2017年12月に竣工した家は、お隣にFさんが生まれ育ったご実家があります。盛岡市内のマンション住まいだったご夫妻は息子さんの学齢期を前に、いずれ帰郷したときにとご両親が空けておいたこの土地を新居と定めました。
ベースとなったのは「マンションでの暮らしから生活の質を落とさない」という思い。個別のスペースの広さや温熱環境を把握・検討することから家づくりは始まりました。
もうひとつの基準はシステムキッチンです。「まず、これを置くことでした」と奥様が振り返るお気に入りのアイランドキッチンは、この家の中心たるLDKのカナメ石となり、住まい全体の計画にまで影響する重要な役割を果たしました。
1階は、約18畳のLDKをエントランス・水まわり・階段室そして6畳の洋室がぐるりと取り囲むプランです。廊下をつくらずに平面を無駄なく使った設計で、中心に配置されたLDKからすべての空間に直接アクセスできるようになっています。
同時に、いわゆる一室空間とは違って建具や壁に存在感があり、LDKのみを完全に独立させることもできます。エントランスや階段室も、建具と壁で遮断が可能。帰宅した家族がLDKに足を踏み入れることなく、玄関から直接2階に上がれる動線がつくられているのです。
“家族の気配がわかって安心”と人気のあるリビング階段とは正反対の考え方ともいえるでしょう。
奥様に意を問うと「友達を連れてきたときに、リビングに入らないで自分の部屋に行けるようにしました。LDKが生活の中心なので、あまり見せたくないですから」。
お子さんへの信頼とともに、ご自身の暮らし方を大切にしようとする姿勢に、はっとしました。
階段室については、設計を担当した岩手ハウスサービスの海野玲子さんも「一番検討したところですね」と、同席いただいた岩手ハウスサービス社長・安藤敏樹さんと顔を見合わせてうなずきました。
流行や多数意見に流されず、家族の価値観やライフスタイルをきちんと見据えた住まい手の意思が伝わってくるようです。