常磐線の藤代駅周辺は、かつて水戸街道の宿場町として栄えました。現在は小貝川の恵みを受けて広がる水田と、開発が進む住宅地とが共生する落ち着いたまちが広がります。
ここから少し離れた郊外に訪ねたO邸は、すっきりしたフォルムとモノトーンの色彩が印象的な建物。「箱のようにシンプルな家がいい、という夫の希望がありました」迎えてくれたOさんの言葉です。
設計と施工を担当した桂工務店の若林賢太郎さんにもご同席いただきました。同じ市内に事務所を構える若林さんいわく「このあたりは田んぼや畑の緑が多い土地。夏は少し暑いけれど冬は雪が降らず、強い風が吹くこともない、過ごしやすいところです」
そんな気候風土を踏まえ、さらに予算も勘案して、完全なゼロエネではない“最低限の最高断熱の家”をつくりました、と話します。
最低限といいつつ窓ガラスはすべてLow-Eガラス、床と壁の断熱材は100~200mm厚、天井は155mm厚。屋根には出力5kWの太陽光発電パネルが設置されました。
ダークブラウンの扉を開けてお邪魔した1階には、階段室を中心に南東側にLDKと水まわり、北西側に寝室や和室を配置。2階は3つの子ども室と納戸が並んでいます。
注目すべき特徴は、意図的に壁を多くして各スペースを独立させたことでしょう。昨今の家づくりで主流をなしている一室空間仕様とは反対の発想です。
「一体化させたくなくて、部屋ごとに分けました」Oさんの言葉どおり、リビングの床レベルは一段下げてダイニングと区別し、隣り合う和室との境界にも壁を設けて玄関ホールを経由する動線にしています。
さらに、北寄りに集められた水まわりと寝室は、LDKから室内扉を開けて一度廊下に出てから、ようやくたどり着けるようになっていました。
それでもOさんは「動線が良くて動きやすいです」とにっこり。
各スペースの用途を明快にし、使わないときには意図的に視界から消すことで、落ち着きを得たりプライバシーを守るという考え方もできます。先入観にとらわれず、住まい手の思いを尊重した計画といえるでしょう。