-東京都 三鷹市役所-
立地 | 東京都三鷹市 |
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建物形態 | RC造5階地下2階(1965年竣工) |
利用形態 | 官公庁(地方自治体市庁舎) |
リフォーム工期 | 2010年11月~2011年2月 |
窓リフォームに使用したガラス | エコガラス(真空ガラス) |
利用した補助金等 | 東京都地球温暖化対策等推進のための区市町村補助金 |
工事費用 | 約6,000万円(全額補助対象) |
三鷹市本庁舎は1階ロビーもガラス張り。その一角にちょっと変わったスペースがあります。
<さわってくらべて!>と名付けられたこの場所は、環境政策課と首都大学東京の須永研究室が協力し、エコ改修の効果を市民に知ってもらうためしつらえたもの。エコガラスに交換された窓に実際に触れることができます。
「エコガラスと単層ガラスを両手でさわっていただいています。冬には単層ガラスの表面は10℃くらい、エコガラスは20℃。外気温がそのまま伝わってくる単層ガラスは『ああ冷たいね』とわかってもらえれば」と岩崎さん。
逆に中庭側から触れると、ロビー内の熱が逃げているので単板ガラスの方が暖かく感じられます。
展示は西向きの窓を使っているため、西日の熱も体感可能。「午後には西日が非常に強く当たります。まぶしさもすごいので、改修後も電動のスクリーンを使っています」
<さわってくらべて!>コーナーに対する住民の関心は高く、子ども連れの人など「何これ? さわってみようかな」という感じで気軽に楽しんでいるそうです。
かたわらに置かれた、環境政策課制作の庁舎エコ改修を紹介したパンフレットも持ち帰られることが多く、電話などでの問い合わせがたくさん来ています。
またエコガラスの他に高性能の断熱材を使った「断熱内戸」も合わせて展示され、「エコガラスと一緒に体験してみてください」と須永教授。
このコーナーができた背景には、今回の改修事業で100%の助成を受けた東京都の補助金の存在も大きかった、と岩崎さんは振り返ります。
「提案型の公募だったので、ただガラスを換えるだけでなく、その省エネ効果を市民に対してどうPRするか、大学などの研究機関とどのように連携していくか、といったところまで考えて提案することが必要でした」
エコガラスへの交換による室内温熱環境の変化やそこで働く人の体感調査など多くの測定調査や分析を行い、省エネ効果を目に見える形で表現・発信した須永研究室との協働も、もちろんこの一環です。
一般への普及活動や学術分野と連携する研究・蓄積は、助成を活用した公共施設のエコ改修の必須項目になりつつあるのかもしれません。
外に向けた発信のほか、首都圏の市役所という大きな組織全体に関わる改修工事をいかにスムーズかつスピーディに進めるかも、今回の改修の大きなテーマでした。
三鷹市役所では、事業を中心となって引っ張ったのは環境政策課。さらに工事面での実働部隊として公共施設課が連携して計画を進めました。
具体性を持って動き始めたのは「2010年の4月。その後3ヶ月くらいで環境政策課が依頼先や工事コストについて調べ、下準備をしました」
夏には複数の関係部署の部課長クラスで情報を共有し、役割分担が決まります。
参画したのは環境政策課・公共施設課のほか、庁舎の管理を請け負う契約管理課や土木担当の都市整備部道路交通課、さらには中庭の芝生化事業向けに緑と公園課も。
「部長同士で確認し、その後の調整会議で市長や副市長に入ってもらって、決定しました」
その後は市議会に諮ったうえで補正予算が承認され、11月中旬から工事が本格化します。終了期限が翌年3月31日であることを思えば、タイトなスケジュールといえるでしょう。
加えて総面積約1,200m2もの窓ガラスを順次交換していくという、経験したことのない工事は手さぐりでした。
「どれくらいの時間がかかるかわからなかったので、食堂の窓を使って施工の試験をしてみたんです」と話すのは、当時の公共施設課所属で、初期の工程表づくりから工事全般に最後まで立ち会った米川浩二さんです。
ここで割り出された作業時間をもとに「ガラス業者さんが最初に作ってくれた工程表をもとに、各課の方とスケジュールを調整・見直ししていきました」
日程が決まってからは、週に一度の定例会議で週末の工事について施工側と確認。作業前日にあたる金曜日の業務終了後に工事対象部課に出向いて、所属職員に家具を動かしてもらいます。
土日で工事を行った後、月曜の朝は職員に今度は少し早めに出勤してもらい、家具を元に戻して、最終的に不具合がないか現場監督が必ず確認する…
この手順を繰り返し、3月には約1,000枚のエコガラスが本庁舎を包み込んだのでした。
工事をする土日以外は常にふだんどおりの機能が求められる市役所のために、施工現場では徹底した安全対策がとられました。
古いガラスを割ってはずす際のガラス片飛散を防ぐため、ブルーシートのほかにベニヤ板で窓を囲んだり、割ったガラスをコンテナに運ぶ経路も熟慮して、途中で破片が落ちればハンディ掃除機ですかさず吸い取ります。
「とにかく掃除です。破片は靴の裏につくこともあり、そのまま歩くと危険なので靴拭きマットで落としていました」と米川さん。
通常は工事期間中は残しておく養生も、平日に来庁する市民のために毎回取りはずし、次の土曜日にまたつけるようにしました。
不特定多数の人々が出入りする場で、しかも断続的に行われる工事では、このように細かな注意が求められます。工期を通しての無事故実現は、このような努力に負うところも多いのでしょう。
業務時間外での家具移動など、協力をお願いすることになる各課職員に対する気遣いも欠かせません。さまざまな行事から残業スケジュールまで考慮し、環境政策課と公共施設課は工期の間じゅう、きめ細かい調整を続けました。
その中心となった岩崎さんと米川さんは「とにかく理解を得ることが大切」と口をそろえます。
「綿密に段取りの話をし、先に工事が終わったところを見てもらいます。もとが古いので、見た目で違いがはっきりわかる(笑)こんなに変わるんだ、きれいになるんだとわかってもらえます」と米川さん。
「暖かくなる、環境がよくなる、すきま風がなくなりますから、というのが、職員にPRするときの説得材料でした」と、こちらは岩崎さん。
実際、工事終了後には<自宅の窓にもエコガラスを入れたい>という声が上がり「このガラスはいくらぐらいするの? と聞かれたりしましたね」
公共施設の窓のエコ改修に今後取り組むとしたら? の問いに、岩崎さんいわく「建替や大規模改修の計画がある建物でまずやって、効果を実感してから次のステップに進めばいいと思います。あとは仕掛けづくり。エコガラスで暖かくなれば職員の健康管理や業務効率が改善され、エアコンをかける時期も短くなります。そのあたりもしっかり勘案して導入すればいいのでは」
一方、米川さんは「工期の自由が利くなら、春や秋がいいと思いますよ(笑)」
「ガラスの工事は内と外がツーツーなので、他のフロアで仕事していた方は結構寒い思いをされていたようです」5ヶ月のあいだ、毎週現場に立ち続けた者ならではのリアルなアドバイスが飛び出しました。
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市庁舎をはじめ、数々の公共施設でエコ改修や省エネ化を成功させてきた三鷹市は、ほかにも省・創エネ住宅に向けた市の認定証発行や環境基金の創設など、さまざまな仕掛けで<サステナブル都市>を目指しています。
その中にあって<市民に向けた事業と同時に、庁舎内でも省エネ・新エネ化の主体として仕掛けし発言する課>である環境政策課が牽引したエコ改修。
それは歴史ある庁舎を現代の技術で省エネの殿堂へと見事に変貌させただけでなく、<持続可能なまちづくり>に、多くの市民・職員の心を身近なかたちで一歩、引き寄せたのではないでしょうか。