-山形県 山形市立蔵王第三小学校・蔵王第二中学校-
東北有数の山岳地帯・蔵王連峰。その麓に広がる温泉地に隣接した小さな学校が、今回のエコ改修の舞台です。明治の時代から子どもたちを見守ってきた歴史ある学校とエコガラスがコラボレーションしました。
きっかけは2010年。豪雪と低温にさらされる校舎の一部に“おためしエコガラス窓”が取付けられます。山形県サッシ・ガラス協同組合の寄贈でした。
2008年に『エコ窓推進事業部』を立ち上げ、エコガラスをはじめとする断熱ガラス窓の普及活動を続けてきた窓のプロたちが、新たに掲げた『エコ・スクール整備構想』のモデル事業として白羽の矢を立てたのです。
「窓を換えるだけで室内環境がこんなに変わる。そんなすばらしいものとして、エコガラスを知ってほしいという思いでした」と、同組合理事長の須藤清昭さんは振り返ります。
開口部の断熱化による温熱環境の改善が省エネルギーや教育環境向上にどれだけ寄与し得るのかといった“調査研究活動”の側面もありました。
施工は寒さが本格化する前の11月、教室ひとつと職員室にエコガラスの内窓をつけ、もうひとつの教室ではカバー工法でサッシも含めた全体をエコガラスの窓に交換。
工事後すぐと翌年2月の計2回、温度計測やサーモカメラによる撮影など一連の断熱効果計測・検証が行われました。
1回目の計測では、外窓の表面温度10℃のときにエコガラスの内窓は22℃と、12℃の温度差が確認されました。
2回目の計測では、外窓は10.4℃で内窓は24.1℃。外は雪景色、外気温1℃の中で温度差13.7℃を記録したのです。
数値に加え、改修された空間に身を置いた先生たちが肌で感じた効果も、また明らかだったといいます。それは校舎全体の窓への採用を行政に強く求める動きに発展しました。
現場の声を受け、山形市は2012年から毎年継続工事とし、総額2000万円の予算をつけて蔵王第三小・蔵王第二中の全教室の窓改修へと踏み切ります。
窓のエコ改修工事は夏休み期間に限定され、4年のときをかけてゆっくり進められました。
対象は特別教室も含めた全教室の窓です。既存のアルミサッシ・シングルガラス窓の内側に、樹脂製窓枠を採用したエコガラスの内窓をつけることにしました。
病院・庁舎・オフィスビルなど建物の種類はいろいろありますが、なかでも学校建築はとくに採光が求められ、教室は大きな窓を並べて明るくしているのが普通です。
開口部の多さは同時に、外の環境からの影響を受けやすいことをも意味します。冬が厳しい蔵王第三小・蔵王第二中では、各教室内にふたつあるいは3つの石油ファンヒーターが置かれています。
一方、ホールやトイレなどは今回の改修対象から外されました。
廊下や階段の踊り場など、教室以外にも学校にはたくさんの窓があります。冬の教室移動で感じた寒さを思い起こす方もいるのではないでしょうか。
蔵王第三小・蔵王第二中の場合、建物中央にふたつの階段を擁するコアスペースがあり、ここを中心に南側と北東側に教室が並んでいます。いわゆる“中廊下型”的な平面で、直接外気に触れる開口が廊下部分に少ないのです。教室以外の空間に関しては一般的な学校よりも影響が少ない、そんな可能性はあるかもしれません。
限られた予算内で何を優先するかといった点で、参考になる判断ともいえそうです。
初年度の施工は、山形市内で長くガラスを扱い、卸から販売施工までを手がけてきた竹原屋本店が行いました。
毎年夏休みに入った直後に採寸を行い、その後図面の作成と内窓製作を行って、最後に取り付けと検査・手直しをして終了。「現場での工事は実質一週間程度でした」と、社長の五十嵐慶三さんは話します。
2学期の始業式にはいくつもの教室の窓に新しい木目調のエコガラス窓が並んでいる…そんな状況が4年間続きました。
エコガラス窓の効果を、省エネルギー面と室内での体感の2点からうかがいました。
改修事業が始まって以降、学校では毎年冬期(11月~4月)の灯油使用量の調査・記録を続けています。
試験調査を含めた2010年から全改修が完了した2015年にかけての結果を見ると、改修範囲の広がりにともなって毎年減っているのがわかります。調査6年目には、初年と比べて17%の削減率が確認されました。
暖房機器の使い方について、蔵王第三小学校教頭の佐藤郁子さんにうかがうと「石油ファンヒーターは、廊下の気温が14℃以下になった時点で使い始めます。毎朝7時頃、子どもたちが登校してくる前にスイッチを入れ、温度設定は18℃くらい。授業が終わるまで運転して、下校時にスイッチを切ります」
ヒーターは改修後もとくに更新していませんが、2台使いがあたりまえだった教室が1台で間に合うようになりました。従来の半分のエネルギーで室内が暖まり、外に漏れ出すことなく保たれているのでしょう。
「それに、消した後も30分以上はそのままの暖かさが持続しているのを感じます。職員室も同様ですね」
先生たちからも「暖房を点火した後、室内が早く暖まってそれが持続する」「消火後も暖かさが続いている」「エコ窓のない廊下との気温差をとても感じる」といった声が多く聞かれています。
廊下に窓がある3階の教室では、子どもたちからも温度差について指摘があったとのこと。
加えて「窓の断熱力が上がった分、工事対象外の金属の扉が激しく結露し、付近の寒さもより強く感じるようになりました」とも。
開口部の断熱改修で、改修しなかった開口部に結露が集中するのは、実はよく聞く話です。このことも工事計画時には、頭のどこかに入れておきたいもの。
佐藤教頭からは、意外な話も飛び出しました。
「6月頃はエコガラスの内窓を開けて、外窓だけにしておくんです。閉めておくと寒いので」
もともと夏は過ごしやすい蔵王ですが、エコガラスの断熱力が初夏の外気をきっちり遮断しているさまが目に浮かぶようです。
これを裏付けるように、先生方のコメントの中には「真夏は内窓を閉めている方が涼しい」との言葉も見受けられました。
灯油使用量の減少など省エネ効果が具体的な形で現れたことを受け、山形市では2017年度以降、市内にある複数の別の小中学校でも、エコガラス採用の断熱改修事業を実施することを決定しました。
生徒数20人に満たない小さな山の学校のエコ改修が行政に影響を与え、教育現場の環境とエネルギーコストの改善に向け新たな動きが生まれたのです。
一連の改修劇を俯瞰すると、その真ん中に、事業を初めから現在まで支え続けるガラスのプロたちの姿が見えてきます。
これはサッシ・ガラス協同組合のお取組あっての成果では、と水を向けると、組合員である竹原屋本店の五十嵐さんが「山形は“環境先進地”なんです」とにっこりしました。
山形県は、独自の環境計画策定のほか、地球温暖化防止活動から再生エネルギーまで総合的な環境の学びと啓発活動に力を入れているといいます。
その土壌を背景に、組合はエコガラスをはじめとする機能ガラスを『エコ窓』というわかりやすい言葉で周知・普及に努め、地球温暖化防止活動に参加してきました。
県内の環境イベントには常にブース出展し、 組合員の80人以上が山形県地球温暖化防止活動推進センターが認定する『環境マイスター』です。
蔵王第三小・蔵王第二中へのエコガラス寄贈も、これら多くの取組の一環にほかなりません。
「エコガラスを贈るなら、やはり公共性の高い学校などに向けたいのです」
須藤理事長の言葉からは、山形全県に向けた広い視野がうかがえると同時に、建材無償提供といういわば“身銭を切る”手法には、環境重視を標榜するサッシ・ガラスのプロ集団の“本気”を示そうとする気概が感じられます。
山形市の新たな小中学校エコ改修計画決定にも、このエネルギーの伝わりが一役買ったに違いありません。
文部科学省は、2016年4月の時点で公立小中学校の耐震化が98.1%完了したと発表しました。その一方で学校施設全体の4分の3が築25年以上であり、うち7割が内外装や設備類の劣化対策やエネルギー高効率化といった環境性能の向上などに「何らかの改修が必要である」とも指摘しています。
いまや国内ほとんどの自治体にとって厳しい予算は大前提。そんな中、学びの環境の向上と省エネ化に寄与する学校エコ改修を、五十嵐さんは「ビジネスというより“世の中にとって本当に役に立つ仕事”と考えています」と話してくれました。
「子どもたちが大きくなった時『そういえば小さい頃、学校の窓工事で環境について教えてもらったなあ』と、きっと思い出してくれる。それを大事にしていきたいですね」
派手ではなくコツコツと。その積み重ねがやがて確実な成果として実を結ぶ… 取材に訪れた初夏は、折しも山形名産のさくらんぼの最盛期。小さな赤い宝石に、蔵王の青空を映す小さな学校の窓の姿が重なりました。