事例紹介/リフォーム

こだわりの窓がいっぱい。
シンプル&快適な低炭素住宅

茨城県・O邸

Profile Data
立地茨城県取手市
住宅形態木造軸組2階建
住まい手夫婦+子ども4人
建築面積124.35㎡
延床面積163.95㎡

今月の家を手がけた工務店:
(有)桂工務店
https://www.katsurakomuten.net/

流行りの一室空間はいらない。部屋ごとに独立する住まい

常磐線の藤代駅周辺は、かつて水戸街道の宿場町として栄えました。現在は小貝川の恵みを受けて広がる水田と、開発が進む住宅地とが共生する落ち着いたまちが広がります。

ここから少し離れた郊外に訪ねたO邸は、すっきりしたフォルムとモノトーンの色彩が印象的な建物。「箱のようにシンプルな家がいい、という夫の希望がありました」迎えてくれたOさんの言葉です。

設計と施工を担当した桂工務店の若林賢太郎さんにもご同席いただきました。同じ市内に事務所を構える若林さんいわく「このあたりは田んぼや畑の緑が多い土地。夏は少し暑いけれど冬は雪が降らず、強い風が吹くこともない、過ごしやすいところです」
そんな気候風土を踏まえ、さらに予算も勘案して、完全なゼロエネではない“最低限の最高断熱の家”をつくりました、と話します。

最低限といいつつ窓ガラスはすべてLow-Eガラス、床と壁の断熱材は100~200mm厚、天井は155mm厚。屋根には出力5kWの太陽光発電パネルが設置されました。

ダークブラウンの扉を開けてお邪魔した1階には、階段室を中心に南東側にLDKと水まわり、北西側に寝室や和室を配置。2階は3つの子ども室と納戸が並んでいます。

注目すべき特徴は、意図的に壁を多くして各スペースを独立させたことでしょう。昨今の家づくりで主流をなしている一室空間仕様とは反対の発想です。
「一体化させたくなくて、部屋ごとに分けました」Oさんの言葉どおり、リビングの床レベルは一段下げてダイニングと区別し、隣り合う和室との境界にも壁を設けて玄関ホールを経由する動線にしています。

さらに、北寄りに集められた水まわりと寝室は、LDKから室内扉を開けて一度廊下に出てから、ようやくたどり着けるようになっていました。

それでもOさんは「動線が良くて動きやすいです」とにっこり。
各スペースの用途を明快にし、使わないときには意図的に視界から消すことで、落ち着きを得たりプライバシーを守るという考え方もできます。先入観にとらわれず、住まい手の思いを尊重した計画といえるでしょう。

こだわりの窓がいっぱい。シンプル&快適な低炭素住宅-詳細写真02

黒色のガルバリウム鋼板と白色の塗り壁を組み合わせたモノトーンの外皮に包まれるO邸

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玄関は断熱ドアの脇に大きな窓を切り、明るさを確保している

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ダイニングから玄関ホールまでを見通す。向かって左がリビングで、テレビのある壁の向こうに和室。頭上には階段踊り場につながる吹抜が見える

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水まわりや主寝室への動線となる廊下は、室内ドアもつけてリビングダイニングから完全に切り離した。1階のほぼ中央にあたるため天窓で採光

こだわりの窓がいっぱい。シンプル&快適な低炭素住宅-詳細写真06

廊下の端部とトイレには縦横70cmほどの縦すべり出し窓を設置。隣家が近く、型ガラスを採用してプライバシーに配慮した

たくさんの窓で家のすみずみまで光を取り込む

O邸には大小合わせて27箇所の窓があります。

日本で一般的な引き違い窓は6箇所のみ。それ以外はすべり出し窓、FIXとすべり出しの複合窓、変わったところではフルオープンの窓もつけられました。すべり出し窓はその最大の特徴であるウインドキャッチ機能を見込んでの採用です。

キッチンや寝室、和室ではFIXとすべり出しを縦に重ねた細長いフォルムの窓が目を引きます。「横に広い開口が取れないもしくは取りたくない箇所で、上に伸ばすことで必要なだけの外光を確保しました」若林さんのアイディアです。

壁面に余裕のある子ども室は大きめのFIXとすべり出しを横に並べた複合窓に。太陽の光を豊かに取り込んであげたいという思いに加え、1階の軒の上部に出られる位置にあることから、安全性を考慮してすべり出し窓の幅を抑えたといいます。
「それでもやはり、出ていたようですけどね」とOさんが苦笑しました。

階段室まわりにも多くの開口部が取られています。
真上にふたつの窓を切り、上りきった踊り場にも幅約1.5m高さ約1mの窓をつけ、その下には階下とつながる吹抜をつくりました。バルコニーに出入りするドアにも、くもりガラスが張られています。
「この踊り場が好きなんです。明るくて広い感じがして、開放感があって」とOさん。

一般に、家の中央にある階段は開口が取りづらく暗くなりがちな面もあります。しかし子どもの成長を考え、Oさんはリビング階段を選びました。設計者は検討を重ねてたくさんの窓をつけ、住まい手お気に入りの場へと昇華させたのです。

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独立性を保つためアイランドタイプにしなかったというキッチンには、上部にFIX、下部にすべり出しを組み合わせた細長い窓

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南西を向く子ども室の窓は幅約1.5m高さ1m超の大きな開口

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すべり出し窓は内側に網戸をつけ、ハンドル開閉にして外の軒に出づらくしている

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上部を2面採光した階段室はとても明るい

わずかなエアコンで快適。今後は窓をより生かした室温管理も

O邸は『認定低炭素住宅』*です。「O邸だけでなく、当社で設計・施工する建物のほとんどは認定低炭素住宅と同等の断熱性能にしています。めざすUA値は0.53程度です」と若林さん。桂工務店では、もともとの基準を高く設定しているのです。

きっちりと断熱された建物外皮に加え、深い軒の出で南・西面からの日射を遮るこの家の夏は、冷房機器を使わず、すべり出し窓がつかまえて取り込む風で室温を調整しながら過ごすのが基本。
Oさんは「もっとも暑い時期以外エアコンは使いません。日射の熱も、寝室は西日で暑い時もありますが、それ以外はブラインドを使うこともとくに考えないです」

冬はリビングのエアコン1台のみを24時間稼働し、家全体を暖房します。設定温度は27度。子ども室のある2階は真冬も無暖房とし、ドアを開けて下階からのぼってくる暖気を取り込むだけといいます。
延床面積160㎡超の建物と考えれば、さすがの空調効率でしょう。

そんな中で気になるのが、家の真ん中にある吹抜です。

踊り場の一角から1階ダイニングに光を落とすこの吹抜には、採光以外にも狙いがありました。「重力換気ですね」と若林さん。
夏、下階の窓を開けると涼しい外気が取り込まれ、室内で暖められたところで吹抜を通って上階の窓へと流れます。自然の力を利用し、冷房機器に頼りすぎずに室内を快適に保つ方法です。

重力換気は外気温が室内より低いことが前提のため、隣家が間近に迫る都市の密集住宅地では難しいのが実情でもあります。
しかしO邸のように建物周辺に余裕があり緑も多いロケーションならば、とくに日没後は効果を発揮する可能性があるでしょう。

試しておられますかとOさんに尋ねると「…実は透明な板を吹抜に置いています」との答えが。ええっ? よく見ると窓開け時の足場として残した横木を使ってアクリル板が置かれ、光は通しつつも空気の流れは遮られていました。

聞けば、冬場に暖かさが抜けてしまって寒いからといいます。リビングの床には基礎断熱が施され、Low-Eガラスと高気密サッシの窓から隙間風が入るはずもないのですが、上に向かって暖かい空気の流れができるため、1階では足元が冷えるような感じがするかもしれません。

その一方で、夏は風が抜けきらずに暑い感覚もあるとのこと。少なくとも夏場は吹抜をふさがない方がいいかも、という気もしてきます。

季節や状況に応じて室内の温熱環境をよりよくコントロールするにはどうしたらいいのか。
床や天井の断熱材のように建物内部に組み込まれ済みのものと違い、窓の開け閉めのタイミングやブラインド・緑のカーテンといった外部遮蔽の設置・運用などは、まさに住まい手の腕の見せどころといえそうです。

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軒の出は1階部分が約60cm、2階は1.2mあり、夏の日中に日射が室内に入り込むことはほとんどない。西日の遮蔽を考えた袖壁が箱型のフォルムを強調。内部に雨樋を仕込むことで端正なファサードデザインを保った。ここは若林さんのこだわり

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リビングの床はダイニングから18cm下げられ、こぢんまりとした雰囲気が心地よい。上部に見えるエアコン1台で家じゅうの暖房をほぼまかなうと聞けば、O邸の断熱性能の高さがうかがえるだろう。フルオープンのテラス窓はOさんの希望

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2階踊り場の吹抜。透明の樹脂板が置かれ、3分の2ほどの面積で空気の流れが遮断されている

家づくりの過程で子育て+老後も考えるように

末のお子さんをあやしながら、Oさんは「今回の家づくりで住まいへの考え方が変わりました」と振り返ります。

「子どもが4人いる生活なので、はじめは子育てメインの家と考えていました。中二階に遊びのスペースをつくりたいと思ったり。でも、幼い時期は短いと気づいた時、子ども重視ではない家にしたいと思ったのです」

平屋以外の住宅では少数派に入るだろう“1階の主寝室”も「歳をとってからのことを考え、1階ですべてやれるようにと絶対条件にしました」とも。
そこに若林さんが「この寝室配置が全体の計画を決めるカナメになったんですよ…実は大変でした」とにわかに打ち明けたので、一同は思わず大笑い。

そう言いつつも若林さんは笑顔で「住まう人の希望をよく聞いて設計する、自分にとってあたりまえの仕事をしてうまくできあがった。うれしいことです」と続けました。

Oさんが「一番好きな場所」と挙げた、ホワイト&ブラウンの色彩で統一されたリビングで流れた時間は、施主と設計・施工者の穏やかな信頼関係そのものだったのかもしれません。

    *二酸化炭素の排出抑制を考慮した住宅。認定には、省エネ法の基準と比較して一次エネルギー消費量マイナス10%以上を実現するほか、建物外皮の高断熱化・木材の利用・節水型機器の採用・HEMSの導入など、いくつかの措置を講じることが求められる。認定されると所得税減税の対象になる

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網代天井の和室はゲストルームとしても使用予定。子どもたちが大きくなった後の夫婦の住まい方が想像できるようだ

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現時点ではキッズ仕様が色濃く出ている主寝室。前面道路に向く窓の外側には防犯対策のひとつとして砂利が敷かれている

取材日2019年4月24日
取材・文二階さちえ
撮影渡辺洋司(わたなべスタジオ)
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