事例紹介/リフォーム

宝物の風景をエコガラスで守る

兵庫県・M邸

Profile Data
立地兵庫県芦屋市
住宅形態RC造5階建マンション
(1997年竣工)
リフォーム工期2018年3月(1日間)
窓リフォームに
使用した主なガラス
真空ガラス

巾木も傷める大開口の結露に悩む

大きな窓から、六甲の山並みと大阪湾に浮かぶ六甲アイランドの高層ビル群が望めます。この風景を何よりも大切にしたい。住まい手の思いがこめられたエコリフォームをご紹介しましょう。

南北に長い芦屋市の海側、高速道路近くに建つ5階建賃貸マンションは、阪神・淡路大震災後の1997年に竣工しました。
Mさんは建物オーナーであるお母様に依頼され、住みながら建物管理をするべく最上階に居を定めたといいます。重責を引き受けた後、南北に軸がある建物最南の角部屋を自邸とし「自分で図面を引いて、他の賃貸住戸とは違った設計にしました」

最も存在感のある窓がつけられたのはリビングです。FIXと片引きとを組み合わせて6mほど連ねた掃き出し窓で「とにかくガラス面を取りたかった」というMさんの希望を映す大きな開口です。
建物の形状からほぼ真西を向く窓となるため、西日はもちろん紫外線なども考慮して、新築時は合わせガラスがはめこまれました。

入居当時から気になっていたのは激しい結露です。とくに今年の1月2月の状態はひどく、住まい手に工事を決心させました。
「朝、カーテンを開けるとびっしりついた結露で窓の外が見えないほどでした」流れ落ちる水滴はサッシ枠からあふれるほどたまり、巾木も傷んでニスがはがれかけていたとのこと。海に近い立地で山手より湿気が多いのでは、という感覚もありました。

エコガラスとの出合いは、そんな悩みが深くなったとき。
仕事で頻繁に訪れる大阪や神戸で以前から通っていた「住まいや建材関連のショールームで、複層ガラスを見かけたんです」
ドイツをはじめヨーロッパ諸国を訪れる機会も多いMさんは「高性能の窓で室内を暖かく保った石造りの建物の良さを知っていたので、これは入れようかなあ…と」思ったといいます。

そこでインターネットも駆使し、本格的に調べ始めました。
「あれこれ注文するからにはよく勉強し、素人としてできるだけの下調べをした上でプロとコミュニケーションして掛け合わないとね(笑)」
リフォームの発注者となる際の姿勢として、参考になりそうです。

情報収集を重ね、断熱ガラスについて学び続ける中で、お隣の西宮市でエコガラスを扱う窓とサッシの専門店・ヨネダ商店のHPを見つけ、迷わず現地調査と見積もりを依頼したのでした。

宝物の風景をエコガラスで守る-詳細写真02

建物の足元に緑道の緑がそよぐ。すぐ近くには阪神高速道路が走るが、防音壁の効果で騒音も気にならない環境

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落ち着いた木調のインテリアと豊かな採光が快適な空間をつくるリビングでお話をうかがう。エコリフォームを請け負ったヨネダ商店代表取締役の米田泰士さんにもご同席いただいた

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寝室の窓は網入りのくもりガラス。東向きで朝日が当たるが、結露の発生はやはり激しかった

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工芸関連の世界に長く携わり、住まいのデザインにも妥協はないMさん。真空ガラスは性能・デザインともに「優秀だなあ」と思ったという

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リビングの床は凝ったデザインのマホガニー材。世界三大銘木と呼ばれる高級材だが、窓際では紫外線によるダメージが見られる。ラグを持ち上げると、もとの美しい赤褐色が現れた

エコリフォーム後も見通しが変わらない窓に

窓のエコリフォームの対象となったのは、リビング2箇所と寝室に切られた東向き窓です。

計画当初から、Mさんのスタンスは明快でした。
窓からの見通し、眺めを大切にすること。高い断熱性能をもたせること。この考えを基本に、採用するのはエコガラスの一種・真空ガラスとほぼ決めていました。

「アタッチメント付ガラスでの窓リフォームは、新たに枠ができるし後付けのような感じも出ます。真空ガラスにはそれがない。分厚くならないし、施工は一緒ですから」

ダイニングテーブルごしに窓に向かうリビングの椅子が、Mさんの定位置です。ここからの視界を変えないことが大命題だったといえるでしょう。

見積もりを担当したヨネダ商店の米田泰士さんも、調査時の印象をこう語ります。
「窓の抜け感というか、見通しを何よりも大切に考えておられるのがわかりました。巾木の傷みで結露の激しさもうかがえ、断熱性能も十分な真空ガラスをご提案しました」

内窓の設置も、今回の選択肢からは外されています。

外部空間とつながる掃き出し窓に内窓をつけるか否かは「まず使い勝手を考えます」と米田さん。
内窓は断熱面で高い性能を発揮しますが、開け閉めが2回になるため、物干し等でベランダに出入りする際に使う側が煩雑さを感じるかどうかが重要なポイントとなるのです。

また、M邸の掃き出し窓はFIX窓と片引き窓とで構成されています。竣工時に予想された高速道路の騒音カットに加え「メンテナンス性もいいと考えました」とは、自ら設計したMさんの言葉ですが、なんといってもすっきりと無駄のない、見通しを重視する住まい手の思いがにじむ窓まわり。
これ以上の足し算は確かにいらないかも…と思わせる印象でした。

工事は2018年の3月。調査見積もりから日を置かず、工期も1日とスピーディに完了しました。

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ヨネダ商店は断熱・防音・防犯まで、機能ガラスの販売施工に特化した地域密着の専門店。代表の米田さんは窓のプロフェッショナルとしてその技術と知識は業界内でも知られた存在だが、その人をしてMさんは「よく勉強しておられます」と言わしめた

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巾木にも結露による傷みが見られた

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5枚のガラスが連なるリビングの窓は、両脇が片引きでほかはFIX。中央の1枚の幅は約1.5mともっとも大きく、正面に座った際の窓外の眺めが考慮されている

風景確保と性能向上、どちらもあきらめない

エコリフォーム後も、Mさんとしては住まい方も窓との付き合い方もとくに変わっていないといいます。

窓辺には厚手の素材とレースと2種類のカーテンがつけられています。不在が多い平日日中は全部引いて、夏は西日、冬は冷気が室内に入り込むのを防ぐ、これは工事の前も後も同じです。
西向きの大開口だけに、夏の帰宅時はこもった熱気が心配ですが「確かにあるけど、まあこんなものかなという感じですよ(笑)」と、住まい手は屈託がありません。

西日カットに有効な外付けブラインドやルーバーといった外部遮蔽物も、竣工時からつけられていません。5階建マンションの最上階のため台風時に飛んでしまう心配があるのに加え、何よりも「せっかくの窓をふさがれたくない気持ち」があるといいます。

窓リフォームを終えた今年、猛暑だった夏の体感をうかがうと、帰宅後の部屋には以前と同様に熱気は感じるものの「エアコンの効きは早くなった気がします。電気料金に変化はないですが」とMさん。
冬の結露解消こそ楽しみですよ、とにっこりしました。

温熱環境の向上と窓からの風景確保とが相反するとき、どちらに軍配をあげるべきか? もちろん、住まい手の考え方次第です。
その一方で窓は、採光・眺め・開放感はもちろん、暑さ寒さや結露といった住まいの快適性や家族の健康にまで影響を及ぼす存在。敷地の方位や建物形状といった諸条件を前提に開口部の性能に配慮するのも、家づくりのひとつの要素ではないでしょうか。

ベランダの手すり壁には、Mさんご自身で取り付けた木製の飾り棚に石や盆栽が並んでいます。
ガラスを通して室内空間を拡張させる洗練されたインテリア。M邸の窓に求められた“高い透過性・透明性”の必然はここにもあるに違いない…そう思った矢先に、
「ほら、空がきれいでしょう? これが大事なんです」と住まい手の声が。振り向くと、小雨模様だった空がいつのまにか高く澄み、窓越しに青く広がっていました。

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厚手素材のカーテンは電動で開け閉めできる。「大工さんに電源だけつけてもらって、モーターなどは自分で施工しました」とMさん

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ウッドデッキが敷かれたベランダも、室内同様にすっきりとしたデザイン。両脇がすいた正面の手すり壁が全体の雰囲気を軽やかにしている

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書斎脇の窓ごしに、趣味で集めている安倍川の石と小ぶりの盆栽が鎮座する飾り棚。ガラスを媒介に室内外が一体化している

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遠景に阪神高速湾岸線の橋脚、そして六甲アイランドの高層ビルを望む。夏には神戸港の花火も

取材協力株式会社ヨネダ商店
URLhttp://www.mado-nayami.com/
取材日2018年9月10日
取材・文二階幸恵
撮影中谷正人
エコガラス