真空ガラスを、それ以外のほぼすべての窓には中空層にアルゴンガスを封入して断熱力を上積みしたエコガラスが入れられました。
しかし、坂手さんも山口さんも"計画初期の段階では窓ガラスの交換は想定外だった"といいます。
なぜでしょうか。
「冬暖かくて夏涼しい。体感がまったく違うのがLow-Eガラス(=エコガラス)です。エコ改修なら何も言わずにLow-E、が基本ですね」と山口さん。
異常気象などで急激に寒さや暑さが感じられた際に出てくる使用者からのクレームが、エコガラスでは見られないそうです。
その反面、補助金申請用に熱負荷計算を行う場面では目立った貢献ができない特性を持っているというのです。結果、予算計上に至らず見送られてしまうことも。
数値というもっともわかりやすい指標の前では、やむを得ないのかもしれません。
でも、と山口さんは続けます。熱エネルギー負荷軽減の主役にはなれなくとも「ガラスは"バッファとしての存在"が大きいんです」。
今回の改修では、コスト削減のため空調の性能をギリギリまで落とし、エコガラスと全熱交換器とでカバーする設計が選択されました。
結果、基準一次エネルギー消費量から58%の削減が見込めることになり、低予算ながらBELS認証最高レベルの五つ星獲得につながったのです。
「ギリギリまで攻めつつ、快適性も得られる。Low-Eガラスのきわめて大きなメリットだと思います」
実際の工事現場でも、エコガラスは優位性を発揮しました。
窓改修の工期は2016年の10月~11月。
2ヶ月足らずの間に面積にして約260㎡、計232枚もの窓ガラスを入れ換える工事は、会館内での利用者の活動にほぼ影響を与えずに進められたのです。
津山社協の坂手さんいわく「この"使いながら"が一番のポイントと思っています」
さらに「既存建物のエコ改修は大変と言われていたのですが、ガラスについては空調や照明より短時間の工事ですむので、精神的にも楽でした」とにっこりしました。
既存サッシの状態がよかったことや、建物にベランダがついていたのも幸いしました。作業効率のよさとともに「足場分のコストがかからなかった。これは大きかったですね」
大きな建物の窓ガラスを全部換えるのは大変そう…二の足を踏みたくなる不安は、実は無用のようです。
津山市総合福祉会館では、空調や照明機器の更新工事が今も続行中。改修による建物全体の省エネ性能の実像は、完工までもうしばらくお預けです。
しかし窓については、エコガラスの施工直後から「暖かくなった」の声が利用者から聞かれ、エアコンの設定温度管理を任されている担当者も「あったかいからあんまり暖房入れなくていいんだよ、と言っています」と、坂手さんは顔をほころばせました。
エコガラスの得意分野である快適性の向上と、室内の熱を窓から外に逃がさない断熱力が、十分発揮されているようです。
会館では以前、年間約500万円の光熱水費がかかっていました。これは全体の経費約1200万円の4割にのぼる金額です。
改修で確実に下がるだろうこのランニングコストを「福祉事業に向け有効活用していきたい」と坂手さん。
社会福祉法人は生じた収益をすべて福祉・公益事業に充てるのが前提です。
そこで取り組まれるZEB化とは、省エネによるコスト削減や地球環境への貢献のみならず、削減された一次エネルギーを"支援が必要な人や住民の文化活動を支える別のエネルギー ── 例えば人的・物的な福祉サービスの充実、会議室レンタル料金の値下げなど ── へと転化・昇華する"、そんな側面をも持ち合わせているのではないでしょうか。
地域を支える福祉団体に活動拠点を提供すると同時に、豊かな市民活動を応援する使命を帯びた津山市総合福祉会館。その改修を「永続性を念頭に、数十年単位で考え、皆が安心できる施設にしようというイメージで取り組みました」
坂手さんの笑顔の向こうに、"みんなのためのエコ改修"というフレーズが透けて見えるようでした。
*1 Net Zero Energy Buildingの略で、ゼブと読む。エネルギー負荷の抑制や自然エネルギーの活用、高効率の設備導入等で、快適な室内環境を維持しながら大幅な省エネを実現しかつ年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることをめざす建築物を指す
*2 Building-Housing Energy-efficiency labeling Systemの略で、ベルスと読む。建築物省エネルギー性能表示制度。建物のエネルギー消費性能を第三者機関が評価・見える化することで、高い性能を持つ建築物が市場で適切に評価され選ばれる環境をつくることを目的に定められた。非住宅建築物では一次エネルギー消費量と外皮性能をもとに評価され、評価は☆の数による5段階で示される。評価申請時は申請書・設計内容(現況)説明書・図面等・計算書などを提出する
*3 Building Energy Management Systemsの略。ベムスと読む。住宅以外の建築物のエネルギー需要をITを利用して最適に管理するためのシステム。住宅向けのものはHEMS(Home Energy Management Systems:ヘムス)