事例紹介/リフォーム

三角屋根にエコガラスの天窓
おおらかにして高性能な住まい

長野県・N邸

Profile Data
立地長野県長野市
住宅形態木造軸組2階建
住まい手夫婦+子どもふたり
建築面積113.45㎡
延床面積195.85㎡

今月の家を手がけた建築家:
ピークスタジオ一級建築士事務所
http://peak-studio.net/

大屋根と白壁、塀のない庭… パステルカラーのおおらかな家

武田信玄と上杉謙信の戦いで名高い信州・川中島古戦場を擁するまちに、N邸は建っています。善光寺平の別名を持つ長野盆地内に位置し、夏の気温は40℃近く、冬はー10℃を記録することもある内陸性気候の地域です。

迎えてくれたのはサーモンピンクの屋根と白壁の家。ご両親宅の隣に建つこの住まいで、ご一家は2019年の春に新たな暮らしを始めました。

横に延びる1、2階を大きな三角屋根が包み込む、おおらかな家です。一般的な住宅と一線を画すフォルムは、周囲に広がる農家住宅群の特徴である切妻屋根と東西に長い形態とに着想を得たもの。設計を担当したピークスタジオの小澤祐二さんは「この地域の、家々の境界に塀を立てず前庭を共有するまちなみも参考にしました」と話します。
西側には住居と連続する形で、車2台が置けるロフト付ガレージも設けました。

招き入れられた室内では1階にLDK・水まわり・ガレージが配置され、2階には主寝室とふたつの子ども室、ラウンジそしてサンルームが、廊下に沿って一直線に並びます。
「ひとつひとつの部屋は小さめですが、使い方を限定せず、各室をゆるやかにつなげることでいろいろな用途に使えます」と小澤さん。

家族のメイン空間は、ボリュームのあるソファとラグマットのあるリビングです。Nさんも奥様も、ここにいる時間が一番長いとのこと。
フローリングの床が周囲をめぐるイメージを起こさせるのか「子どもたちがいつも走り回っているんですよ。でもこの家では怒らずにいられるんです」

にぎやかに走っても、大きな声を出しても大丈夫。そしていつでも帰ってくることができる故郷を子どもたちにつくってあげられた…それが一番の思いだと、奥様がにっこりしました。

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柔らかな色彩の三角屋根が印象的なN邸。南面に設置した太陽光発電パネルは最大出力は3kW。ご一家はここ以前に住んでいた仙台市で東日本大震災を経験し、電気の重要性への認識+リスクヘッジの意味を込めて、オール電化の住まいを決断したという

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DK側から1階を見通す。リビングは吹き抜けとし、ラワン合板が張られた三角の天井を2階と共有している

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リビングから階段を上がった2階ラウンジ。まっすぐ延びる廊下に沿って子ども室やサンルームが続き、ガレージ上部のロフトへとつながる

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居住エリアとガレージの境には玄関収納とNさんの書斎兼趣味室を配置。扉と窓には防火戸として網入りガラスを採用し、室内から愛車を眺めることができる

大開口とたくさんの天窓で光を取り込む

N邸の窓は、そのサイズも開け閉めの仕方もさまざまです。

まず目を引くのがリビングの大窓です。ほぼ真南を向き、芝生が張られた庭の緑と外光を取り込んでいます。
1.8m角の大きなFIX窓+2枚の片引き窓で構成された大開口は、オリジナルの木サッシにはめこまれることでスケール感が抑えられ、穏やかな表情をたたえていました。

「以前住んでいた集合住宅は東南の角部屋で朝日がよく入り、明るい光の中で一日を過ごしていました。そんな家にしたいと、南側の大きな窓を希望したのです」

もうひとつの特徴は、天窓の多さでしょう。

N邸には全部で6つの天窓があります。
主寝室と子ども室では南面にひとつずつつけられ、残り3つはトイレとガレージ、ラウンジに切られた北向き窓です。

なかでも階段の踊り場にあたる2階ラウンジの天窓は大きな存在感を放ち、家族が集まるリビングに落ち着いた光を落としています。設計者いわく「北からのトップライトは、一日中安定した外光を取り込むことができます」
住まい手のNさんもこの窓を愛し「リビングのソファに寝転んで見上げると、青空や夕焼けのピンク色が窓枠に切り取られてきれいなんですよ」と笑顔で話してくれました。

室内への日射はどうなっているでしょうか。

建物東面ではキッチンとダイニング、2階主寝室に窓があります。
住まい手が望んだ“起床時の朝日”が豊かに差し込み、その後は日が回って直射がなくなるので「ダイニングの窓は一日中ロールカーテンを開けています」と奥様。自然な外光の取り込みがなされているようです。

南面からの日差しも気になります。
2階の居室には真南を向く天窓がそれぞれつけられていますが、夏場に直射日光が入ることはあまりないそうです。
同じく南に大開口を持つリビングでも「日が入るのはソファの端くらいまでですね」と奥様。

日射をコントロールしているのは、45°の屋根勾配と深い軒です。「長野の夏至と冬至の日射を考慮して設計しました」と小澤さん。徐々に太陽高度が低くなってくるこれからも、楽しみです。

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芝生の庭へと続く大開口のあるリビング。「色も手ざわりも気に入っています」と奥様が微笑むソファが鎮座し、家族はここでほとんどの時間を過ごす。「ダイニングや寝室に行くのは、使うときだけですね」

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約1m角のトップライトから、北窓ならではの安定した光がリビングに落ちる。ここから眺める“空のピクチャーウインドー”がNさんのお気に入り

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ダイニングの窓は1.2m角のすべり出しタイプ。隣家の窓と相対するが「気を使ってくださるので、視線はほとんど気になりません」ロールカーテンはほぼ一日巻き上げられたまま

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東のすべり出し窓と南の天窓とで二面採光された主寝室。右手の室内窓はリビングの吹き抜けに通じている

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140cmの深い軒もN邸ファサードを印象づける大きな要素。夏場の直射日光を遮断し、窓からの熱の入り込みや壁の蓄熱を防いでいる。雨樋のないすっきりしたデザインで、降った雨は砂利を敷いた雨落ちに落ちる

高断熱の家を心地よく住みこなす、その極意は窓にあり?

N邸ではガレージと室内の境界部分を除くすべての窓で、エコガラスが採用されました。
以前の住まいにあった東南の大開口は、室内を明るくする一方で夏場は日射熱が厳しかった経験から「新しい家では、窓からの暑さを抑えたかったですね。エアコンの効きもよくなって省エネにもつながるでしょうし」とNさんは振り返ります。

加えて、お隣に住むお父様からの推薦もありました。

お父様はこの地の気候風土をよく知り、自らの住まいにもエコガラスを取り入れて省エネ重視の暮らしを実践している方です。
お話をうかがうと、竣工直後でNさんご一家が入居する前、エアコンを稼働しない状態での外気温と室温の計測もされたとのこと。「朝6時にー10℃を記録した日も、無暖房の室内で6~9℃をキープしていました」
エコガラスの窓や壁内の厚いグラスウールが外の冷気が入り込むのをしっかり防いでいるようです。

N邸で多用されているサーキュレーターも、お父様のアドバイスでした。もっとも高いところで天井高約6mと大きな気積の空間で、室温のムラを抑える役割を担っています。

では、住まい手の体感は?

「入居前の12月に一度来ましたが、無暖房でも寒くなかった」と奥様。
この夏の空調は、起床後に一度窓を開けて換気ーその後リビングと寝室にあるエアコンのスイッチを入れて終日稼働ー夜は就寝後にスイッチが切れるようにタイマーをセットー起床、という流れだったそうです。

Nさんは「家ではいつも裸足ですが、床が冷たくないです。その反面、夏は少し熱がこもりやすい気がして… でも、一日中エアコンをつけているのはどうもね(笑)」

一般に、窓や壁など建物外皮の断熱性能を上げたいわゆる“高気密高断熱”の家では、真夏や厳冬期など暑さ寒さが厳しい季節は、全体の気密を保ちつつエアコンによる24時間空調を行うのが、体感的にも省エネ的にも良いとされています。

しかし、日本の伝統的住文化の一端である“窓を開けて風を通したい”意識は今も多くの人の心にあり、建物を閉じて24時間エアコンを稼働する暮らし方を「息苦しい、不自然」と感じる人も少なくありません。

そんなときは、自宅周囲の環境や実際の気温の状況をもう一度確認してみることをおすすめします。

例えば隣家の壁やエアコンの室外機が間近に迫るような住宅地では、真夏に窓を開けても入ってくるのは夜中も含めてほぼ熱気、となる場合も多いのではないでしょうか。
このような環境下では、盛夏の間はなるべく開けずに終日空調機器を活用し、秋や春などの中間期に心おきなく窓を開けるスタイルが、心身そしてエネルギー面においても快適といえそうです。

反対に周囲に緑が多く、近隣の建物同士が間隔をもって建っている土地では、真夏でもある程度気温が下がる夜間に窓を開けると、低い位置の開口から涼しい外気が室内に流れ込みます。これが高い位置の窓へと通り抜け、室内の熱気を外へと追い出してくれるのです。

自然の摂理を生かした換気で建物内を冷やすこの方法は“ナイトパージ”の名称で知られ、学校の校舎やオフィスビルでもしばしば取り入れられているもの。N邸でもリビングの窓から北の天窓への風の流れを考慮した設計がなされています。

家の断熱性能は単なる数値ではなく、気持ちよく暮らすためのもの。住まい手のライフスタイルに合わせて上手に活用したいものです。
ちなみにN邸では、季節を問わず朝は必ずすべての窓を開け「気持ちのいい外の空気を取り込んでいます」とのこと。
また、入居後の4月~6月は窓を閉めてエアコンをオフにした状態が「涼しくて快適だった」そうです。中間期であるとともに梅雨時の不快な湿気や熱気もエコガラスが遮断し、室内の心地よさを保ったのでしょう。

最後にNさんは“視線を通すものとしての窓”についてふれました。
「窓は採光するだけではない。外を見るためのものだと思うんです」

その大きさと開放感が魅力のリビング大開口は、一方で周囲に塀などがないためプライバシー面に不安があり、外から見られすぎないようにと今はほぼ終日ブラインドを引いている状態だといいます。

それでもNさんは「これからはどんどん開けていきたい」
窓の開く先には芝生の庭やお父様が丹精する豊かな植栽があり、N邸の敷地内でもっとも環境の良い場所です。「生かしたいですね」と小澤さんもうなずきました。
見られるのでなく見る、そして良き環境を住まいに取り込む…住まい手の小さな挑戦が始まります。

暮らし方や体感に合わせ、開閉し遮蔽し開け放つ。窓を使いこなすとは、家を住みこなし楽しく快適に暮らすために欠かせない要素のひとつなのかもしれません。

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リビングの大開口では、スプルース材と米ツガ材を使ったオリジナルの木サッシにエコガラスをはめ込んだ

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Nさんのお父様による入居前の温度計測は、エアコン使用前のいわゆる“素の状態”での建物断熱性能を示す指標のひとつにも

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吹き抜けや複数の室内窓など一室空間的な要素もあるN邸は気積が大きく、空調を行きわたらせるにはサーキュレーターやファンの活用が有効。2階居室の室内窓は主寝室・子ども室・サンルームまでリニアーに配置され、奥行き感もつくり出している

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リビングの窓辺から見上げた北の天窓。高低差のある立体的な開口が風の流れを生み出し、自然換気が行われる

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縦ブラインドが引かれたリビングの窓。うっすらと見えるお父様宅の庭木が、窓を額縁とした絵画のようだ

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「『天空の城ラピュタ』に出てくる、丘の上に建つ家の窓がイメージでした」と、“見るための窓”を語るNさんは、住まいのほど近くでコーヒー専門店を営むこだわりのバリスタ

取材日2019年9月11日
取材・文二階さちえ
撮影中谷正人
エコガラス