過去の既存オフィス改修事業ではほぼ例のない『ZEB』をめざした理由を、広報部の橋本尚子さんは「高いレベルに挑戦しようという思い、そして自らやってみなければお客様にお勧めできない、ということです」と話します。
将来発生する新たなビジネスも見据え、この改修を“自社のショールーム的役割をも担うネット・ゼロ・エネルギービルをつくる事業”に位置付けたともいえるでしょう。
計画に直接携わった竹中工務店東京本店の設計・ワークプレイス・技術・施工監理の各部署担当者は、週に一度の全体会議のほか、仕事の合間を見つけての小さな打ち合わせ、さらに改修後のオフィスで仕事をする東関東支店所属のワーカーを含めてのワークショップを積み重ねながら、改修工程を進めました。
工期は2015年10月~翌16年3月。期間中の平日つまり営業時間内に継続して施工する、居ながらできる改修の王道を行くやり方です。
サッシを残して窓の中身だけ入れ替える“ガラス交換”の手法が開口部断熱に選ばれたのは、実はこの工期にも関係しています。
設計部の田附岳夫さんいわく「サッシまで交換すれば工事に時間がかかります。寒い時期でもあり、吹きさらしの中で長い時間仕事をしてもらうわけにはいきませんから」
その一方で「既存サッシの溝に新しいガラスが合うかどうかで工事のやりやすさは変わるので、一般のビルオーナーさんにとってガラス交換はハードルは高いかもしれません」とも。
エコガラスへのガラス交換工事では溝幅に配慮したアタッチメントが用意されており、事前確認も可能です。
既存建築物のZEB化事業は、新築のそれと比べて圧倒的に少ない状況が続いています。しかも内容は照明・空調・給湯器等設備機器の交換による高効率化+太陽光発電パネル設置がほとんどで、東関東支店のように窓や壁、屋根といった建物の外皮にしっかり断熱を施すZEB化改修は少数派なのが現実です。
とくにテナントビルにとっては、投資回収期間が長い上にパッと見てその性能がわかりづらいガラスより、LEDや最新の空調機器を新設した方が顧客向けの大きなアピールポイントになるという一面もあるでしょう。
でも、と田附さん。「ある程度の年を経た建物は断熱性能がとても低いのです。だから外皮の高断熱化はやっていかないと… 快適性や健康面でも有効ですよ」
快適性や居住性では◯、けれどコスト面ではハネられる。技術的にこなれ、しかも比較的軽い工事ですむ照明や空調の交換と比較してコストも工期も重くなりがち…それが、ガラスを含めた外皮改修のひとつの特性かもしれません。
しかし建物自体のエネルギー負荷を抑制し、高いレベルでの省エネ化を標榜するZEBの概念から見れば、本来不可欠な要素ともいえるはずです。
取材を終えて外に出ると、傾きかけた陽を受けたアルミルーバーがこの日最後の輝きを放っていました。
少ないエネルギーで、働く人々の快適な環境を保ち、長く美しく使われ続けるオフィス建築。ネット・ゼロ・エネルギービルディングがめざす理想が、この小さな建物の中で確かに息づいている気がしました。