事例紹介/リフォーム

新たな窓リフォーム手法で残した
お気に入りのコーナーガラス

神奈川県・M邸

Profile Data
立地神奈川県横浜市
住宅形態RC造2階建(1990年竣工)
リフォーム時期2000年~2018年(計3回)
窓リフォームに
使用した主なガラス
エコガラス、真空ガラス

時間をかけ、段階的にエコガラスを導入

横浜市鶴見区、にぎやかな駅前から一歩入ると空気が変わります。永平寺と並んで曹洞宗の大本山である総持寺の緑が、視線の向こうで出迎えてくれました。

この境内の東端にあたる静かな環境がM邸のロケーション。「この地は戦前の住宅分譲地で、かつては私たちの祖父母が住んでいた平屋の家がありました」と住まい手のMさんご夫妻は話します。
そして今建っているのは、特徴ある三角屋根が目をひくRC造の住まいです。大手ゼネコン設計部に籍を置いていた住まい手が1990年に自ら設計した「実験住宅ですよ(笑)」

コンクリート建築ならではの存在感に圧倒されつつ招き入れられた室内は、たくさんの窓そしてガラスがあり、さまざまな方向から光が取り込まれる空間でした。

そんな中で長く抱えていた悩みは窓の結露、そして寒さです。奥様は「プラスチック素材の断熱シートを貼り、ブラインドを下ろしたりして、しのいでいました」と振り返りました。

リビングとダイニングスペースにはそれぞれトップライトがあり、とくにダイニングの天窓はキッチンから上がる湯気などの影響もあってか、結露が激しかったといいます。
竣工当初は、リビングの掃き出し窓の中央FIX部分を除くすべての窓がシングルガラスだったのです。

エコガラスへの窓リフォームは、実は10年前から始まっていました。

最初に着手したのは、リビング南側にある2枚の片引き窓。既存サッシをそのまま使い、真空ガラスに入れ替えました。
2度目の工事は5年後の2014年、主にダイニングまわりです。もっとも結露が激しかった、シングルの熱線反射ガラスの入ったトップライトを複層ガラスに交換しました。

そして3度目、満を持して対象となったのが今回の主役、両サイドの開き窓も含めたダイニングの大開口です。同時に一階の居室・寝室の窓4箇所にもエコリフォームを施しました。

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真02

西面から見るM邸。コンクリートのテクスチャーとトップライトのある三角屋根、差し色の真紅が印象的だ。左手に今回のエコリフォーム対象となった大窓が見える

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真03

打ち放しコンクリートの壁に囲まれたダイナミックな2階リビング。トップライトには熱線反射ガラスがはめ込まれている

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真04

ダイニングスペースでお話をうかがった。トップライトのほか、室内はさまざまな開口から外光が取り込まれている

住宅では無理? ビル向けの新しい窓リフォームに挑戦

この大開口のFIX窓は他の窓と大きく異なる部分があります。“突き付け”と呼ばれる、ガラス同士を直接接着したコーナー部分がそれで、窓枠がないため軽快かつ繊細な意匠を持っているのです。

コーナー部分には方立を入れたくない、そして足場を設置するような大掛かりな工事にもしたくない。
そう考えていたMさんは、何か手立てはないかと、リフォームを先送りしながら情報を収集し続けました。

そして出合ったのが、室内側から直接エコガラスを増設するリフォーム方法です。都内のガラスショールームでたまたま製品模型を見かけ、これだ! と思ったといいます。

しかし登場まもないこのやり方は、現時点ではオフィスビルやショールームなどFIX窓の多い建物で採用されるのがほとんど。開き窓が多く、窓枠の仕様などもビルとは異なる住宅の窓リフォームでは、まず見られない手法でした。

さっそくガラス専門店に工事依頼したものの、当初は「住宅で使った例がなく難しい」といわれたそうです。しかしMさんはあきらめず、今度はガラスメーカーの技術部門に直接コンタクトを取りました。
粘り強い話し合いと再検討の結果、2018年11月にめでたく施工の日を迎えたのです。

工事は1日で終了しました。
「職人さんが9人も来ました」とMさん。ガラス自体の重量に加え、通常の住宅の窓リフォームとはまったく違う施工方法です。多くの人の手をかけ、万全が期されたのでしょう。

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真05

リフォーム対象となったダイニングテーブル脇の出窓は高さ1264mm幅2415mmの大開口だ。コの字型FIX窓で、コーナーは突き付け。両サイドには外開き窓がつき、こちらは1ヶ月前に真空ガラスに交換済

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工事前の窓。ガラス同士がじかに接着された突き付けのコーナー部分が見える(写真提供・Mさん)

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真07

100kg超のエコガラスを内側からはめ、既存のガラスと一体化させる。住宅の窓リフォームとしてはかなり特殊な施工に、大勢の職人さんが慎重に取り組んだ(写真提供・Mさん)

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真08

リフォーム後の外観。内側のシールが既存の黒い窓枠に溶け込み、違和感のない仕上がりになっている

暖房いらずの暖かさに、シングルガラスとエコガラスの違いを実感

エコリフォーム後のダイニングテーブルでは、誰もが窓側の席に座るようになりました。以前は窓ガラスから冷たい空気が流れ落ちて床にたまる“コールドドラフト”の体感もあったといい「寒くて、みんな避けていました」と奥様。
テーブル自体も現在とは90度回転した向きに置き、窓から距離を取っていたといいます。

開口部のほとんどがエコガラスとなった室内の環境は上々で「冬の窓ガラスの表面温度は3℃以上は変わったと思います」「今は窓ガラスよりも打ち放しコンクリートの壁の方が冷たいですね」と住まい手の声は晴れやかです。
床暖房も不要になったといい、南側掃き出し窓からたっぷりの日差しを受けるリビングの陽だまりはぽかぽかして「日中はエアコンもガスストーブもいりません」

同時に、断熱力の低い窓がある空間との落差を感じるようになったといいます。

くもりタイプのシングルガラスがはめ込まれた大きな高窓が光を落とす玄関ホールは、訪れる者の心に忘れがたい印象を残す魅力的な吹き抜け空間です。その反面、冷気がたまりやすく「夜間にここを通って寝室から浴室やトイレに行くときは、寒いですよ」
大開口を持つ空間の快適性においては、窓の断熱性能が与える影響は決して小さくないのだと、改めて教えられたようでした。

快適といえば、Mさんからはこんな言葉も。
「健康寿命を伸ばすには、エコリフォームした方がいい。これは快適性とはまた違うことです」

近所にお住まいという奥様のご両親の家が、40年近く前の竣工当初から全館暖房を採用していてとても暖かい、というのです。「おかげでふたりとも90歳を超えて元気です」

今はキッチン脇のジャロジー窓の断熱をどうしようか思案中、というご夫妻。
いくたびかのエコリフォームを経て、高い意匠性と快適性そしてひとの体へのやさしさをも実現した温かなコンクリートの家を、いつかまた訪れたいと思いました。

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真09

現在の窓。内側から増設したエコガラスのコーナーにはシールが入ったが、既存の窓枠と同じ黒色にしたことで違和感はない

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真10

トップライトの光が落ちるダイニングのコンクリート壁は、日本地図のほかお子さんの絵画作品も貼られる家族の展示スペース。さわると冷たいが結露はないという。以前はコールドドラフトで背中が寒かったね、と、トップライトの真下の席でMさんが振り返った

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真11

真空ガラスの窓越しに午後の陽が差し込むリビングは心地よい日だまりとなり、M邸の特等席に

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真12

大きな高窓と、リビングの間を隔てるガラス壁とに囲まれた吹き抜けのエントランス。リビングを出て踊り場に立つと、ひんやりとした冷気に包まれた

新たな窓リフォーム手法で残したお気に入りのコーナーガラス-詳細写真13

終始にこやかにお話いただいたMご夫妻は奥様も建築士。この家はおふたりの共同設計でつくられた

取材日2019年2月7日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
エコガラス