設計を任されたのは、岐阜の良質な県産材『東濃ヒノキ』を使った家づくりで知られる中島工務店の設計士・加藤 隆さんです。
旧知の間柄だったKさんご夫妻に計画の初めから竣工まで伴走した加藤さんは、住まい手の希望から環境性能に加え、地域の伝統や家相に到るまで熟慮しながら設計に取り組みました。
家づくり当初のイメージをご夫妻にうかがうと、第一に暖かい家であること。さらに奥様は「明るく、そして風通しをよくしたいと。特にリビングの窓は最大限に大きくしたいと思っていました」以前の家が暗かったのと、このあたりは夏にとても気持ちのいい風が吹くことを念頭においた希望です。
一方、Kさんが大切にしたのは空気感。「壁はクロスでなく左官仕上げの塗り壁で、と思っていました。湿度の調整もしてくれますし」
住まい手それぞれの思いをベースにしつつ、加藤さんが設計の基本に据えたのが“間仕切りを少なめに”という考え方でした。「仕切るとどうしても温度差が出ますから」
吹抜けがあるなど気積の大きい室内は「暖まりにくいのでは」と思いがちです。
しかし窓や壁など建物外皮の断熱性能を上げて外の冷気をシャットアウトしつつ、室内の空気を上手に循環させることで、家中どこにも温度ムラのない快適な空間をつくることができます。
これが“外張り断熱”の考え方で、K邸新築にあたり加藤さんが選んだ手法でした。
メイン空間であるリビングは床から頂部まで6mほどある吹抜け空間。シーリングファンとサーキュレーターで上下階の空気を撹拌し、温度差をなくすしくみになっています。
隣には仏間を兼ねた和室を置きました。伝統的な日本民家の“続き間”を踏襲したかたちです。ここにダイニングキッチンを加えた約50㎡を実質的なワンルームとし、周囲を水まわりや客間、パントリーや家事コーナーが取り巻く1階となりました。
ダイニングの背後にある階段を上がると、造りつけの棚がある2階ホールにたどり着きます。ここを中心に主寝室とご子息の個室、納戸そしてバルコニーに続くスノコの渡り廊下を放射状に配置。
ホールは吹抜けと階段とで1階と空気を共有しています。上下階の温度差の発生を抑えるカナメ的存在ともいえるでしょう。
空間構成でもうひとつ、重視されたものがありました。家相です。
「仏間の上は部屋にしない・水まわりは西・玄関は南東・鬼門である北東には窓などの大きな“欠け”をつくらないこと」加藤さんの言葉を聞き、奥様が笑いながら「百パーセント、家相でできている家なんですよ」と続けました。
K邸では、古い家の解体時も“年回り”を考慮して期日を決定しています。
先祖から受け継ぎ、今後も長く暮らし続ける場として家をつくるとき、家相に配慮する住まい手は今も決して少なくありません。
その底にあるのは、平和や安寧を願う自然で敬虔な心なのでしょう。