事例紹介/リフォーム ビル

夏は熱、冬は乾燥。パソコンが招くIT企業の悩みを解決

-大阪府 ワールドリンクシステム-

Profile Data
立地 大阪府大阪市
建物形態 RC造6階建(1992年竣工)
利用形態 事業所
リフォーム工期 2013年7月~11月
窓リフォームに使用したガラス エコガラス、真空ガラス
工事費用 約300万円
施工 ガラスステーション

西日とコンピュータ。ふたつの共通点はなんでしょうか? そう、<熱>です。
強烈な西日と多数のパソコンやサーバーが発する熱気の悩みを、快適さと省エネへと変換したIT企業のエコ改修をご紹介しましょう。


排熱がこもる夏、加湿器使用不可の冬…コンピュータ会社の室内環境は厳しい

建物は1~3階に店舗が入り、4~6階がワールドリンクシステムの業務空間。隣の建物が低いため、午後遅くの上層階は西日をまともに受ける
業務スペースでは25台のコンピュータが朝から休みなく稼働する。スタッフが外出し人数が減っても、終業時間までパソコンのスイッチが切られることはなく、熱は発生し続ける
パーティションで区切られたサーバールーム脇の扉はガラス交換せず、白い紙とエアキャップを使った田口さんお手製の断熱材を今も張っている。「ここはあまり人が使わないし、サーバールームへの影響もないので」

ワールドリンクシステムはコンピュータ技術の指導やソフトウェアの開発、プログラム設計を専門とする会社です。ロケーションは新大阪駅にほど近い、中高層の集合住宅やオフィスビルが立ち並ぶエリア。自社が所有するビルの4~6階フロアで17名のスタッフとともに業務を行っています。

田口雅也社長にエコ改修のきっかけを問うと「夏は西日がひどいのと、たくさん使うパソコンからの熱がこもって大変でした。電気代も抑えたかったんです」との言葉が返りました。

社内の業務スペースでは、25台のパソコンが稼働しています。
「3台のエアコンを置いていましたが、設定温度を18℃にしても効きません。そのくせ夕方になると急に効き出して冷え込む。安定できないんですよ」

多くのパソコンから発生する熱が室内にこもるため、春先3月から除湿モードでエアコンを使って空気を回していた、梅雨時は寒かったです、と田口さん。
ほかにも、会社の心臓部であるサーバールームでは、365日24時間エアコンを運転する必要があります。旧型の大きな機種を使っていましたが「朝は冷えすぎて夏でも寒いんですよ。電気も食うし、もっと小さなクーラーで耐えられるようにしたかった」

その一方で、真夏の始業時の業務スペースは室温40℃にもなりました。セキュリティ保持のため、前の晩から完全に閉め切らなければならないからです。
「エアコンのスイッチを入れて20℃台まで下げるのに、1時間以上かかりました。スタッフはみんな、出勤してすぐパソコンを立ち上げますしね」

冬は冬で、窓際とそれ以外の場所の温度差が大きく、28坪の業務スペースの四隅に大きな温風機を置いて暖めなければなりませんでした。
こうなると乾燥が心配ですが、コンピュータは湿気を嫌うため、加湿器は使えないのです。

次々と出てくる、コンピュータ中心のオフィスならではの問題。田口社長も、ただ手をこまぬいていたわけではありません。

強い西日が射し込むトイレの窓やバルコニーにつながるガラス張りのドアには、白い紙と包装用のエアキャップを使った手作りの断熱材を張りました。
同じく西側のロッカースペースや階段室の窓にはUVカットフィルムや遮光カーテンを使い、外から入りこむ熱を防御。

あの手この手で奮闘する田口さんの助っ人を買って出たのが、窓リフォームのプロである(株)ガラスステーションを擁するサン硝工の代表取締役・三宅耕平さんでした。
こうして、コンピュータ満載のIT企業を困らせてきた「暑くて寒いオフィス」の環境改善に、エコガラスの出番が回ってきたのです。


太陽光発電よりエコガラス。創エネから断熱・遮熱にシフト

南側の道路に面した社長室の窓はアミ入り真空ガラスに入れ替えた。向いに建つ建物と目線が合うため、セキュリティ面からくもりガラスを採用している
業務スペース東側の窓では、アタッチメント付きのエコガラスによる改修が行われた。隣接するビルの壁が間近に迫り、東側だが直射日光が入ることはない
「スタッフが汗かいて出てくるのでね」西向きの洗面・トイレは田口さんがもっとも気を遣った箇所のひとつ。エコガラスへの窓交換を終えた後もそれまで下げていたすだれを使い続け、できるかぎり西日の入り込みを防ぐ

当初、田口さんのオフィス環境改善計画の中に<窓の改修>は入っていませんでした。
「建物の屋上全体に太陽光発電パネルを置いて発電しようと考えていました。エアコンの室外機への日射を防ぐ庇がわりにもして、遮熱塗料も使おうと。自分たちで発電してエアコンの電気代を抑えようと思っていたんですね」

しかしこの計画は、屋上の形態が太陽光パネルを全面に置ける状況でなかったこと、さらに「どうやっても採算が合わないことがわかった(田口さん)」ため、頓挫しました。

既知の間柄だった三宅さんがエコガラスによる遮熱・断熱リフォームを提案したのは、このときです。
それは「快適なオフィス空間には大きなエネルギ−が必要。だから自分たちで作ってコストを抑える」考え方から「建物の開口部の遮熱・断熱力を上げて、外からやってくる熱をはじめから入れない。そして小さなエネルギーで室内を快適に保つ」スタンスへの転換でした。

改修では、メインとなる業務スペースと社長室、サーバールームの開口部をすべてエコガラスに入れ替えました。道路に面した南側の窓にはアミ入りの真空ガラスを採用し、それ以外はアタッチメント付きのエコガラス窓を選んでいます。
どちらも、既存のサッシをそのまま生かす工事方法です。

西向きのトイレとロッカースペースの窓は、エコガラスに入れ替えた後も引き続きUVカットカーテンやすだれをかけ、直接射し込んでくる日の光を二重にガード。西日の熱気を防ぐためのより有効な状態を作り上げました。

その一方で、同じく西側の階段室の窓には手をつけず、従来どおり遮光カーテンで日射を遮っています。ここには三宅さんの提案がありました。

もともと田口さんは、他と同様にエコガラスへの交換を考えていたそうです。しかし三宅さんは「室内の空調が届かないので、夏場の暑さに対してはあまり効果がないと思います、と伝えました。ここは正直に言わないとね」と笑いながら振り返ります。

実際、建物内の移動でスタッフが階段を使うことはほとんどなく、エレベーターを使うのが通常です。現状を考慮した上でのこのような判断は、とくに予算面を考える際に参考になるのではないでしょうか。


快適、省エネだけじゃない。働く人が健康になる? エコ改修

業務スペースの北側は横連窓で明るい。反面、冬は外からの冷気が多く入り、冷たい空気が下に流れるため、窓際に席を持つスタッフの足元は冷えて大変だった
3台の大型サーバーが鎮座するサーバールームは、社内でもっとも安定した環境が求められるスペース。エコ改修後、業務用の大型エアコンから家庭用のコンパクトタイプに変更したが、室温は24時間22~23℃を保てるようになった
業務スペースから北側のバルコニーに通じる扉のガラスもエコガラスに交換

工事は2013年7月、9月、11月の3回に分けて行われ、それぞれ営業日を避けた土日の2日間で完了しました。

第1回の工事対象は、メイン空間である事業スペースです。これからが暑さ本番という時期の改修は、効果を確認するにはわかりやすいタイミングでした。

工事後「設定温度18℃にしても効かなかった3台のエアコンが2台に減り、22~23℃設定で7、8月も普通に過ごせました。一日の温度差も小さくなりました」と田口さん。
台数の減少は、隣の業務スペースから流れてくる冷気で間に合うので社長室のエアコンをつけなくなったから、だそうです。

温室のようだった始業時の室温も、下がり方が早くなりました。
「まず、40℃あった出社時の室温が工事後は30℃台に落ちました。そこにエアコンをつけ、24、5℃にまで1時間で下がるようになった」
短い時間で室内環境を整えて業務に集中しやすくすることも、オフィスのエコ改修においては重要なポイントといえそうです。

次いで行われたのはサーバールームの改修。ここだけは24時間稼働が必須のエアコンですが、家庭用のコンパクトな機種で事足りるようになりました。
さらに3回目として6階の休憩室を工事。ほぼすべての窓がエコガラスに変わったのは晩秋11月でした。

そして迎えた冬も、室内環境は昨年の状況から一変していたのです。

窓際に席を持つスタッフの「足元が寒い」という声がなくなり、業務スペースに置かれていた4台の温風機はすべて撤去されました。窓の外から入り込んでいた冷気がエコガラスで遮断され、室温のムラがなくなったのでしょう。
エアコンは夏と変わらず2台体制、設定温度は27℃です。

その隣の社長室では、エアコンのスイッチは夏同様切られたまま。
田口さんいわく「ここは南の窓からの光が入るので、冬でも暑いくらい。暖房は全然いりません」

もうひとつ興味深かったのが「この冬は風邪を引くスタッフがいなかった」という話です。

湿気を嫌うパソコンが主役の業務スペースでは、加湿器は御法度です。そこに温風機が4台もあったら… 室内の激しい乾燥は想像に難くありません。
いきおい風邪を引く人も多く、改修以前は「ひとりが引けば同じ島に机を置くスタッフにうつり、一挙に3、4人引いたりしていました」

雪も多く、寒さが厳しかったこの冬にひとりの風邪引きも出なかったことに「たぶん、室温差がなくなったことと乾燥の度合いが下がったことも関係があるのかな」自分の感覚ですけどね、と田口さんが笑いました。

電気料金も気になります。
取材にうかがった3月下旬は、例年ならすでにクーラーが使われている時期でしたが「今は空調なしです」とのこと。
エアコンの台数が減り、温風機は片づけられ、サーバールームを除くすべての空調をオフにできる時期ができた今、その電気コストは
「窓を換えてからは、1ヶ月平均 18 万円だった電気料金が 10 万円まで下がりましたね」


信頼関係を築きつつ、効果がなければ工事撤回も視野に

食事や酒席を多く共にし、プライベートでも親密という田口さんと三宅さん。自身がフェイスブックに上げる窓やガラスの情報をよく見ていた、との田口さんの言葉に、三宅さんは破顔一笑
改修対象から外され、今もエアキャップと遮光カーテンで日射を遮る階段室。用途と効果を厳密にはかる田口さんの姿勢が垣間見える
業務スペースの大きなFIX窓も、アタッチメント付きエコガラスに交換された

一般的に個人住宅より規模が大きく、かつできる限り業務に支障が出ないことを求められるオフィスのエコ改修。成功させるためには予算も含めた高い計画性が必要です。
それに加えて田口さんは<優先順位を決めることが大切>と話してくれました。

「どこを大事にしていくか、でしょうね。うちの場合は予算よりも<用途と効果>を考えました。何が必要で、それに対して改修がどれだけの効果をもたらし快適にしてくれるのか。その効果を信じることができれば、実行する。
反対に予算ありきだったら、その範囲でできることをプロとよく話し合えばいいと思うんですよ」

とにかく何度も話をすることやね、と隣を振り返る田口さんの姿に、三宅さんへの信頼感がにじみます。
打合せを重ねた後は、改修内容の提案から工事計画書の作成まで「僕らが考えたのは安全についてだけです。どんなガラスにするかとか利便性については、餅は餅屋で任せました」
この委任にこたえ、ガラスステーションによる工事計画と施工が会社の業務やスタッフに負荷をかけることは、一切なかったといいます。

その一方で、工事を3回に分けたのは田口さん自身の深い考えによるものでした。

「よくなりますよと言われても、換えるまではわかりませんから(笑)カタログは見ましたが、結局は自分で実感しない限りはね。
だから、暑くなる時期に第1回めの工事を決め、ターゲットとして25台のコンピュータがある業務スペースを選びました。効果があると思えなかったら改修はここだけにする、と決めてね」

2回めのサーバールームの工事は、業務スペースでのエコガラスの効果を7、8月でしっかり確認した上で実施されたのです。
そこには、冗談めかして「僕はすごくコストを抑えますよ」と語る田口さんの奥底にあるクールな経営者感覚が反映されています。

さらに「エコ改修はLEDよりエコガラスがいい」との見方も披露してくれました。
「LED照明を入れようと思って照度を全部測って見積を取りましたが、その投資効果よりも窓を換えた方が得だ、と出た。電球は照明費用を抑えるだけなので、トータルでの電気料金を考えたらエコガラスですね」

LEDから太陽光発電パネル、遮熱塗料にいたるまで、インターネットの海に浮かぶ無数の情報を拾っては勉強し、自ら窓に手作りの断熱材を張った企業トップの実務感覚。
その厳しい眼鏡にかない実現したエコ改修オフィスは、エコガラスを通ってくる柔らかな光を受けながら、今日もスタッフとコンピュータ双方の快適さと健康を支えています。


取材日:2014年3月27日
取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人

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