事例紹介/リフォーム

国内最高水準、UA値0.27の家
ドレーキップ窓にはエコガラスS

群馬県・I邸

Profile Data
立地群馬県高崎市
住宅形態木造軸組平屋建
住まい手夫婦
建築面積79.49㎡

今月の家を手がけた工務店:
(株)アライ
https://kk-arai.com/

見学会行脚の果てにたどり着いた“本物の高断熱高気密”

上州の酷暑にも空っ風にも負けないコンパクトな高断熱高気密の家を訪ねました。

I邸は高崎市内、南北を丘陵地帯に挟まれた盆地に位置しています。外気温は夏は35℃超、浅間山から吹きおろす冷たい西風にさらされる冬はー2~3℃を記録する気候風土。
この地で生まれ育った施主は2018年、ご両親そして家族と長く暮らした家を夫婦の新たな住まいとすべく、平屋へと建替えました。

いずれはと考えていた計画が具体的に動き始めたのは数年前といいます。「夏は暑く、冬は寒いのがあたりまえと思ってきたけれど『最近の家はどうもそうではないらしいから』という感じでしたね」と笑いながらIさんは話します。

そこから住宅展示場や見学会行脚が始まりました。“寒くない家”を条件に複数の工務店の話を聞き、たくさんの建物を体感する中で、高断熱高気密住宅を長く手がけてきた(株)アライと出会います。

「展示場では、どの工務店さんも『うちは高断熱高気密です』とおっしゃるんです。でも、北側の部屋はひんやりしているんですよ(笑)そんな中で、アライさんがつくった家だけは違いました」
冬のさなかにもかかわらず室内は無暖房で暖かく、どこに行っても温度ムラがなかったとのこと。積極的な見学会めぐりで培われたIさんの眼力はそれを見逃しませんでした。

そして2019年春、UA値0.27という国内最高クラスの断熱性能を実現した新しい家での暮らしが始まりました。
平成28年省エネ基準に適合し、さらに長期優良住宅にも認定された高レベルの住宅です。

国内最高水準、UA値0.27の家 ドレーキップ窓にはエコガラスS-詳細写真02

千鳥破風のある平屋のI邸。深い軒と、ひと窓ごとにしっかり付けられた庇も印象的だ。取材時は庭の植栽など外構工事が続いていた(写真提供・(株)アライ)

国内最高水準、UA値0.27の家 ドレーキップ窓にはエコガラスS-詳細写真03

平屋にした理由として垂直移動がないことを第一に挙げたIご夫妻。もとの家は総二階だったが「これからは楽に暮らしたいですね」

平屋の家に夫婦それぞれの空間。窓はすべてエコガラスS

床面積80㎡足らずと聞けば一見、小ぶりな家とも思えます。しかし招き入れられた室内はリビングの吹き抜けも手伝って広々と明るく、窓付きの小屋裏収納スペースから光が落ちて、平屋のイメージはありません。

中央南にリビングダイニング、北に夫婦それぞれの寝室を配置し、両脇に水まわりやキッチンを振り分けたプランです。和室と水まわり以外の床は無節のヒノキ無垢材が張られ、柔らかく暖かい足ざわり。

面白いのは、寝室とは別に個人の空間がもうけられていることでしょう。キッチン並びの西側にはIさんのパソコンスペースと書庫、正反対の東側にご主人の居場所である通称『喫煙ルーム』があるのです。

水まわりエリアの最奥に位置するこのスペースは玄関を除けばI邸唯一の扉で仕切られ、気密シールも使われています。「タバコの煙が流れ出ないようにね」とIさんは笑い「計画時は、ここだけ確保してほしいと言ったんですよ」とご主人もにっこり。長くともに暮らしてきた間柄ならではの絶妙な“住み分け”でしょう。

Iさんがほれこんだアライの家づくりが誇る高い断熱性能も、もちろん実現されました。

断熱材は高性能グラスウールで、屋根と天井にそれぞれ240mm+120mm、外壁は120mm+105mm、基礎の内外に各100mmが入っています。

窓はすべて樹脂サッシ+アルゴンガス入日射取得型Low-Eガラスで、エコガラスSに相当します。リビング掃き出しと寝室以外はすべて、国内ではまだあまり目にすることのないドレーキップ窓が採用されました。

国内最高水準、UA値0.27の家 ドレーキップ窓にはエコガラスS-詳細写真04

玄関側からリビング、ふたつ並んだそれぞれの寝室を見る。取材には(株)アライ代表取締役の新井政広さん、さらにIご夫妻のお孫さんにもお付き合いただいた。吹き抜けを支えるのは梁せい330mmの米松材

国内最高水準、UA値0.27の家 ドレーキップ窓にはエコガラスS-詳細写真05

寝室にはそれぞれ幅1640mm高さ1170mmの樹脂サッシ引き違い窓がある。ほぼ真北を向くが、熱貫流率1.9の高い断熱力が外の冷気を寄せ付けない。奥に見える固定階段からは小屋裏収納スペースに上がれる

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内開き内倒し2種類の開け方ができるドレーキップ窓。断熱気密性能が高く、換気のほかに防犯や雨対策にもすぐれる。ヨーロッパでは一般的だが、日本国内は価格面の問題もあり普及は進んでいない

夏の涼しさは軽井沢級?! 冬場の室温も外より10℃も高く

空調はリビングに設置したエアコン1台を基本に、扇風機とシーリングファンで補佐しています。
入居後最初の夏はどうだったでしょうか。

「エアコンをつけるのは夜だけで、しかもすぐ冷えるのでつけたり消したりしていました。就寝時はタイマーを使いましたが寝苦しさはありません。日中は湿度が70%を超えたときに除湿をしましたが、それも数日くらいです」

家づくりについて今も詳細な報告を続けているIさんのブログでは、真夏時の状況に関し、未明にエアコンのタイマースイッチが切れて以降の無冷房状態で『8月上旬の午後1時、外気温35.7℃、室温28.8℃』と温湿度計の写真付きで記載されています。
その後、夕方になってから設定温度26~27℃くらいでエアコンを稼働し、すぐに家じゅうが涼しくなった、とも。

今はリタイヤされ、家にいる時間がIさんより長いご主人も「暑いという感覚がありませんでした。エアコンなしで閉め切ってちょうどいい。外から帰って玄関に入るとひんやりして、まるで異空間ですよ。僕は『高崎の軽井沢』って呼んでいます」と笑いました。

ほかにIさんが注目したのは、小屋裏収納に続く階段です。「エアコンの風が当たらないのに全然暑くないんです。前の家は大変だったのに、どうして? という感じ」

ちなみに11月下旬のブログでは、外気温3.2℃の朝に無暖房の室温が18℃だったと報告されています。屋外の熱気も冷気も跳ね返されていることを示す記録でしょう。

さらにご夫妻が言い添えたのが、ヒートショックの話です。
「前の家はお風呂に入るときに、廊下から脱衣所、そして浴室までの温度差が大変だったけど、今は全然ない。それが当たり前になりました」ご主人の言葉に「血圧にもいいよね」とIさんがうなずきました。

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キッチン側から見る。エアコンはリビングに並んだ南向き掃き出し窓の間に設置。14畳用だが「アライさんに、10畳用で十分と聞いていたのに間違えて買ってしまいました。冷えすぎます(笑)」とIさん

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キッチン奥にあるIさんのスペース。仕事から帰宅後はここでパソコンに向かい、今回の家づくりに関する詳細なブログを書いて発信している。西に窓がありかつ壁に囲まれ、夏は熱がたまりやすそうな空間だが、暑さはなかったという

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小屋裏の収納スペースから見下ろす。夏の夜はここに扇風機を置き、シーリングファンと一緒にリビングに向けて回しながら就寝すると本当に涼しかったとのこと。「ファンがいい仕事をしているんですよ」

国内最高水準、UA値0.27の家 ドレーキップ窓にはエコガラスS-詳細写真10

東面に配置された明るい水まわり。それぞれエコガラス窓が付き、型ガラスでプライバシーを保つ。廊下や脱衣所と浴室内の温度差が原因で起こるヒートショックは、日本国内で年間1万7000人以上の死者を出しているが、この家に住んでからはその心配がない、とご夫妻

上手な開け閉めで、さらなるエコガラス窓の達人に

春や秋も「快適だから窓を開ける必要を感じない」とおっしゃるご夫妻に、ではどんなときに開けますかと訊いてみました。

Iさんいわく「夏、エアコンをかけないまでもちょっとあったかいとき」。そんなときに東側の玄関と西にあるキッチンの窓を開けるといい風が入ってくるといいます。冬に西から吹く『浅間おろし』と対照的に「夏は東から涼しい風が吹くんですよ」とご主人。
身近な卓越風を上手に暮らしに取り入れている好例といえるでしょう。

さらに“湿度調整のための窓開け”も実践しています。

基礎断熱が施されたI邸では、室内と床下の温熱環境が換気ガラリを通じて共有されています。床下空間のコンクリートから湿気が上がって来やすい面がありますが、リビングと寝室の窓を開けることで北から南に空気が流れ、湿気を取り去ってくれるとのこと。
「アライさんから教わりました」

最近の住宅では24時間換気が常識となっています。さらに高断熱高気密の家では、I邸と同様に「気持ちがいいので窓を開けない、開ける必要がない」といった住まい手の声を聞くことも少なくありません。

けれど、住宅の持つ仕組みや特徴を知った上で室内環境の最適化を主体的に考え、ある種“科学的に窓を開ける”とは、住まいを自ら司るという悦楽の発見、ひいてはより高度な住みこなしへとつながるひとつのカギかもしれません。

その一方で「やっぱり、窓を開けると気持ちいいですよね」というIさんの言葉に勝るものもないでしょう。

壁と同様に断熱力を持ちながら、開け閉めができ、風も光も景色をも取り込める。エコガラス窓が持つ“窓として当然の機能”をどんどん使っていくことは、高断熱高気密住宅を当たり前に住まう暮らしに、さらなるプラスアルファを加えてくれそうです。

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東からの卓越風の出口となる、I邸唯一の西窓。取材時は遮光カーテンで西日対策がなされていたが「近いうちに外部遮蔽を提案します」と新井さん

国内最高水準、UA値0.27の家 ドレーキップ窓にはエコガラスS-詳細写真12

床の換気ガラリは窓辺のあちこちに見られる。湿度が高いときに寝室の北窓とリビングの南窓を開けると、北から入る風が床下を通って南に抜け、同時に湿気が排出される

取材日2019年11月9日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
エコガラス