事例紹介/リフォーム

エコガラス窓を使いこなし
上手な換気と梅雨の湿気対策を

群馬県・I邸/茨城県・O邸/埼玉県・I邸

今月の家を手がけた工務店・設計事務所:
(株)アライ(群馬県・I邸)
https://kk-arai.com/

(有)桂工務店(茨城県・O邸)
https://www.katsurakomuten.net/

住環境計画・金海純二(埼玉県・I邸)
https://www.facebook.com/jukankyoplan/

新型コロナウイルスの発生拡大により、建物内の換気が強く意識されるようになりました。今回はそんな今を快適に乗り切る助けとなる住まいの窓、快適・効果的な換気や通風の知恵を、いくつかの住宅を例に挙げつつお話します。

合わせて梅雨どきの湿度対策も。梅雨は暑い夏に向けて飲用や農業用の水を蓄える大切な時期ですが、その一方で空気はジメジメと不快でカビも不安、蒸し暑いかと思うと急に寒くなったり、でも一日中エアコンをかけるにはまだ早い…と、なかなかに過ごしづらい季節です。

こんなときこそ我が家の環境を心地よく整えたい、計画中の家づくりでは換気性能を充実させたい…そんな思いにきっとお役に立つ、エコガラスの断熱力と窓開けの工夫をご紹介しましょう。

土地ならではの風を迎え入れる窓で換気効率をアップ!

新しく家を建てる時に多くの方が最初に挙げる希望は、明るさと並んで「風通しのよさ」です。そしてどちらも窓の重要な役割であるのはいうまでもありません。
今まで以上に室内換気の大切さが叫ばれるようになった今、換気扇による24時間換気と合わせ、効果的な開口部の設計や使いこなしを考えていきたいものです。

窓から部屋へ気持ちよく風を入れるためには、いくつかのポイントがあります。そのひとつが“卓越風たくえつふう”。

風には、山や海など周囲の地理的な条件によって“季節ごと時間ごとに同じ方向から吹いてくるもの”があり、これが卓越風です。住まいを設計する際、この風を意識して窓をつけることで、黙っていても新鮮な外気が室内を通り抜けていってくれる家になるのです。

群馬県高崎市に建つI邸は、すべての窓でアルゴンガス入りエコガラスを採用。夏の酷暑と冬のからっ風には定評のある気候風土を前提に、壁から床まで徹底した外皮断熱を行い、UA値0.27を実現した押しも押されぬ高断熱高気密住宅ですが、盛夏を迎える前の季節には、東から吹く卓越風を活用しています。

玄関に切られた東窓から涼しい風を取り込み、リビングダイニングスペースを通してキッチンの西窓から外へと排出する“風の道”がつくられているのです。エアコンをフル稼働するまでもないこの時期、省エネの観点も含めて、気分の良い室内環境調整法といえるでしょう。

 

敷地探しから家づくりを始める際には、季節や時間でどんな風が吹く土地なのか確認することも、頭の隅に入れておくとよいかもしれません。
都市部の住宅地では難しそうな気もしますが、実は最都心・東京23区内でも卓越風が吹いている例があります。諦めずに調べてみては。

エコガラス窓を使いこなし 上手な換気と梅雨の湿気対策を-詳細写真02

高崎市に建つI邸。妻側の一番左にある窓が玄関の東窓にあたる

エコガラス窓を使いこなし 上手な換気と梅雨の湿気対策を-詳細写真03

吹き抜けのシンプルなリビングは風の通り道となっている

エコガラス窓を使いこなし 上手な換気と梅雨の湿気対策を-詳細写真04

キッチンとPCコーナーの間にある西窓が風の出口だ

梅雨のジメジメ対策に、窓で外気をつかまえよう

梅雨の季節といえばまず気になるのが湿気でしょう。洗濯物を部屋干しする機会も多くなり、カビによる建物の傷みや健康被害も心配です。

高くなった室内湿度を下げるには、エアコンのドライモードを使うほかに窓を開けての換気が有効なときもあります。

空気に含まれる湿度は、実はその空気の温度と関係しています。例えば同じようにジメジメした体感でも、室内の温度が外よりも高いときは実質的に外気の方が湿度は低く、取り込むことで室内湿度を下げられる場合があるのです。
梅雨の中休みなど雨が降っていない日には、湿度計や天気予報を確認しつつ窓開け換気を試みてもいいかもしれません。

しかし、せっかく開けても風向きによって「室内に全然入ってきてくれない!」こともあります。
そんなとき頼りになるのが“すべり出し窓”や“回転窓”、“外開き窓”と呼ばれるタイプの窓たち。日本で一般的な引き違い窓と違い、回転する窓が外にせり出して目の前を通っていく風をつかまえ、部屋の中へと引き入れてくれるのです。

『ウインドキャッチ』と呼ばれるこの機能をフル活用しているのが、茨城県取手市の田園地帯に建つO邸。
27ある窓すべてがエコガラスですが、そのうち引き違いは6箇所だけ。残りはすべり出し窓とその複合型のFIX窓などで占められています。

敷地は周囲に田畑が広がる郊外エリアで、一年を通じて強風が吹いたりすることもない穏やかな気候。ゆるやかに流れる風をあちこちのすべり出し窓がつかまえては室内に取り込み、真夏以外はエアコンを使わずに過ごしているといいます。

O邸は低炭素住宅*に認定された家です。エコガラス窓はもちろん、床・壁・天井に100~200mm厚の断熱材を入れて建物外皮全体の断熱力を高めており、外の熱気をシャットアウトし室温の上昇を防いでいます。
風とともに暮らすライフスタイルは、この性能によっても支えられているのでしょう。

エコガラス窓を使いこなし 上手な換気と梅雨の湿気対策を-詳細写真05

箱型のO邸。2階に並ぶ3つの窓はすべり出しとFIXの複合窓

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廊下もトイレもウインドキャッチ機能を持つ縦すべり出し窓

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開け閉めを室内のハンドルで行い、手前に網戸を張っている

昼は閉じ、夜開ける。エコガラスの断熱力を生かした技あり換気

窓の“閉じる”と“開く”を絶妙のタイミングでコントロールしてエコガラスと風を味方につける。そんな“技あり住宅”もあります。

さいたま市北部に位置するI邸は、高窓のある吹き抜けのリビングルームを中央に配した2階建。すべての窓にエコガラスを採用したほか、目隠しと採光を兼ねたガラスブロックの壁や、愛猫の爪とぎ対策としてガラスの腰板を張るなど、素材としてのガラスを意匠にも生かしたデザイン性の高い住まいです。

ロケーションはさいたま新都心からわずか数キロ、最寄りの駅まで歩いて数分という、典型的な都市部の住宅地。ここで聞いた「風通しがいいので日中は真夏でもエアコンを使いません」という言葉は、やはり驚きでした。

住まい手が多くの時間を過ごすのは、東西南北に大小のエコガラス窓がついた1階スペースです。北面には地窓のような低い位置に切られた窓もあり、ここから終日涼しい風が入っては南側のリビングやキッチンまで流れていく、とのこと。

一方、2階は寝室のみが居室で、ほかには吹き抜けとルーフバルコニー、クローゼットとトイレを配置しました。
1階とは対照的に、熱がたまりやすい2階の窓は夜まで開けず、ガッチリ閉めて徹底的に遮熱しているといいます。そして日が暮れて外気温が下がったところで、おもむろに開けるのです。

すると1階の窓から温度の低い外気が室内に流れこみ、吹き抜けを通って2階の窓から外に出る空気の流れが発生。暖められた空気が上に上がる性質を生かした『重力換気』です。
同時に夜の涼しい外気を室内に取り入れて建物を冷やす『ナイトパージ』の状態もつくられ、寝室の温度も下がります。まさに技あり、エコガラスの断熱力を十二分に理解しての換気・空調術といえるでしょう。

エコガラス窓はその断熱・気密力によって外から入り込もうとする熱気を遮り、室内の快適さを保ちます。
その一方で、壁と異なり開け閉めができるのが窓本来の姿であり魅力でもあるはず。断熱しつつ上手に開けて新鮮な空気を迎え入れる、アフターコロナの時代にエコガラスの新たな使いこなしもまた、始まります。

  • * 二酸化炭素排出の抑制に資する住宅として、都道府県や市などの自治体が認定する住宅。省エネ基準と比較して一次エネルギー消費量がー10%以上となっているほか、木材の利用や節水対策などをとることが求められる
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I邸外観。意匠性の高い2階の窓は吹き抜け部分にあたり、電動で開閉する

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明るく居心地のいいリビングがIさんご夫妻のメインスペース

エコガラス窓を使いこなし 上手な換気と梅雨の湿気対策を-詳細写真10

北を向く地窓は涼しい風の入口。I邸の換気術の要だ

取材・文二階さちえ
撮影中谷正人・渡辺洋司(わたなべスタジオ)
エコガラス