N邸ではガレージと室内の境界部分を除くすべての窓で、エコガラスが採用されました。
以前の住まいにあった東南の大開口は、室内を明るくする一方で夏場は日射熱が厳しかった経験から「新しい家では、窓からの暑さを抑えたかったですね。エアコンの効きもよくなって省エネにもつながるでしょうし」とNさんは振り返ります。
加えて、お隣に住むお父様からの推薦もありました。
お父様はこの地の気候風土をよく知り、自らの住まいにもエコガラスを取り入れて省エネ重視の暮らしを実践している方です。
お話をうかがうと、竣工直後でNさんご一家が入居する前、エアコンを稼働しない状態での外気温と室温の計測もされたとのこと。「朝6時にー10℃を記録した日も、無暖房の室内で6~9℃をキープしていました」
エコガラスの窓や壁内の厚いグラスウールが外の冷気が入り込むのをしっかり防いでいるようです。
N邸で多用されているサーキュレーターも、お父様のアドバイスでした。もっとも高いところで天井高約6mと大きな気積の空間で、室温のムラを抑える役割を担っています。
では、住まい手の体感は?
「入居前の12月に一度来ましたが、無暖房でも寒くなかった」と奥様。
この夏の空調は、起床後に一度窓を開けて換気ーその後リビングと寝室にあるエアコンのスイッチを入れて終日稼働ー夜は就寝後にスイッチが切れるようにタイマーをセットー起床、という流れだったそうです。
Nさんは「家ではいつも裸足ですが、床が冷たくないです。その反面、夏は少し熱がこもりやすい気がして… でも、一日中エアコンをつけているのはどうもね(笑)」
一般に、窓や壁など建物外皮の断熱性能を上げたいわゆる“高気密高断熱”の家では、真夏や厳冬期など暑さ寒さが厳しい季節は、全体の気密を保ちつつエアコンによる24時間空調を行うのが、体感的にも省エネ的にも良いとされています。
しかし、日本の伝統的住文化の一端である“窓を開けて風を通したい”意識は今も多くの人の心にあり、建物を閉じて24時間エアコンを稼働する暮らし方を「息苦しい、不自然」と感じる人も少なくありません。
そんなときは、自宅周囲の環境や実際の気温の状況をもう一度確認してみることをおすすめします。
例えば隣家の壁やエアコンの室外機が間近に迫るような住宅地では、真夏に窓を開けても入ってくるのは夜中も含めてほぼ熱気、となる場合も多いのではないでしょうか。
このような環境下では、盛夏の間はなるべく開けずに終日空調機器を活用し、秋や春などの中間期に心おきなく窓を開けるスタイルが、心身そしてエネルギー面においても快適といえそうです。
反対に周囲に緑が多く、近隣の建物同士が間隔をもって建っている土地では、真夏でもある程度気温が下がる夜間に窓を開けると、低い位置の開口から涼しい外気が室内に流れ込みます。これが高い位置の窓へと通り抜け、室内の熱気を外へと追い出してくれるのです。
自然の摂理を生かした換気で建物内を冷やすこの方法は“ナイトパージ”の名称で知られ、学校の校舎やオフィスビルでもしばしば取り入れられているもの。N邸でもリビングの窓から北の天窓への風の流れを考慮した設計がなされています。
家の断熱性能は単なる数値ではなく、気持ちよく暮らすためのもの。住まい手のライフスタイルに合わせて上手に活用したいものです。
ちなみにN邸では、季節を問わず朝は必ずすべての窓を開け「気持ちのいい外の空気を取り込んでいます」とのこと。
また、入居後の4月~6月は窓を閉めてエアコンをオフにした状態が「涼しくて快適だった」そうです。中間期であるとともに梅雨時の不快な湿気や熱気もエコガラスが遮断し、室内の心地よさを保ったのでしょう。
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最後にNさんは“視線を通すものとしての窓”についてふれました。
「窓は採光するだけではない。外を見るためのものだと思うんです」
その大きさと開放感が魅力のリビング大開口は、一方で周囲に塀などがないためプライバシー面に不安があり、外から見られすぎないようにと今はほぼ終日ブラインドを引いている状態だといいます。
それでもNさんは「これからはどんどん開けていきたい」
窓の開く先には芝生の庭やお父様が丹精する豊かな植栽があり、N邸の敷地内でもっとも環境の良い場所です。「生かしたいですね」と小澤さんもうなずきました。
見られるのでなく見る、そして良き環境を住まいに取り込む…住まい手の小さな挑戦が始まります。
暮らし方や体感に合わせ、開閉し遮蔽し開け放つ。窓を使いこなすとは、家を住みこなし楽しく快適に暮らすために欠かせない要素のひとつなのかもしれません。