事例紹介/リフォーム ビル

改修補助金に再挑戦、新しい窓と空調で快適オフィス

-山形県 山形市管工事協同組合-

Profile Data
立地 山形県山形市
建物形態 鉄骨造2階建て(1990年竣工)
利用形態 事業所(協同組合事務所+貸事務所)
リフォーム工期 2011年4月~6月
窓リフォームに使用したガラス エコガラス『さくらんぼ』
利用した補助金等 平成22年度国土交通省建築物省エネ改修緊急支援事業
施工 竹原屋本店



20年使用で老朽化した空調設備と開口部を同時に一新

山形市管工事協同組合事務所は、山小屋風の大屋根がかかった、個性的な外観のオフィスビル。
窓外に緑の木立が眺められる会議室でお話をうかがった。
エントランスを入ると廊下に沿って各テナントの扉が並び、その先は吹抜けになっている。
腰窓が連なり、開口部の多さが印象的な業務スペース。
内窓が設置された東面の窓。樹脂サッシはすべて白色で統一されている。

日本国内のオフィスビルストックは、2010年時点で約9000万㎡。その約6割が、今から15年前の1997年以前に建てられたものです(日本不動産研究所・全国オフィスビル調査より)。

15年と言えば、建物の外皮や配管、空調設備などが修繕や取替を迎える時期。ビルにも健康診断や、日常より一歩踏み込んだメンテナンスが求められる時期といえるでしょう。

今回のエコ改修の舞台・山形市管工事協同組合の事務所も、そんなビルのひとつです。
竣工は1990年、20年選手の山小屋風建物には、組合事務局のほか山形市内の上下水道や空調衛生関連の各種工事を担う事業者がテナントとして入り、大小の会議室も備えられています。

改修のきっかけは、老朽化による空調設備のダウンでした。
灯油を燃料とする熱交換タイプの設備で、竣工以来ずっと全館冷暖房を続けてきましたが、工事前の数年間は「1シーズンに数回は故障しました。そのたびに修理担当者が仙台から来るまで全員が暑さや寒さを我慢していたんです」と、改修時に組合事務局長を務めた鈴木政敏さんは振り返ります。

人数や業務時間の異なる複数のテナントが入っているのに、部屋ごとの個別空調ができずに無駄が多いのも悩みの種でした。
組合理事長の鹿野淳一さんは「就業時間がまったく違う各部屋を効率的に動かすには、個別冷暖房以外にないと思っていました」。

もともと「水という自然のエネルギーを対象とする事業に携わる団体として、化石燃料よりもエコに配慮したエネルギーを選択したい」との思いもあったといい、個別に効率的な運用ができる新たな電気空調システムの導入へと舵を切ったのです。

エコガラスによる開口部の改修も、同時に計画されました。
建物には東面と南面に腰窓が連なり、コーナーガラスも多くて明るい内部空間を構成できているはずですが、現実には大多数の窓は1年を通じて開けられることがなく、しかもブラインドを閉めた状態だったそうです。

「ここは周囲が田畑で風も強く、窓を開ければホコリが入ってきます。前の道路を通る大型車両の騒音もあって、四季を通じて開けることはありません(鈴木さん)」。
せっかくの南向き窓も「直射日光がまぶしく、パソコンの画面も反射で見えなくて」ブラインドは終日下げられていたのです。

さらに、各部屋の温度差が大きくて「窓からの日差しがある南側では冷房、日が入らない北側では暖房をかけなければならないような状態ですよ」と鹿野さんが苦笑いするほど。

以前、鹿野さんは自ら経営する会社で、ビルの窓を熱線反射ガラスで改修した経験があり「高機能ガラスの断熱効果」を肌で感じていたそうです。
建物全体の温度バランスや暖房効率を考えれば、窓の断熱性能アップは不可欠との結論に達し、エコガラスの導入が決定されたのでした。


使用頻度の高い5割の業務スペースに内窓を設置

アルミサッシの既存窓の内側に、新たに樹脂のふかし枠を設けて内窓を設置。はめ込まれているのは山形のガラス販売店グループがつくるエコガラスブランド「さくらんぼ」の名を冠したエコガラス。
2階会議室の窓は、コーナーガラスを含む変形窓。建物のファサードを形作る大屋根の勾配に沿ってFIXガラスが斜めに切られている。段窓の下部は横すべり出し窓。これらすべてに、工事を担当した竹原屋本店の独自加工によるエコガラスの内窓がつけられた。
1階のコーナーガラス越しに内窓を見る。

窓の改修は2011年4月から6月に行われ、期間中も業務は通常通りに進められました。
工事を担当した竹原屋本店社長の五十嵐慶三さんは「工事は室内からできますし、足場もいりません。各部屋ごとに打合せをして、必要があれば半日だけ別の部屋を使っていただくなどして、お仕事に支障が出ないようにしました」と話します。

窓リフォームの手法には、内窓設置が採用されました。管工事協同組合事務所の窓には、竣工当時から複層ガラスがはめ込まれています。その内側にエコガラス+樹脂サッシの内窓を新たにつけて、断熱性能アップを図りました。

改修されたのは建物全体のうち、約5割の窓です。使用頻度の高い順に、共用部を除く1階部分すべてと、2階に4つある会議室のうち南に面した第1会議室の窓が、工事の対象となりました。

業務スペースの多くを占める引き違いの腰窓やコーナーガラス、会議室ではFIXやすべり出し窓と、さまざまなタイプの窓に内窓がつけられました。 とくに目を引くのが2階会議室です。上部がFIX、下部が横すべり出しになっている段窓は、山小屋風の建物外観をひきたてる異形ガラス。角は突き合わせとなっています。

これだけ変形していても内窓がつくんですね、と思わずつぶやくと、「通常の引き違いではできないので、寸法を測って弊社で加工しておさめました。これはちょっとした芸術作品かな?」と、五十嵐さんが笑いました。

内窓によるエコ改修の間口の広さを、かいま見せてくれる工事例といえそうです。


空調効率アップ+エコガラスの断熱力で大きな省エネ効果を発揮

窓が多く明るい事務スペースでは、エアコンの吹き出し口にもファンが取付けられ、空調効率のアップが図られていた。
現場のリアルな体感と、会社全体の省エネルギーの両方を見据え、今回のエコ改修を語る広谷さん。女性ならではの柔らかい話しぶりで、取材現場の空気も一層和やかに。
外からの光を柔らかく内部に通す、グリーンがかったエコガラス。
窓の外に広がる眺めは、ゆったりとした田畑と山形の大きな空だ。

工事が終わり、ひと夏・ひと冬を越えての効果を、まずは数値で見てみましょう。

全館一斉冷暖房のエネルギー源だった灯油は、空調機器の全面交換によって、ファンヒーターなど数個の補助暖房機器で使われるだけとなりました。使用量は2010年度の7189リッターから2011年度には2204リッターと7割減。

電気料金も、2010年度の112万9000円から2011年度は91万3000円と、新しい空調機器向けに使用自体が増えたにもかかわらず、こちらも2割減となっています。
「やはり、暖冷房の効きが良くなった、ということなのでしょうね(鈴木さん)」

部屋ごとの個別空調ができるようになったのも、無駄の削減に貢献しているようです。

長年現場で仕事を続けているスタッフの広谷さんは「以前はスイッチが1箇所にしかなく、人がいない部屋でも空調が動いていて無駄でした。今は各部屋にパネルがつき、人数や帰る時間によって調整できます」
室温も「とくに冬はすぐ暖まり、時間がかからなくなりましたね」

新調した空調機器の性能に加え、エコガラスの内窓によって窓からの熱の出入りが抑えられたことも、効果の一助となっています。

さらに、山形のエコガラスブランド「さくらんぼ」の特徴でもある、少しグリーンがかったガラスによって「外から入ってくる光が柔らかくなり、ブラインドを上げてもパソコン作業ができるようになりました」。
以前は1年を通してブラインドが遮っていた、事務所正面に広がる田畑の風景も、手に取るように楽しめます。

今では、日射の強い盛夏以外は日常的にブラインドを開けるようになったとのこと。
外に向かって気持ちよく視線が通る、これもまたオフィス環境向上の一面といえるのではないでしょうか。


落選にめげず、再度補助金申請。採択されたことで改修規模が充実

山形市管工事協同組合理事長の鹿野淳一さん。空調や給排水設備等の設計施工を手がける自社をエコ改修し、そこで採用した熱線反射ガラスの断熱効果に驚かされた。その経験をふまえ、今回はエコガラスを採用した改修にのぞんだ。
改修当時の管工事協同組合事務局長を務めた鈴木政敏さんは、工事計画から補助金申請書類作成まで、エコ改修全体のまとめ役として活躍。 建物中央にある吹抜けが豊かな内部空間を作り出す。シングルガラスの大開口は、今回のエコ改修では対象外に。限られた予算の中でスタッフの使用頻度が高い居室を最優先した改修計画だった。 極寒の冬と酷暑の夏、強い日差し、広がる土と緑。美しくも過酷な山形の風土に根付き貢献する企業のオフィス環境向上に、エコガラスができることは少なくない。

今回のエコリフォームは、国土交通省による「住宅以外の建築物の省エネ改修」を対象とした事業の採択を受け、補助の対象となった取り組みです。
しかしその道は平坦ではなく「一度、落っこったんですよ」と鈴木さん。

各省庁や建築研究所などが主体となる補助事業は、最近ではインターネットのウェブサイト上で発表されることも多くなりましたが、公募期間は総じて短く、説明会が開かれないことも珍しくありません。
山形市管工事協同組合は、五十嵐さんからの募集情報をもとに、建物の設備を担当したコンサルタント会社の協力を得て書類を作成。エネルギー使用量や設備の状況、機器交換や内窓設置などの改修計画とそれによって実現する省エネルギー数値の算出など、求められた各種データを揃え、断熱効果の計算までを行って申請を行いました。

初めての挑戦はしかし、敗退の憂き目をみてしまいます。

それでも鹿野さんも鈴木さんもあきらめませんでした。
「今これに応募しないと、多分この建物がある限り(笑)きちんとしたエコ改修はできないだろうな、と考えたんです。今年は空調、来年は外皮…そんな予算はなかなか取れませんから、ぐっと規模を縮小するしかなかったと思います(鹿野さん)」「補助事業を所管している東京の事務所に電話して、なんで落っこったんですか(笑)と聞きました(鈴木さん)」
採択時に優先される事項などについて、積極的な情報収集を続けたのです。

2回目の応募で見事採択にこぎつけた要因は、この情報収集と社内での計画再検討・練り直しによるところが大きいのは想像に難くありません。予算との兼ね合いにも気を遣いつつ「そのへんは粘っこくやりましたよ」と鈴木さんはにっこり。

座して待つのではなく、積極的戦略的に取り組むことこそが助成獲得のカギ。笑顔の奥に、そんなアドバイスが感じられました。

今回の改修について、鹿野さんいわく「これだけの効果があるとは、正直思っていませんでした。うまくいけば15年でこの投資は回収できるかな、と考えています。その頃にはまた設備機器の改修時期がきますから、その時点でまた新たな投資ができる形にしていきたい、そう思っていますね」

さらには、空調や給排水の仕事をメインとする企業の団体として、お客さまにわかりやすく説明できる業務の実例ともなっているそうです。

「3月いっぱいまで真冬、5月の末からは亜熱帯のような気候(鹿野さん)」という盆地気候の山形。厳しい風土の中で成功した今回の改修は、四季があるこの国の多様なロケーションのもと、稼働し続ける多くのオフィスビルに対して、エコ改修がもたらし得る省エネルギーと快適性の大きな可能性を、教えてくれているようでした。


取材日:2012年4月25日
取材・文:二階幸恵
撮影:中谷正人

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