-栃木県 ファイブエイトゴルフクラブ-
立地 | 栃木県矢板市 |
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建物形態 | RC造2階地下1階(1988年竣工) |
利用形態 | ゴルフ場クラブハウス |
リフォーム工期 | 2013年12月 |
窓リフォームに使用したガラス | エコガラス |
利用した補助金等 | 平成25年度 住宅・ビルの革新的省エネ技術導入促進事業(ネット・ゼロ・エネルギ−・ビル実証事業) |
工事費用 | 約2,000万円 |
今回のエコリフォームは、北関東のゴルフ場が舞台です。
日本を代表するプロゴルファー・丸山茂樹さんのホームコースである『ファイブエイトゴルフクラブ』の敷地が広がる栃木県矢板市は、夏の気温は35℃にもなり、冬はマイナス10℃近くまで下がる、典型的な内陸性気候のまちです。
「冬は日光・男体山から吹き下ろす<男体おろし>のほか、那須連山からも冷たい風がきます」と、社長の小森寿久さん。一度雪が降るとなかなか溶けない、低温の土地柄でもあります。
この地で築26年を経たクラブハウスが、窓リフォームの対象となりました。
建物は1階がロビーや大浴場、ロッカールーム。2階にレストランとラウンジ、複数のコンペルームが配置されています。眺望を考えて多くの窓がついているため、一年を通して外気温の影響がかなり感じられたといいます。
フロント裏の事務室は西日にあぶられ、その一方で北に面する支配人室は「夏でも寒いくらいでした(笑)」とは、使い手本人である小森さんの言葉です。
リフォーム以前、クラブハウスはA重油を熱源に全館空調していました。四半世紀前の古い設備は<お客さまが毎日満杯になる状態>を想定して作られ、お客さま数がひとけたの日もフル稼働しなければならず、効率の悪さは推して知るべし。
加えて暖冷房の切替にそのつどコストと時間がかかるため、使い勝手が悩みの種でした。
そんな中で起こった東日本大震災が、窓・空調・照明設備を一新し、徹底した省・創エネルギ−に取り組む直接のきっかけとなったのです。
「あまり報道されなかったけれど、栃木県北部エリアは被害が大きかったんです。瓦屋根や塀はほとんど崩れ、このあたりは一週間断水しました。食べ物も飲み水もなかった」
井戸を持っていたファイブエイトゴルフクラブは、給水ポイントとなることを矢板市に申し入れ、1台だけ動いた重油ボイラーで沸かした大浴場も開放します。テレビやラジオで情報を聞いた市民が大勢つめかけ、一日中焚き続けるボイラーの燃料調達にスタッフは奔走しました。
ガソリンすら枯渇する中、一日500リッターにものぼるA重油の手配は「難しかった。お金があっても買えない状況の中で、これはなんとかしなければいけないなと思いました」
この経験が、小森さんが以前からあたためていた<森林を含めて豊かな自然が残るゴルフ場の敷地を活用し、ゆくゆくは半自給自足の里山エリアをつくる>構想に火をつけました。
壮大なスケールのエコ事業が始まったのです。
今回の事業には<ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業(ZEB化事業)>より、経費の3分の2が交付されています。
高効率エアコンやLED照明での省エネ、太陽光発電とバイオマスボイラーによる創エネのほか、エコガラスで窓をリフォームしてクラブハウスの断熱性能を上げることが、補助金獲得の条件でした。
「2000万円くらいかけて窓ガラスを交換する。ここは一番悩んだところです」と小森さんは振り返ります。まだ使えるガラスを廃棄しなければならないうえに「実は費用対効果が悪いんですよ」
ZEB化事業の助成を申請するために行ったエネルギ−削減率計算では、重油から電気への熱源変更や給湯関連と比べ、窓の性能アップがもたらす効果は数値で見る限りかなり低い、という結果が出たのです。
「経営者として、正直、本当に悩みました」
しかし、そのとき体験したエコガラスの性能デモが小森さんの背中を押したのです。
「エコガラスと普通の複層ガラスでつくったガラス箱の中に電球を入れたキットをさわってみてください、というあれですよ。『これは手品かい? …ああ、すごいな』って。とくにうちは客商売ですから、お客さまの快適性向上という面で考えれば、費用対効果は高いんじゃないかと思ったんです」
償却まで何年かかるのか。頭を抱えつつ下した決断で、大小159枚、面積にして300㎡のクラブハウスの窓が、ほぼすべてエコガラスに交換されました。
既存のサッシをそのまま残しての窓リフォームは2013年の12月。年中無休のゴルフ場のため、営業が終わった夜中の数日間を工事期間にあて、年内に終了させました。
エコガラス窓に換えた後の室内環境について、小森さんもスタッフも口をそろえて「中間期が長くなった」と表現します。
中間期とはいわゆる真冬でも真夏でもない、言い換えればあまりエアコンのお世話にならずにすむ期間を指しています。この地域では4月〜6月、9月〜10月といったあたりでしょうか。
「エアコンを一切使わない期間が非常に長くとれるようになりました。うちでは、使わない電源はブレーカーから落とすので、いざエアコンを稼働させるときには一日程度時間をおかなければならないのですが、そんなときも我慢できる。リフォーム以前の切替時は、暑さも寒さも大変でした」
クラブハウス2階にあるレストランのスタッフ・江面佳子さんは「この夏の冷房は8月しかつけなかったですね。窓をところどころ開ければ7月も9月もつけずに過ごせました」エアコンをつけるのは体を動かした後に入ってくるお客さまのためですね、とにっこりしました。
一方、寒さが厳しい冬は、レストランの中央と西側のラウンジとに置かれた2台の暖炉が活躍することに。
「暖炉でかなりまかなえるので、エアコンは真冬以外つけませんでした。その暖炉も、お客さまがちょっとつけてみて、すぐに暑くなって消しちゃったり(笑)」と、冬場もエアコンの存在感は小さめ。
天井が高く北側に窓が並ぶレストランスペースは、本来冷えやすいつくりです。エコガラスの断熱力で暖炉の熱が外に逃げず、すみずみまで届いているのでしょう。
既存のサッシを残してガラスだけをエコガラスに交換したことで窓自体の様子は変わらず、緑の眺望を今まで通りに楽しめます。
ただし、と小森さん。「工事後、サッシからも熱がけっこう伝わることを実感しました。うちの場合はお客さまに眺望を楽しんでいただきたいのでやむを得ない面もありますが、単純に外皮性能の向上をめざすなら、サッシごと新しい窓を入れて二重三重にする方法がいいのかな、とも思いますね」
職場としての環境改善にも、エコガラスは効果を発揮しました。
江面さんからは「厨房スタッフに『窓が変わってから寒さが全然違う』と聞きました」との話も飛び出します。
「足元がコンクリートで冷えがひどかったらしいんですが、今年の冬は暖かいって。ガラスでこんなに変わるんだなあ、と話していましたよ」
さらに、スタッフ全体を統轄し、事務方の責任者でもある副支配人の岡本和宏さんは、西日の熱にさらされる事務室の環境についてこう語ります。
「OA機器もたくさんあるので、以前はキンキンに冷房をかけていましたが、この夏のエアコン設定温度は28〜29℃。あとは窓を開けてちょっと風を入れるだけで過ごせました」
工事以前の「一年を通して空調する状態」から、クラブハウスは劇的な変化を遂げたようです。