-山形県 山形建設-
立地 | 山形県山形市 |
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建物形態 | 鉄骨造3階建て(1974年竣工) |
利用形態 | 事業所(本社社屋) |
リフォーム工期 | 2011年1月〜2月 |
窓リフォームに使用したガラス | エコガラス『さくらんぼ』 |
利用した補助金等 | 平成22年度第2回国土交通省建築物省エネ改修推進事業 |
施工 | 竹原屋本店 |
山形市の地は高温多湿。東北地方ではあっても盆地のため、真夏の気温が35度を超えることも珍しくありません。一方で冬は寒く、結露も多く見られます。「このような土地に、エコ改修は非常に合致していると思うんですよ」とは、山形建設・後藤完司社長の言葉です。
この気候風土の中、今回のエコ改修の舞台となった鉄骨3階建の本社社屋は40年近い月日を経てきました。
空調システムは中央方式。建物全体に冷温水を回す制御をひとつの機械室で行い、手元では送風を調節しています。同じフロアでも室温にむらが出やすく「現代的なやり方ではないんですよ」と本間次長が苦笑しました。
従業員の方に、改修前と後の執務環境についてお聞きしました。
社屋の2階北側、窓に近い座席を持つSEの近野さんは、開口一番「以前の夏の暑さはすごかったですね」直射日光は射さなくとも窓から伝わる熱気が強く「エアコンは終日つけっ放しでした」
空調ユニットにデスクが近いことから、近野さんは送風調整を任されています。「つけすぎて寒くなるとスイッチを切ります。でもすぐ暑くなってまたつける、寒くなって切る…を頻繁に繰り返していました。一日中パソコンの前でプログラムを組む仕事なので、暑いとなかなか集中できませんでしたね」
改修後は?「正直言ってびっくりしました。スイッチを切る回数が多くなり、しかも切ってからしばらく涼しさが続きます。これは大きいですね」
同時期に山形建設は本格的なクールビズを導入し「ネクタイをせずにいられるようになったこともプラスして、より快適になりました」
出社時の状況も変わりました。前日退社時にエアコンを止めて一晩閉め切るため、以前は室内に熱が充満していたのが、工事してからは「前の晩の冷気が朝まで効いているので、けっこう涼しいです」とのこと。
2階フロアは広さの割に空調設備が少なく、上下階と比べても暑いそうで「ここが一番、効果が発揮されていると思いますよ」冬場の変化はどうでしょう。
フロアの反対側、窓に背を向けた席で設計と広報を担当する水戸円(まどか)さんは「以前は足元がスースーして、一日じゅう足温器・膝掛け・使い捨てカイロを使っていました」と話します。空調の吹き出し口から遠いため、エアコンが動いているかどうかもわからなかったとのこと。
改修後は膝掛けがいらなくなり、午後には足温器のスイッチを切る日もあったそうです。
執務エリア以外に水戸さんの印象に残っているのが「3階のホールと女子トイレ」。
トイレについては「内窓のあるなしの違いをすごく感じました。暖房便座はついていますが、トイレ自体には空調がなく、工事するまではブルブル震えるほどの過酷な寒さ。とにかく早く出たい! という感じでした。今はそんなことはありません」
休み明けの毎月曜日に朝礼が行われるホールにも空調設備はなく「カイロを貼りまくって」出席していたとのこと。「そういえば、今シーズンは貼っていませんね(笑)」
夏と同様、空調がオフになる休日と月曜日の朝は、建物自体の断熱性能が顕著に体感されます。やむを得ず休日出勤する人も、以前は自分の席ではなく家庭用エアコンがある部屋に「避難」して仕事をしていたのが、改修後は「空調なしでも半日は大丈夫(笑)と言っていましたよ」と本間次長が話してくれました。
改修以前から、山形建設では社屋の月別エネルギー使用量を「電気」と「A重油」に分けて測定してきました。A重油は主に冬場の空調用温水をつくるボイラーに使われています。
2010年3月からの1年間と改修後の2011年とで、数値の違いは歴然。年間削減率は電気で19.3%、A重油で21.0%と、補助金申請の際に「みなし削減率」として規定された10%を大きく上回りました。
「正直びっくりしています。当初は10%目標だったのが、両方とも倍近くに」と本間次長が言えば「意外でしたね、こんな効果は大歓迎です。この冬の寒さは厳しく、夏は非常に暑かった。電力消費も抑えなければならなかったし、いい時期に工事ができたと思います」と後藤社長も目を細めました。
とくに目を引くのが夏期の電気使用量。7月は前年同月比34%、9月では43%もの削減率です。エコガラスの断熱・遮熱力が目に見える形で現れた結果といえるでしょう。
この快挙について本間次長は、断熱・遮熱性能の向上はもちろん「スタッフの意識の変化」も功を奏したのでは、と話します。
「大震災の後、昨年3月頃からは社内全体が「とにかく節電しよう」という空気になっていました」
また、室内窓際とフロア中央、さらに室外の計3カ所での室温測定を続けており、その結果からは、とくに冬期の温熱環境の変化について多くのことが読み取れます。
改修前、室外と室内の気温の下がり方は傾きがほぼ同じでした。改修後は室内温度の下がり方が室外に比べてゆるやかに。これは、暖められた空気の熱がエコガラスによって室内に保たれ、外に逃げにくくなったことを示しています。
日射熱を遮る力の向上も見られました。
日差しがあるときの室温は、工事前は窓際とフロア中央とでは中央の方が高くなっていました。これは窓ガラスの遮熱力が弱く、日射熱がよく入り込んでいることを表しています。改修後はこの差が解消され、窓際と中央の数値が一致するようになったのです。
エコガラスによる建物外皮エコ改修の特徴は、大規模な工事がいらないこと。
「設備機器の入替えでは、どうしても壊さなければならない部分が出てきますが、今回は機器に頼ることなく改修ができたんです」本間次長の言葉どおり、工事は通常業務になんら支障を来たさずに終了しました。
日常業務の中断を強いられないことは、いうまでもなく企業にとって大きなメリットでしょう。
また、後藤社長は「エコ改修は年月を経た建築物に適している」とも言います。
「うちは古い会社で建物が老朽化しているので、熱効率が非常に悪いんですよ。そういった状態にエコガラスで対応・改修すれば、機器の更新といった過大な設備投資をある程度抑えられるんですね」
暖冷房の効率が上がることで既存の空調機器の負荷が軽減され、寿命を延ばすこともできる。それも今回のエコ改修のメリットのひとつだというのです。
熱効率の良い新しい建物にエコガラスを導入すれば、数値面でより高い結果が出る可能性はもちろんあります。しかし「最新の省エネ性能を発揮できる建物より、ある程度経年している方が、よりメリットが出やすいのでは」
さらに、昨年に続いて節電が励行されるだろう今夏、窓が多い事業所建築にはエコガラスによる開口部改修が有益だ、とも。
獲得した自社の省エネ数値について「メーカーのカタログとは違う、山形の地で取った生のデータです。これをひっさげて、お客さまにエコ改修をお勧めしていきたいと思っているんです」
山形建設では、今回の改修で得られた省エネ効果のデータをまとめたオリジナル資料を作成しました。これに各種助成・補助金の公募情報なども加え、事業所や病院、福祉施設、商・工業施設といった法人向け建築物を持つお客さまに向けて、コンスタントでタイムリーな情報発信と、耐震改修等とも組み合わせた断熱・遮熱改修の推奨を続けています。
自社で経験済みの補助金申請手続関係ももちろんセットしての、営業戦略です。
「エコ改修したい、と思っているお客さまは結構おられるんです。そういう方がこれらのデータを見れば『やっぱりいいんだね』と理解していただける。あとは予算面などで補助金を活用できれば、と(本間次長)」。
暑さ寒さのほか、とくに老健施設などでは結露の悩みも深く、どうにかして早く止めたいという声が聞こえてくるそうです。
そんなニーズに対し、同じ山形の地に建つ自社で検証を行って得た「生の省エネデータ」を添えて情報発信することは「カタログ上のデータに比べて、インパクトも信憑性もあると思っています」。
自ら試した結果だからこそ責任を持ってお勧めできる、と後藤社長。
「建造物は生活基盤の根本。愛着を持って長く大切に使っていく、これからはまさにそういう時代だと思います。建物は生き物だから、傾いたり怪我したり悪いところが出てきたりもする、そんなときにこそ、地元にいてすぐに対応できるのが大切」と、地元密着へのこだわりものぞかせました。
そこには、基本的に県外の仕事を手がけず、100年以上にわたって地域本位を貫いてきた企業の誇りがうかがえます。
しっかりした建物をお渡しして、気分よく使い、仕事をし、住んでいただくことが大きな使命であり課題、と語る後藤社長に、エコ改修もその一環ですねと水を向けると、インタビューに同席した竹原屋本店社長の五十嵐さんに目を向け「それは、竹原屋さんを始めとするみなさんの力をお借りしてね。信頼できる専門工事業の方がいなければできない仕事ですから。自分ひとりじゃエンジンはかからない」と笑いました。
山形の建築物に施すエコ改修。それは、風雪にさらされて少々くたびれた建物に最新の断熱・遮熱技術を加え、エネルギー効率を上げて設備負荷を和らげ、建物も長持ちさせつつ、暑くて寒い盆地気候で過ごす人々の環境を快適にしていく取り組みです。
山形を愛し、山形に生かされていると口を揃える建物のプロとガラスのプロが、エコガラスを仲立ちに手を携え、ふるさとの暮らしに貢献する新しい環境・事業活動を育て始めています。