事例紹介/リフォーム

暮らし方も性能も省エネも
あきらめずにすべて実現

岩手県・F邸

Profile Data
立地岩手県滝沢市
住宅形態木造軸組2階建
建築面積81.98㎡
延床面積139.12㎡

今月の家を手がけた建築家:
(有)岩手ハウスサービス
http://www.iwate-house.co.jp/

南部片富士の異名を持つ名峰・岩手山をのぞむ滝沢市は県都・盛岡市のベッドタウン的存在です。大学も3つあり、平成26年の市制移行前まで“日本一人口の多い村”として知られていました。真冬には気温マイナス5~6℃を記録する、東北らしい寒さもあります。
この土地に建つF邸はバリバリの高断熱高気密住宅。さあ訪ねてみましょう。

リビングは独立、玄関から直接2階へ。こだわりのプラン

2017年12月に竣工した家は、お隣にFさんが生まれ育ったご実家があります。盛岡市内のマンション住まいだったご夫妻は息子さんの学齢期を前に、いずれ帰郷したときにとご両親が空けておいたこの土地を新居と定めました。

ベースとなったのは「マンションでの暮らしから生活の質を落とさない」という思い。個別のスペースの広さや温熱環境を把握・検討することから家づくりは始まりました。
もうひとつの基準はシステムキッチンです。「まず、これを置くことでした」と奥様が振り返るお気に入りのアイランドキッチンは、この家の中心たるLDKのカナメ石となり、住まい全体の計画にまで影響する重要な役割を果たしました。

1階は、約18畳のLDKをエントランス・水まわり・階段室そして6畳の洋室がぐるりと取り囲むプランです。廊下をつくらずに平面を無駄なく使った設計で、中心に配置されたLDKからすべての空間に直接アクセスできるようになっています。
同時に、いわゆる一室空間とは違って建具や壁に存在感があり、LDKのみを完全に独立させることもできます。エントランスや階段室も、建具と壁で遮断が可能。帰宅した家族がLDKに足を踏み入れることなく、玄関から直接2階に上がれる動線がつくられているのです。

“家族の気配がわかって安心”と人気のあるリビング階段とは正反対の考え方ともいえるでしょう。
奥様に意を問うと「友達を連れてきたときに、リビングに入らないで自分の部屋に行けるようにしました。LDKが生活の中心なので、あまり見せたくないですから」。
お子さんへの信頼とともに、ご自身の暮らし方を大切にしようとする姿勢に、はっとしました。

階段室については、設計を担当した岩手ハウスサービスの海野玲子さんも「一番検討したところですね」と、同席いただいた岩手ハウスサービス社長・安藤敏樹さんと顔を見合わせてうなずきました。
流行や多数意見に流されず、家族の価値観やライフスタイルをきちんと見据えた住まい手の意思が伝わってくるようです。

暮らし方も性能も省エネもあきらめずにすべて実現-詳細写真02

ガルバリウム鋼板の外壁と玄関ポーチの格子フェンスが垂直を強調し、すらりと空に伸び上がる。南向き窓の庇の出は1、2階とも60cm

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アイランドキッチンを中心に構成されたリビング。今は一体化している奥の洋室は建具を引けば独立し、両親の同居といった将来の可能性に対応している。床材を転用した天井の意匠も目を引く

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廊下がなく、リビングに直接面する階段室と洗面脱衣室だが、引き戸で完全に遮断できる。階段はそのまま玄関にもつながっている

超高断熱の家! 秘密はトリプルエコガラスの窓と外張断熱

性能面はどうでしょうか。
岩手ハウスサービスによるF邸の各測定の値は

UA値:0.38W/㎡・K
C値:0.15c㎡/㎡

です。

改正省エネ基準では、滝沢市の地域区分*1は3地域でUA値*2は0.56W/㎡・K。F邸の値はそれを3割以上下回っています。
また気密性能を表すC値は、F邸全体の隙間面積が一般的なハガキの1/7程度であることを示しています。

この性能は主に、外張断熱工法と開口部断熱のふたつの技術で実現されました。

外壁はガルバリウム鋼板で、その内側に外張断熱としてウレタン系断熱材が張られています。柱や梁といった建物の構造を支える部材もまるごとくるむため断熱欠損が少なく、外の冷気や熱気が建物内に入り込みづらい仕組み。結露の発生も抑えられ、部材の傷みが少ないという特徴もあります。
さらに安藤さんは「屋根で断熱するから、小屋裏が使えて室内が広くなるんですよ」とも。天井裏に断熱材を入れる内断熱との違いは、こんなところにもあるようです。

並行して、徹底した窓の断熱・高性能化が図られました。

窓はすべて、樹脂サッシにトリプルタイプのアルゴンガス入りエコガラスを入れています。加えて、リビング南面の2箇所の掃き出し窓以外は気密性の高い横すべり出しもしくはFIX窓で、日本で一般的な引き違い型はほとんどありません。

暖房機器はエアコンのみです。冬場は「1階にある1台を24時間、設定温度22℃でかけています」と奥様。2階の寝室や子ども室にも設置していますが、冬に使ったことはないといいます。下階から上がる暖かい空気で十分なのでしょう。

海野さんは「設計時、吹き抜けのない住宅で、エアコン1台で本当にここまでの生活ができるかは、実は未知でした」と振り返り、よかったですとにっこり。横から安藤社長が「24時間稼働だと床も壁も天井も温度が安定するんですよ」と付け加えました。

厳冬期の電気料金は2万5千円ですが、F邸はオール電化住宅です。暖房のほかに給湯やキッチンのIHまで全部合わせた金額と聞けば、その省エネ性は推して知るべし。

夏場の空調は窓開けが中心です。南北方向の窓を開けて風を通せば気持ちよく過ごすことができ、エアコンを使うのは熱帯夜のときだけ。就寝前に寝室を閉め切って少し冷やし、スイッチをオフするそうです。

「5年後も10年後もこんな暮らし方をするには、やはり家自体の性能を重視しなければね」安藤社長の言葉です。

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1階洋室のトリプルエコガラス+樹脂サッシの窓。真北を向いているが、高さ約1m幅約1m30cmの大きな開口とし、リビングまで光を届けている。横すべり出し型の開閉について、気密性のほか「防犯面でも、人が入り込みづらいので安心です」と安藤社長

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階段室では97cm×78cmのくもりガラスFIX窓が切られ、壁に囲まれたスペースに光と開放感を与える

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主寝室には窓が4枚ある。どれも97cm×78cmで、1枚だけがFIX、ほかはすべり出しタイプで細かい開け閉めができる。西面では岩手山の眺望も

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2階の北半分を占める小屋裏収納のスペースを「どちらかといえば部屋として使いたいですね」とFさん。幅約1.7mのすべり出しとFIXの複合窓が西と北にひとつずつある。屋根断熱されているため居室同様に暖かく、一番低いところでも天井高さは1.5mと快適だ。「サッカーもできますよ(笑)」

打ち合わせ30回。徹底的に検討して好みの暮らしと性能を両立

「家の断熱性能を上げたかったら、窓をつけないことだ」という笑い話があります。四方が壁の住まいは実際には考えられませんが、開口部を小さくするのは現代の設計でも行われている手法です。

しかしF邸の居室に小さな窓は見当たりません。さらに「二面採光を基本に設計しています」と海野さんが言うとおり、LDKや寝室、2階の広い納戸も2方向から外光が入る明るい室内となっています。

リビングにふたつ並んだ掃き出し窓は、家じゅうでもっとも大きな開口。「部屋を明るく、そして庭先でのバーベキューや子どものプール遊びのときに道具を出し入れしやすいように」とのFさんの意向で、両方とも通常の引き違いにしました。
最近は気密性の高い片引き窓が採用されることも増えているリビングの掃き出し窓ですが、ここでは住まい手の使い勝手を優先しています。

西面にも比較的大きな窓が切られています。アイランドキッチンの背後、引き出しや吊り戸棚のある収納スペースには真西を向く幅広の窓がつけられました。西日の熱などはどうでしょうか。
奥様いわく「とくに気になりません。それよりも外の下屋で遊んでいる子どもの様子が見たいと思って、窓をつけてもらいました」ここでも住まい手の思いが尊重されています。
さらに、設計時は全面FIX仕様だったのを「風を通せるように」というFさんの希望ですべり出しとの複合タイプに変更されました。

この家ができるまでに、住まい手と設計者は計30回近い打ち合わせを重ねたといいます。そこには性能に関する話し合いももちろん入っていました。
「ハウスメーカーの人の説明に性能の話はなく、出てもあいまいに持ち帰られてしまいました。その場で言ってもらえる方がいいですね」
奥様の言葉に、創業以来妥協することなく高断熱高気密の住まいだけを設計施工してきた岩手ハウスサービスとの、良きコミュニケーションがうかがえました。

夢も性能も暮らし方も。青空にすっきりと建つシンプルな片流れ屋根の家には、大切な思いを簡単にあきらめない家づくりの極意が詰まっていました。

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高さ2m超幅約1.7mのリビング掃き出し窓。続く庭先でのバーベキューやプール遊び時の使い勝手を優先し、出入りが容易にできるよう通常の引き違いとした

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アイランドキッチン背後の窓はFIX+すべり出しの複合タイプ。屋根のかかった下屋を見下ろせ、遊ぶ子ども達に目が届く

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終始明快なFさんの受け答えに岩手ハウスサービスのふたりも笑顔がこぼれる。楽しいインタビューとなった

取材日2019年2月4日
取材・文二階さちえ
撮影渡辺洋司(わたなべスタジオ)
エコガラス