計画を進めるなかで「窓はとにかく明るく大きくつくってほしいと伝えました」とHさん。
風通しと日当たりがよく、開放的な家…この国で家を建てる人の多くが最初に思い描く願いでもあります。
設計を任された中島工務店の香田さんは、この希望を受け入つつ夫婦ふたりで暮らす“終の住処”の要素を重視し「生活のすべてが1階で成り立つようにしました」と振り返ります。
1階はLDKを中央に配置し、寝室や水まわりでぐるりと取り囲む廊下のないプラン。住まい手がもっとも長い時間を過ごす場所から、どこへでも移動しやすくなっています。
リビングには吹抜を設け、2階廊下の手すりごしに空間を共有しました。「上の書斎にいることも多い夫と、リビングから呼応しています」とHさん。
部屋の中央にかかる地元産マツ材の丸太梁は、誰の目をも釘付けにしてしまいます。「来る人はみんな、玄関から中を見上げて『いいなあ』っていうんですよ」と、昔から白木が大好きというご主人が顔をほころばせました。
いつか来るかもしれない介護を受ける生活を考慮し、寝室からウォークインクローゼット(WIC)を経由してトイレにアクセスできる動線もつくられました。ここからさらにキッチン、リビングとめぐり、寝室までの回遊ができるので、お孫さんが遊びに来るたび走り回っているといいます。
各スペースはL字型フォルムを基本とし、複雑に組み合わされて平面全体を構成しています。
「直接部屋の中央に面しない開口をつけて、そこからも光を取りたいと考えました」と香田さん。掃き出し窓や大きめの腰窓といったメイン開口以外に、少しずれた箇所からも採光する。そのことで室内に明るさだけでなく奥行きや陰影をも生み出すのが狙いでした。
寝室を兼ねた和室につくられた踏み込みは、その効果がよくわかる箇所のひとつでしょう。少し奥まっている窓は東からの自然光を取り込み、和の空間に柔らかな明るさを添えています。
アップライトピアノとエレクトーンが並ぶ趣味コーナーも同様です。リビングから玄関側に延びるこの空間には天井が張られ、建具なしでも独立した雰囲気を持っています。それでいて、奥に切られた窓はしっかり採光に貢献。L字型スペースの先端に開口を設ける手法がここにも採用されています。
2階には夫の書斎と、独立した子どもたちが孫を連れて帰省する際に使うフリースペース。リビング吹抜部分の両脇には小屋裏収納とバルコニーを配置し、東西に走る廊下を中央につけました。
フリースペースの建具は可動式で、全部外せば14畳の大きな部屋に変身します。梁の上部は小壁を作らず隣室とつなげており、屋根形状をそのまま映した勾配天井も手伝って、全体に一室空間のような雰囲気が感じられます。
玄関から内部を見通す。リビングの北側にDK、奥は和室を兼ねた寝室。リビングでは床座になることを考慮して少し低めにかけられた丸太梁が目を引く。東濃ひのきをふんだんに使った真壁造の壁には珪藻土を採用した。床もひのき材の節フローリング
寝室からトイレへの動線。左手のWICから勝手口前を抜けてトイレまで数mだ。トイレブースの面積は1坪近くあり、将来車椅子仕様に変更する可能性に配慮している。必要に応じて小便器を汚物洗浄用の流しに交換することも可能
奥に窓のある和室踏み込み。手前に置かれた鏡台ごしに柔らかな自然光が入り、陰影をつくり出す
玄関に隣り合ってリビングからL字型に拡張するピアノコーナーも、奥の東壁に窓がつけられた。採光とともに、夏は東西方向の卓越風を取り込んで室内に流す換気窓の役割も
2階へは段板や造作手すりの木目も美しいHさんこだわりの直階段で。踊り場近くの窓はインナーバルコニーに面し、夏場に開ければ家中に風が通る
2階フリースペースは鴨居や梁の上部に小壁をつけず、各室間や廊下の一体感を強めている。勾配天井には屋根の形がそのまま反映された